平成20年度 行政視察報告

 

須坂市議会福祉環境委員会

 

○ 視察先及び視察項目

  8月5日  長崎県大村市 市立大村市民病院  

○ 長崎地域医療連携ネットワーク

  「あじさいネットワーク」

  8月6日  佐賀県鳥栖市

      ○ うららトス21プラン(鳥栖市地域保健計画)

  8月7日  兵庫県加古川市 加古川地域保健医療情報センター

      ○ 加古川地域医療情報システム

 

○ 視察の目的と視察場所の選定理由

 1 長崎県大村市市立大村市民病院は、厚生労働省が推進する医療情報の共有化の取り組みを平成15年から始め、地域の中核病院として医療情報のIT化を進めてきている。須坂市でも県立須坂病院に「地域医療連携室」が設置されるなど、医療の地域連携の取組みが進められていることから、全国的にも先進的な市立大村市民病院の取組み等について研修する。

 2 佐賀県鳥栖市は、国が平成12年に策定した「健康日本21」を受け、平成13年度にいち早く地域保健計画(うららトス21プラン)を策定し、市民と市が一緒になって、健康な生活を実現するための取組みを行っている。須坂市でも平成16年度に策定され平成20年度から後期計画を進めているが、先進的な取り組みについて視察し参考にする。

 3 兵庫県加古川市加古川地域保健医療情報センターは、地域住民の健康を守り、より質の高い保健医療サービスの提供を目指し、地域住民の個人健康情報を一元化し、いつでも、誰でも、どこでも、良質な保健医療福祉サービスを受けられるように全国に先駆けて昭和63年から「地域保健医療情報システム」を構築していることから、「地域住民の健康を守り、支援していく」実態を研修する。

 

○ 長崎地域医療連携ネットワーク

  「あじさいネットワーク」

1 視察内容

   長崎地域医療連携ネットワーク、愛称「あじさいネットワーク」の取り組みを、長崎県大村市の市立大村市民病院で視察した。

   当日、「あじさいネットワーク」構築の中心的な役割を果たした市立大村市民病院 医療情報企画部部長・麻酔科医の柴田 真吾先生には、多忙な中にあって時間を割いて説明と質疑応答をしていただいた。

 

 (1) 特徴

   愛称の「あじさいネットワーク」はNPO法人長崎地域医療連携ネットワークシステム協議会が運営し、協議会には大村市医師会、諫早医師会、離島医療圏組合、市立大村市民病院、国立病院機構長崎医療センターの代表者で構成され、行政の支援は一切受けないで運用しているとの話だった。

   「あじさいネットワーク」は、国立病院機構長崎医療センター(大村市)と市立大村市民病院の2つの病院が中核となって、診療所も含めた61施設の医療機関が連携し、患者の医療情報を共有するシステムである。

   情報化のイメージは、長崎医療センターに電子カルテ参照サーバ、市立大村市民病院に画像サーバがあり、この2つの中核病院で持っている患者の医療情報を各診療所(かかりつけ医)からインターネットで閲覧できるシステムである。

  

  特徴1

   診療所(かかりつけ医)が参加しやすくするため、各医療機関にある既設のパソコンをそのまま使い、低予算で参加・運用できるシステムとなっている。導入時の初期投資で約6万6千円程度(VPN機器や専用ソフトウェア)、月額利用料が2千円。

 

  特徴2

   2つの中核病院が保有している患者の検査情報や診療情報(カルテ)を閲覧できるため、診療所にあっても先端医療機器(CT、MRIやRI検査)が有るような感覚で利用できる。

 

  特徴3

   診療情報、いわゆるカルテの開示は画像を含む全ての検査結果、処方や注射、手術や処置等の治療内容、入院・退院の記録、患者への説明内容等であるため、かかりつけ医は患者への詳細な説明、また検査や投薬の重複が避けられる事で、結果的に医療費が低減できる。

 

  特徴4 

   特徴3で説明した内容に関連して、地域全体の医療の質向上が期待できる。

  

  特徴5

   多くの医師が診療情報を見ることで、たとえば検査データと処方薬が異なっている事に気づく事例もあり、安全で高品質な医療の提供ができる。

 

 (2) 経過

   2002年(平成14年)9月  地域医療連携室(長崎医療センター)設置

   2003年(平成15年)5月  地域医療IT化検討委員会の立ち上げ

    (長崎医療センター、大村市民病院、大村市医師会、諫早医師会、離島医療圏組合の代表)

   2004年(平成16年)10月  「あじさいネットワーク」稼動

 

 (3) セキュリティ対策

   @ ネットワークシステムは、インターネット上に擬似的にトンネルを作り、暗

号化するVPN(Virtual Private Network)技術を利用。

   A 利用できる医師を限定し、研修を終了した場合にだけID・パスワードを交付。

   B 診療情報(カルテ)の閲覧は、患者が同意した場合のみ可能。

     患者本人から同意書を取る。(現在約5,400人弱の登録患者)

     また、必要がなくなったら、同意撤回書で参照を取りやめることができる。

     セキュリティ対策に関して、柴田先生が強調していたことは、慎重を期すことに執着して足踏みするより、むしろ、予算的に出来る範囲で運用面で安全対策をとる事が重要であるとしている。

 

2 視察の成果とまとめ

 「あじさいネットワーク」構築に当たって、病院や医師会の協力はもちろんのこと、強力に推進してきた市立大村市民病院の柴田真吾先生の情熱とシステムに精通していることが非常に大きな要素と感じた。

 今回の大村市民病院の視察で、患者が一番恩恵を受ける有効なシステムであると感じるとともに、将来は日本全国どこで受診しても自分の診療情報を確認でき安心、安全な医療の時代が来ることを願うものである。

 今年度、須坂市でも地域医療連携室が設置され、医療の地域連携を推進している中、もし須坂市で同じようなシステムを構築しようとした場合、大いに参考になる事例であると強く思った。

 特に、低予算で運用でき、あるレベルのセキュリティを確保した上で、閲覧だけを重視し、使う側のかかりつけ医が簡単に利用できる仕組みとした点が評価できる。

 ただし、同じシステムを須坂市で構築する場合に次の点をクリアする必要があると思われる。

1 運用主体をどうするか。

2 推進する中心者の情熱と、システムに対する理解度。

3 何よりも、かかりつけ医が医療情報を共有化したいとの要求があるか。

4 どれだけの診療所(かかりつけ医)がインターネットを利用できるか。

5 長野市や中野市にある中核病院と連携できるか。(将来的に)

 

 

○ うららトス21プラン(鳥栖市地域保健計画)

1 視察内容

1) 佐賀県鳥栖市は、佐賀県の東部に位置し、北からの玄界灘をさえぎる筑紫山系を背にし、南に筑後川の雄大な流れを有する丘陵地帯にある。古くから長崎道・鹿児島道の分岐点として人、もの、文化の交流の役割を担ってきたことから、近年においては、JR線、国道、更には高速自動車道が分岐する交通の要衝として、その利便性をセールスポイントに積極的な企業誘致を推進し、九州有数の内陸工業都市として発展を続けている。

    人口は66,058人(平成20年4月現在)、高齢化率18.8%、出生率10.7で比較的若い人口構成で、出生率は県内一、人口は毎年増加傾向にある。

2) 「うららトス21プラン」は、第5次鳥栖市総合計画(ハートオブ九州21鳥栖プラン)を基本に「鳥栖市エンゼルプラン」、「鳥栖市老人保健福祉計画」、更には、「佐賀県健康プラン」、平成12年に策定された国の「健康日本21」「健やか親子21」などと連携を図りながら進められている。

3) 「うららトス21プラン」策定の趣旨は、鳥栖市に住む一人ひとりが、健康な生活を実現するための道標となるために、市民と市が一緒になって、「生涯いきいきと暮らすために大切なこと」を話し合い、めざす姿を描き、その実現に向かって行政だけでなく、関係機関や関係団体が支援していくヘルスプロモーションを理念としている。

   そして、市民一人ひとりが明るく元気に、満足のできる状態で暮らし、笑顔あふれるうららかな鳥栖市につながっていくことを目指している。

4) 計画の概要

  @ 計画の期間

平成14年度を初年度として、平成22年度を目標とする9カ年計画

  A うららかな人づくり、街づくりに向けての指針

   ○鳥栖市のめざす姿

笑顔と元気あふれる明るい鳥栖市

     空が晴れて陽がやわらかく照っているのどかな鳥栖市

   ○鳥栖市民のめざすもの

     私たち一人ひとりが満足したよい状態で自分らしく生きている、豊かなふれあいの中、明るく楽しく生活している

     ・幼児期のめざす姿  子どもは十分な愛情で、心も身体も健やかに育つ

                親は家族や地域の温かい環境の中でのびのびと子育てができる

                しあわせな妊娠、出産を迎えられる

     ・思春期のめざす姿  自信と希望を持ち、生きる力を育む

                自分や周りの人を大切にして、楽しく元気に生活できる

                成長の基礎となる丈夫な体づくりができる

     ・成人のめざす姿   すこやかで心豊かな人生をおくる

                適切な生活習慣で毎日を楽しく過ごす

  B 年度別の重点項目の設定

   平成18年度までの各発達段階における重点項目を設定して、市民自身が取り組むこと、関係機関が取り組むこと、市が取り組むことを明示している。最終的には平成22年の目標値を設定している。

  C 計画の推進体制

   プランを市民一人一人に普及し、実践を図るために保健推進員を養成し、組織の育成を図り、保健師、栄養士等の専門職員の確保に努める。そして、乳幼児から成人、高齢者までの個々に適した保健サービスの提供をはかり、健康づくり推進協議会において評価しながら目標達成をめざして推進していく。

5) 平成18年度までの中間評価

  @ 計画策定時の評価指標に基づいて乳幼児、成人等を対象に8領域79項目についてアンケートを実施した。また、関係機関・団体についてはそれぞれの活動について評価した。

  A 評価結果、環境の変化に基づくプランの見直し

  B 今後の関係機関・団体、市役所関係各課の取組みの検討

6) 今後の方向性

  今後の4年間は、「市民は、自分ができる身近なことを積極的に実行します。関係機関・団体や市は、お互いの連携を強化し、健康づくりを支援します。」を基本に、めざす姿の実現を図る。

  @ 乳幼児 ― 生活のリズムの基本になる朝食を食べ規則正しい生活習慣で、地域や関係機関・団体がサポートし、安心して楽しく子育てができるように取り組む。

  A 思春期 ― 身体の基礎ができるこの時期は、成長に必要な食事をすることが大切。また、子どもを取り巻く環境はストレスを感じることが多いため、子どもが自分に自信を持ち、夢や希望に向かって生活できるように、地域や関係機関・団体が連携を取り支援する。

  B 成人  ― 正しい食生活と日常生活の中で適度な運動をしながら、毎日を心豊かに過ごせるよう取り組む。

 

2 視察の成果とまとめ

1) 鳥栖市ではこの計画策定にあたって4世代(成人、乳幼児、小学生、中学生)からアンケート調査を行って、その結果に基づいて市民代表の33名が「母子計画」「成人計画」の2つのワーキンググループに専門家を交えて計画を作り上げている。いわゆる市民の手作りの、市民のための保健計画といえるものである。

2) さらに、市内の様々な関係団体や関係機関が健康づくりとしてできることを計画としてあげている。当然市役所も健康管理部門だけで関係する全ての部署がこの計画に参加している。

3) 計画に対する評価数値(目標数値)を明確にして、途中に中間評価をしながら計画の見直しもしている。

4) 市民の推進組織としてワーキンググループのメンバーを核とした「保健推進員」が組織化され、その取り組みが年を追うごとに「食」や「運動」といった専門部会の設立へと発展してきていることは注目すべき活動である。

5) 計画の内容は、人の発達段階を「乳幼児期」「思春期」「成人」の3段階に分け、食生活や保健・医療の課題だけではなく、「性」といった分野まで項目として捉えている点は、取り入れなければならない課題だと思う。

6) 啓発資料(ダイジェスト版)もスゴロク方式で漫画チックな技法により、計画の達成目標が分かりやすく作成されており、まさに乳幼児から高齢者まで親しめる工夫がされている点は大変参考になった。

 

○ 加古川地域医療情報システム

1 視察内容

  加古川地域一市二町(加古川市、加古郡稲美町、播磨町)、人口約33万4千人。兵

庫県立加古川病院をはじめ4基幹病院と200の医療機関で構成されており、現在118

医療機関でシステム運用がされている。

 

(1) 加古川地域保健医療情報システムとは

 加古川地域保健医療情報システムの目的は、コンピュータやICカード(カインドカード)を使って、今後の高齢化社会に対してみなさんの健康づくりを支援している。

  加古川市、稲美町、播磨町では加古川市・加古郡医師会などの関係機関と協力して、このシステムづくりを進めてきた結果、地域のみなさんに幅広く参加、利用していただくことができるようになり、参画医療機関と登録者(システム同意者数:約7万5千名、ICカード発行枚数:約4万7千枚)と、増えている。

  このシステムに同意し、申込みすると、健診や検査の結果、病名や処方された薬などの診療に必要な情報を蓄え、病院や診療所にかかったときに「いつでも、どこでも、誰でも」安心して適切な医療サービスを受けられるようになる。

  当然のことながらセキュリティに配慮され、大切なデータは、診療の場合や緊急・

救急時以外には利用されず、その取り扱いや、個人情報については厳重な保護がされている。

 

(2) システム体系

 @ 検査健診システム 

A ICカードシステム 

B 診療所支援システム

 C 画像情報システム 

D 情報提供システム  

E 保健システム

 F 主治医意見書作成支援システム がある。

 

 (3) システム概要

@ 検査健診システム

  検査・健診データのオンラインシステムの目的は、各医療機関における個人の健康に関するデータの共同利用と医療機関の間でのネットワークの根幹である病診連携機能を充実させ、疾病の早期発見・早期治療や、健診の受診率向上など、より一層の健康度アップであり、医療機関や保健センター所有の検査・健診データを中心に、情報センターに個人の様々なデータを蓄積し、継続的・時系列に検索、表示が可能なシステムとなっている。

  具体的には、保健センターに集約された各種住民健診時のデータと医療機関にかかった時の検査データの個人ごとの一元管理機能と、4つの臨床検査部門を持つ基幹病院と保健センターとの精度管理と標準化された検査データベースの構築の確立にある。

 

A ICカードシステム

  ICカード(KINDカード)は、システムで集約される個人の保健医療の情報が記録された、いわば携帯用カルテであり、そのカードには個人の基本データや診療データなどの個人情報が管理されるため、その管理には十分な配慮が必要とされる。そのため、システムでは、様々なICカードがある中で、

  a 複数の暗号機能によりセキュリティ性を確保。

  b ボリュームのある保健医療情報を管理する大容量記憶領域をもち、高速通信が可能。

  c 基本情報を核とし、診療情報が柔軟に管理できるファイル管理機能をもっている。

  d 複数のアプリケーションの登録が可能で、その他住民サービス情報など将来追加が可能である。

    などの優れたデータ管理能力をもつコンビ型ICカードを採用している。

 

B 診療所支援システム

  診療所支援システムは、診療所に設置された端末とネットワーク環境の有効利用

 とICカードの併用により、それぞれの利点を組み合わせ、診療所における業務を

幅広く支援しようとするものである。加古川地域において、各々の医療機関に分散

している個人の保健医療データを集約し、病歴や検査歴を含むトータルな診療支援

システムである。

 

C 画像情報システム

  画像情報システムでは、疾病の早期発見・早期治療を中心に据えたプライマリ・ケアの充実、病診・診診連携を目的として、各医療機関で発生する検査画像について、入力・蓄積・参照の3つの基本機能に関して、地域内共通で使うことのできるインターフェイスを開発し、提供している。

 この画像情報システムは、

  a 画像データの効率的な管理(画像データは分散管理、画像の履歴・所在情報は集中管理)

  b 数値系システムとの融合(住民に関するデータベース(PHD)を統一し、検査・健診など数値情報と同様にひとつの検査結果として扱える。)

  c 地域内における画像の共通利用(他医療機関の画像参照、読影依頼等)

などの特徴をもっている。

 

D 情報提供システム

  近年の情報処理や通信技術の急速な発展は、音声、画像情報などの複合的な情報

の取り扱いや編集を自由に行うことを可能にし、システムにおけるネットワークの

通信プロトコルは既にTCP/IP化され、インターネットプラットフォームに準

拠したネットワークを構築している。

 これら端末環境とネットワーク資源及び最新の情報技術をより有効に活用した

マルチメディアネットワークシステムを構築することで、保健医療福祉などの各関

係機関の機能連携及び情報交換並びに関連した地域外との情報の受発信などを

行って保健医療福祉サービスを効率的に支援し、有効な情報を迅速かつ的確に提供

支援できるシステムが完成している。

 情報提供システムは、総合的な保健医療情報システム拡充の一環として、外部と

の情報の受発信をインターネットを通じて行い、迅速な情報収集、円滑なコミュニ

ケーションなどに活用する一方で、当地域における保健医療などの成果を世界に向

けて情報発信するため整備されている。

 

E 保健システム

 保健システムは、一市二町で実施されている各種保健事業の中で蓄積される保健

に関する情報を、検査・健診システムと連携を図りながらデータベース化し、各関

係機関が個々人の状況に見合った体系的な保健指導や継続的な健康支援を行うた

めのシステムであり、保健行政の最終目標である疾病の予防、早期発見及び健康増

進に到達するためのツールとして、各種健診データや保健師活動情報などを対象に

順次構築している。

 この保健システムは、乳幼児を対象とした保健(母子)システム、成人を対象と

した保健(成人)システムで構成されている。

 

F 主治医意見書作成支援システム

 介護保険制度では、要介護認定申請により介護認定審査会が開催され、要介護認

定と要介護区分が決定される。このとき、心身の障害の原因となっている病気や負

傷に関する意見として「主治医意見書」が必要となる。

 介護保険者(行政)からの「主治医意見書」作成依頼に基づき、「主治医意見書」

の作成データを受信から作成及び送信(提出)までのプロセスを地域医療情報シス

テムのネットワークを利用して支援するものである。

 オンラインによるデータ送受信のため、郵送が不要で文字が見やすく、スムーズ

な介護認定審査会が行われている。

 

2 視察の成果とまとめ

  地域医療連携構築のうえで欠かせないのが、コンピュータネットワークを中心とした情報共有である。地域住民のPHDを一元化することをきっかけとして医療費抑制、住民の健康づくりに活かせるのではないか。

  しかし、膨大な開発・運営費用(現在までに約33億円)を考えると、須高3市町村では負担が大きすぎることから、広域連合での取り組みが必要になる。

 

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