○送信したニュースレター2017年(No.99〜116)


ニュースレターNo.116(2017年12月17日送信)

長野県の新総合5か年計画が掲げる地域産業振興に係る政策理念の課題
〜イノベーティブな「『貢献』と『自立』の経済構造への転換」から古典的、
従来的な「産業の生産性の高い県づくり」への後退は何を意味するのか〜

【はじめに】
〇「『貢献』と『自立』の経済構造への転換」とは、長野県の地域産業が、新製
品・新サービスの創出・提供を通して、地域の枠を超えて、グローバルな規模で、
社会や産業の重要課題を解決し、社会や産業の質的高度化に貢献して、国際競争
力を有する産業へと転換していくことを意味している。(知事自身が、産業イノ
ベーション推進本部会議の場で、同様の主旨の説明をしている。)
 社会や産業が抱える課題の解決と、長野県産業の発展とを整合させるという高
度な政策理念が、他県等に比して先進性・優位性を有していたのである。

〇これに対して、「産業の生産性の高い県づくり」とは、生産のために投入され
る労働・資本等の生産要素が生産に貢献する程度(「生産量」÷「生産要素の投
入量」)が大きい県づくりを目指すというものである。いわば、効率化を重視し
た政策理念と言える。
 産業イノベーションの創出によって、産業の社会貢献と経済的成長との整合を
目指す、長野県中小企業振興条例の精神を、どこかに置き忘れたかのような政策
理念の提示になっているのである。

【「Society5.0」の一歩先を目指すとの主張とのあまりに大きな落差】
〇原案では、「産業の生産性の高い県づくり」においては、Society5.0をめぐる
構造変化の一歩先を行く発想を持って取り組む旨が記載されている。Society5.0
とは何であるのかを良く理解していれば、「生産性」ではなく、少なくとも「産
業イノベーションの創出」のような、新たな付加価値の創出を志向した、よりイ
ノベーティブな用語(キャッチフレーズ)を用いたことだろう。

〇長野県の現計画の「『貢献』と『自立』の経済構造への転換」という政策理念
の具現化を目指す活動は、Society5.0という国が目指す姿の実現への活動と整合
していることについては、既に、ニュースレターNo.90(長野県の地域産業政策
におけるSociety5.0の位置づけ〜長野県版Society5.0形成への議論活性化の「仕
掛け」づくりの重要性〜 2016.8.10送信)で解説している。

〇Society5.0とは、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く、今後日本
が形成を目指すべき新たな経済社会のことで、以下の様に定義されている。

@「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合」させることにより、
A地域、年齢、性別、言語等による格差なく、多様なニーズ、潜在的なニーズに
きめ細かに対応したモノやサービスを提供することで、「経済的発展と社会的課
題の解決を両立」し、
B人々が「快適で活力に満ちた質の高い生活」を送ることのできる人間中心の社会

○このSociety5.0という目指す姿の実現への活動は、正に、従来からの長野県の
地域産業振興に係る活動と整合するものである。なぜならば、長野県の地域産業
振興に係る中心的な政策理念は、Society5.0が目指す「経済発展と社会的課題の
解決の両立」と同義の、「『貢献』と『自立』の経済構造への転換」(長野県総
合5か年計画)であり、「『質的に豊かな県民生活』と『市場競争力を有する地域
産業』の実現」(長野県科学技術振興指針)であるからである。

○また、長野県の中小企業振興条例では、産業イノベーションの創出を「新たな
製品又はサービスの開発等を通じて新たな価値を生み出し、経済社会の大きな変
化を創出すること」と定義し、産業イノベーションの創出に資する施策の策定・
実施を「県の責務」として規定しているのである。
 この産業イノベーション創出の定義も、Society5.0が目指す「経済発展と社会
的課題の解決の両立」と同義と言えるのである。

〇原案は、地域産業振興に係る、従来からの長野県の先進性・優位性のある政策
理念を簡単に捨て去り、単なる生産性の向上を超えて、「経済的発展と社会的課
題の解決を両立」し、人々が「快適で活力に満ちた質の高い生活」を送ることの
できる人間中心社会の形成に資するという視点からの、新たな「政策的仕掛け」
(目指す姿実現へのシナリオ・プログラム)を提示できないでいるのである。

【「産業の生産性の高い県」具現化へのシナリオ・プログラムの課題】
〇原案の総括的な目指す姿は、「確かな暮らしが営まれる美しい信州」であり、
その各論的な目指す姿の1つとして「産業の生産性の高い県」が位置づけられてい
る。

そして、その実現のための5つのシナリオの第1「革新力に富んだ産業の創出・育
成」の推進のためのプログラムとしては、「成長産業の創出・集積」、「技術革
新を活かした生産性の向上」、「起業・スタートアップへの支援」の3つの施策が
提示されている。
 しかし、全ての施策が、単なる既存事業の提示であって、長野県らしい、長野
県でなければできない、新たな「政策的仕掛け」と言えるものは何も提示されて
いない。新総合5か年計画ならではの、政策的な「創意工夫」がアピールできてい
ないのである。

〇それは、どうしてなのか。そもそも実現を目指す姿が「産業の生産性の高い県」
という、非常に「古典的」、「従来的」なものであるため、その実現のためのシ
ナリオ・プログラムの検討作業においても、「古典的」、「従来的」な発想の域
を脱することができず、イノベーティブな議論が生まれにくかったことが理由で
はないのかと推測できるのである。

【むすびに】
〇原案の通り、地域産業振興に係る政策理念が「産業の生産性の高い県づくり」
であれば、多くの産学官の関係者は、このキャッチフレーズを見ただけで、その
内容について、新規性や独創性を感じることができず、更に深く読み込もうとい
う意欲を持ちにくいのではないだろうか。
 すなわち、到底、わくわくした気持ちで読むということにはならないというこ
とである。

〇長野県の地域産業政策が、従来から、全般的にあまりにキャッチフレーズ的過
ぎて、論理性や戦略性に欠けると強く批判してきた者としても、今回だけは、あ
の「政策的キャッチフレーズのセンスの良さ」を取り戻して欲しいと言いたいく
らいの気持ちなのである。


ニュースレターNo.115(2017年11月14日送信)

長野県が本当に「日本一創業しやすい県」になるために

【はじめに】
○インターネットで、「日本一創業しやすい県」を検索すると、第1番目に長野県
のホームページ上の「長野県で創業する方を応援します!」がヒットする。
 そこには、「長野県では、『日本一創業しやすい県づくり』を目指し、相談窓口
での相談・助言、ホームページやFacebook等による創業支援策などの情報提供、各
種創業セミナーの開催、地域の支援機関と連携による支援を行っています。」と記
載されている。

〇しかし、残念ながら、そこでは、「日本一創業しやすい県づくり」を目指すとし
ながら、どのような長野県の姿を目指すのか、その姿を実現するために、県として、
他県等に比して優位性や独創性を有する、どのような創業支援施策を企画・実施化
しようとしているのか、などについては全く触れられていないのである。どこの県
でも普通に提供されている、ありふれた支援施策がただ列挙されているだけなので
ある。

○長野県が、本気で、「日本一創業しやすい県づくり」を目指すのであれば(5年
間以上もそう言い続け、今後も言い続けていきたいのであれば)、例えば、日本一
創業しやすい都市として、既に一定の評価を得ている福岡市と同程度の創業支援施
策の整備に、実際に取り組むことを先にすべきというのが、地域産業振興に係る産
学官の関係者の本音ではないだろうか。

〇長野県は、単なるキャッチフレーズ的に「日本一」を提唱する創業促進戦略から、
本当に「日本一」を実現できると、産学官の関係者が論理的に納得できる、創業促
進戦略(ビジョン・シナリオ・プログラム)を、そろそろ提示すべき時期ではない
のだろうか。

○そこで今回は、現在、産業イノベーション創出活動の活性化を目指す、次期「長
野県ものづくり産業振興戦略プラン」の策定作業が進められていることから、同プ
ランが、創業促進施策においても、他県等に比して優位性を有することができるよ
う、産業イノベーション創出型の創業支援の在り方について議論してみることにし
た次第である。

※参考
 長野県中小企業振興条例での産業イノベーション創出の定義は、「新たな製品又
はサービスの開発等を通じて新たな価値を生み出し、経済社会の大きな変化を創出
することをいう。」であり、「経済社会の大きな変化を創出すること」とは、「経
済社会が抱える重要課題の解決に貢献すること」と言い換えることができるのである。

【福岡市の「『グローバル創業都市・福岡』ビジョン」における創業促進戦略の概要】
○「『グローバル創業都市・福岡』ビジョン」においては、まず、創業が重要な理
由を以下の3点にまとめて、分かりやすく説明している。
@創業により、時代の変化に対応した革新的な商品やサービス(イノベーション)
が生まれ、その新たな付加価値がついた商品やサービスは、人々の生活をより豊か
にし、経済を大きく動かしていくこと
※福岡市が、政策的に促進を目指す創業とは、長野県中小企業振興条例が定義する
産業イノベーションの創出を目的とする創業と本質的に同じであることを説明して
いる。

A創業により、新たな仕事が生み出され、雇用の機会が増大すること

B創業企業のアイディアを既存企業が活用することで、双方の成長が実現すること

〇そして、福岡市が実現を目指す「グローバル創業都市・福岡」の都市像を、以下
の3つにまとめて提示しているのである。
@創業を促し、再チャレンジを応援する仕組みを持つ都市
※都市像@の概要
 創業を志す人がビジネスを立ち上げ成長するまでの過程を、創業経験者のネット
ワークや資金提供者等の様々な主体が、創業段階に応じてきめ細やかに支援する。
 創業を支援する人々の輪(創業応援コミュニティ)が厚みを増し、連携して様々
な場面で創業を応援することにより、創業が次々と生まれ続け、失敗してもコミュ
ニティの中で再チャレンジできる仕組み(エコシステム)を有する。

Aビジネスが世界と容易につながる自由都市
※都市像Aの概要
 福岡に来れば、様々な事業がすぐにグローバル市場につながり、だれでも容易に
世界でチャレンジできるような、交流・交易ができる環境が整っている。
 地元企業が世界で活躍するとともに、国内外から企業が集まり、新たなビジネス
やイノベーションが生まれ、創業都市として福岡市の存在感が高まっている。

Bグローバルビジネスを呼び込む高機能都市
※都市像Bの概要
 世界で活躍する企業やグローバル人材をひきつける高度で創造的なビジネス環境
が整っている。
 グローバル人材にとって働きやすく暮らしやすい環境の中で、その能力が存分に
発揮され、それが地域経済の活性化につながっている。

〇以上の@からBの3つの都市像の内、長野県が目指すべき「日本一創業しやすい
県」という県の姿に相当しうる、@の都市像「創業を促し、再チャレンジを応援す
る仕組みを持つ都市」を実現するために、福岡市は、以下の3つの戦略を提示して
いる。
戦略1 チャレンジする人材を育てる
※戦略1の概要
 小中学校でチャレンジの芽を育て、あらゆる年齢層で創業への関心を高め、実際
にチャレンジできる場をつくり、グローバルな活動を応援する各種施策を提供する。

戦略2 創業の生態系をつくる(創業応援コミュニティ形成・創業段階に応じたサ
ポート機能充実)
※戦略2の概要
 創業者や創業応援者の交流拠点「スタートアップカフェ」を核として、創業者の
多様なニーズに専門的かつワンストップで応え、資金やオフィスを提供し、必要な
人材の確保・連携も支援し、販路拡大、再チャレンジ等にも貢献できる「仕組み」
を構築・提供する。
 地域(産学官金)における創業支援を充実させ、創業者を応援する輪を広げ、イ
ノベーション(アイディア実現)を促進する。

※現在策定中の次期「長野県ものづくり産業振興戦略プラン」において形成を目指
す、「信州型産業イノベーション・エコシステム」は、正にこの「創業の生態系」
を内包することが可能なのである。

戦略3 創業の大きな成長モデルをつくる
※戦略3の概要
 創業企業が大きく育つことにより、地域経済への貢献度が高まり、好循環がうま
れるため、既存企業と創業企業の連携による成長モデル、福岡発のグローバルな創
業企業の成長モデル、地域の強み(技術シーズの蓄積等)を活かした成長モデル等
の創出に取り組む。

〇Aの都市像「ビジネスが世界と容易につながる自由都市」を実現するために、以
下の2つの戦略を提示している。
戦略4 MICEイノベーション創出環境をつくる
※戦略4の概要
 MICE開催地としての福岡市の魅力を高め、ビジネスイベントを増やすとともに、
そこに集まる海外からの企業や人材と地元企業等が出会い・交流することを通じて、
新たなビジネスイノベーションを創出する。

※MICE:多くの集客交流が見込まれるビジネスイベントの総称。
 企業等の会議(meeting)、企業等が行う報奨・研修旅行(incentive travel)、
国際団体、学会等が行う国際会議(convention)、展示会・見本市等
(exhibition/event)

戦略5 世界とつながるビジネスを集積する
※戦略5の概要
 外国企業とグローバル人材の福岡進出、地元企業の海外事業活動への支援に重点
的に取り組み、海外とのネットワークの強化など、グローバルにビジネスを行う環
境の進展を図る。

〇Bの都市像「グローバルビジネスを呼び込む高機能都市」を実現するために、以
下の2つの戦略を提示している。

戦略6 グローバル人材が住みやすい生活環境をつくる
※戦略6の概要
 グローバルビジネスの担い手を福岡市に呼び込むために、その家族を含めた暮ら
しの利便性、医療環境、教育環境等を整えるなどの支援を行う。
 生活習慣等の文化の違いから生じる無用な行き違いを防ぐため、文化の相互理解
の促進に取り組む。

戦略7 世界で活躍する企業や人材を引き付けるビジネス環境をつくる
※戦略7の概要
 チャレンジしたい人と企業、グローバル企業等が集まる都市とするため、特に、
創造的なビジネス環境(ICT利用環境、交通アクセス機能、出会いと交流を促す魅力
的な都市空間など)を創出する基盤整備に取り組む。

【福岡市の創業促進戦略が、長野県に対して圧倒的優位性を有する根本的理由】
○福岡市の創業促進戦略の長野県に対する圧倒的で根本的な優位性は、同市が実現
を目指す、創業を促進する都市像を、具体的かつ明確に提示していることにある。
 長野県の場合は、キャッチフレーズ的に「日本一創業しやすい県づくり」を目指
すと宣言しながら、長野県が実現を目指す「日本一創業しやすい県」とは、どのよ
うな県なのか、その具体像を提示できない(提示しようともしない)ままに、5年以
上もの年月を過ごしてきてしまっているのである。

〇「日本一創業しやすい県」とは、どのような優位性を有する、創業促進に資する
「政策的仕掛け」を有する県なのか。それをまず提示しなければ、「日本一創業し
やすい県づくり」に戦略的に取り組めないことが、残念ながら、県組織においては
良く理解されていなことが窺えるのである。

【むすびに:長野県の創業促進戦略を論理的体系・構成に改善するためのポイント】
○いずれにしても、長野県が実現を目指す「日本一創業しやすい県」とは、どのよ
うな県なのか。その具体像(定義)を提示し、関係の産学官金の間でのコンセンサ
スを得ることから取り組むことが必要となる。
 その具体像が、長野県の創業促進戦略の基本的体系・構成となる、ビジョン・シ
ナリオ・プログラムの中のビジョン(目指す姿)に位置づけられるのである。

〇そのビジョン(目指す姿)の設定ができて初めて、そのビジョン実現への道筋
(シナリオ)とそのシナリオの着実かつ効果的な推進のために必要な各種施策(プ
ログラム)について議論できるようになるのである。
 そのことを、長野県の創業促進戦略の策定担当部署の皆様には、良く理解してい
ただきたいのである。その理解なくして、次期「長野県ものづくり産業振興戦略プ
ラン」の創業促進戦略に係る部分が、単なるキャッチフレーズから脱却し、他県等
に比して真に優位性を有するレベルに到達することはできないのである。


ニュースレターNo.114(2017年10月27日送信)

産業イノベーション創出活動への支援施策の中核的推進拠点の在り方について
〜次期「長野県ものづくり産業振興戦略プラン」の検討部会での議論から〜

【はじめに】
○長野県は、現在、次期「長野県ものづくり産業振興戦略プラン」(計画期間:平成
30〜34年度)(以下、「次期計画」という。)策定のための検討部会(公開)を設置
して、今年度中の策定を目指している。
 そして、次期計画の「目指す姿」を「産業イノベーションの創出に向けて、積極果
敢にチャレンジするものづくり産業の集積」として設定し、その実現のためのシナリ
オについては、第1シナリオとして「県内各地域における国際競争力を有する次世代
産業クラスターの形成」と、第2シナリオとして「産業イノベーション創出活動を活
性化するための新たな政策的仕掛け(システム)の形成」を提示している。
※産業イノベーション創出の定義(長野県中小企業振興条例):新たな製品又はサー
ビスの開発等を通じて新たな価値を生み出し、経済社会の大きな変化を創出すること。
 なお、「経済社会の大きな変化を創出すること」とは、「現在の経済社会が抱える
様々な課題の解決に貢献すること」と説明されている。

〇平成29年8月1日に開催された「第4回次期計画検討部会」の議事録(県ホームペー
ジで公開)で明らかなように、同検討部会では、第2シナリオの「産業イノベーショ
ン創出活動を活性化するための新たな政策的仕掛け(システム)の形成」のための、
産業イノベーション創出活動への支援施策の中核的推進拠点(以下、「産業イノベー
ション拠点」という。)の在り方について活発に議論された。

○そして、そこでの議論を契機として、産業イノベーションの創出に向けた、産学官
の活動を活性化するために、ものづくり産業の産業イノベーション創出活動の主要な
支援機関で、同一建物に入居している、工業技術総合センター、中小企業振興センタ
ー、テクノ財団の3機関の支援機能の効果的活用のための、統合型支援(相談)窓口
としての「産業イノベーション拠点」の在り方に関する議論が活発化している。
 しかし、議論が更に過熱して、3機関が、ものづくり産業支援に関して一部類似・
重複した支援機能を有することを理由として、地域産業政策的な観点からの論理的検
討を省略して、3機関の経営統合に係る議論にまで一気に飛躍してしまっていること
が気がかりなのである。

○ここでは、「産業イノベーション拠点」の支援機能の在り方について、次期計画策
定期限に間に合う合理的で具体的な議論ができるよう、同拠点を以下の様に定義する
ことにしたい。
「産業イノベーション拠点」の定義
@工業技術総合センター、中小企業振興センター、テクノ財団の3機関が有する、産
業イノベーション創出活動の活性化に資する全ての支援機能を、県内企業が効果的に
活用しやすくするため、3機関共同で設置・運営する統合型支援(相談)窓口。ただ
し、人事・経理等の間接業務の軽減のため、3機関いずれかの附置組織とする。
Aその窓口は、3機関いずれかの附置組織となるが、3機関は、その窓口を自らの窓
口として位置づけ、その窓口の事業には、自らの事業として対応する。

○その上で、「産業イノベーション拠点」の支援機能の整備について、以下のような
段階を踏んで議論を進めることにしたい。
第1段階:本県において、ものづくり産業の産業イノベーション創出活動を活性化す
る政策的仕掛け(システム)として、新たにどのような支援施策が必要なのか。
 ↓
第2段階:その支援施策の中核的推進拠点となる「産業イノベーション拠点」の支援
機能・人的体制はどのように整備すべきなのか。
 ↓
第3段階:その支援機能・人的体制の整備においては、工業技術総合センター、中小
企業振興センター、テクノ財団の支援機能をどのように連携・融合させ、効果的に支
援機能を発揮できるようにすべきなのか。

【第1段階の議論:産業イノベーション創出活動を活性化するために必要な新たな支
援施策】
○次期計画の策定作業においては、産業イノベーション創出への全工程を以下の様に
整理している。
@経済的・社会的ニーズの把握・選定 → Aニーズに対応するためのアイディアの
検討・選定 → Bビジネス化可能性の検討・評価 → C研究開発 → D試作・
評価・改良 → E生産 → F販売・販路拡大 → [イノベーションの創出]

○また、県の調査から明らかとなった「製品開発の一般的な7つの工程の中で、県内
製造業が最も強化したいポイント」については、「ビジネス化可能性の検討・評価」
が23.1%と最も高く、次いで、「経済的・社会的ニーズの把握・選定」が21.1%、
「研究開発の実施」が14.1%の順となっている。

○この調査結果からは、「産業イノベーション拠点」の支援機能の整備においては、
今までどの産業支援機関でもあまり実施されて来なかった、@「経済的・社会的ニー
ズの把握・選定」、A「ニーズに対応するためのアイディアの検討・選定」からB
「ビジネス化可能性の検討・評価」までの、産業イノベーション創出工程の初期段階
への支援機能の強化が必要であることが、明らかとなっているのである。

【第2段階の議論:支援施策の中核的推進拠点「産業イノベーション拠点」の支援機
能・人的体制】
○産業イノベーション創出活動を活性化し、その成果の多くを社会実装できるように
するためには、前述した産業イノベーション創出の全工程について社会実装の姿(出
口)を見据えて俯瞰し、その上で全工程を一貫して効果的に支援できる機能の整備が
必要となる。

○このような一貫支援機能を「産業イノベーション拠点」に整備するためには、以下
のような具体的支援機能に区分して、その整備の在り方を考えることが必要となる。
@3機関の統合的な相談窓口機能
 個々の相談案件について、支援すべき内容を分析・抽出・整理し、同拠点のみで対
応できるのか、3機関と一緒に対応できるのか、他の専門機関等との連携が必要なの
か、を判断する。
 相談窓口業務に関して、高度な専門性等から、同拠点のみでは対応できない場合に
は、当然、3機関に所属する技術者等の協力を得て対応することになる。

A他の専門機関等との連携コーディネート機能
 同拠点+3機関のみでは十分に提供できない支援を、他の専門機関等との連携コーデ
ィネートによって提供できるようにする。
 特に、前述の産業イノベーション創出工程の初期段階への支援については、3機関
ともに経験が乏しいため、他の専門機関等との連携が不可欠となろう。

B産業イノベーション創出活動へのハンズオン型支援機能
 産業イノベーション創出活動に取り組む企業の専門人材不足を補完するため、例え
ば、3機関に所属する技術者が、企業の研究開発活動にメンバーとして参画すること
などが考えられる。
 3機関の中で適切な人材を見出せない場合には、他の専門機関等との共同研究体制
の構築等を支援することになる。

○以上の支援機能を発揮できるようにするために、「産業イノベーション拠点」にま
ず整備すべき人的体制については、特定の狭い技術・産業分野であっても、@相談窓
口(支援すべき内容の分析・抽出・整理)を担当でき、A必要に応じて他の専門機関
等との連携コーディネートもできる、専門人材の配置を最優先すべきことになる。

○特定の技術・産業分野において、相談窓口業務と他機関との連携コーディネートを
的確に担当できる人材は、自分の不得手な技術・産業分野の相談対応や産学官連携コ
ーディネート等においても、他の専門機関等に所属する最適な人材からの支援を得な
がら、的確な措置ができると考えられるのである。

【第3段階の議論:3機関の支援機能の効果的な連携・融合の在り方】
○3機関のそれぞれの主体性を尊重し、各機関からの人的・資金的資源の提供によっ
て、共同運営方式の統合型支援(相談)窓口「産業イノベーション拠点」を創設する
という方針が固まれば、前述の支援機能@からBのそれぞれにおいて、より具体的な
3機関連携型の支援事業を企画することが必要となる。

○まず、支援機能@からBそれぞれの中味に関して、同拠点+3機関で整備・提供で
きる支援機能(直接的支援機能)と、他の内外の専門機関等の支援機能を補完的に活
用させていただくことによって提供できる支援機能(間接的支援機能)とを区分する
ことが必要となる。
 例えば、前述の産業イノベーション創出工程の初期段階(経済的・社会的ニーズの
把握・選定、ビジネス化可能性の検討・評価等)への支援機能の整備については、他
の専門機関等との連携による間接的支援機能の整備ということになるだろう。

○いずれにしても、同拠点と3機関との組織内連携システム(役割分担を含む。)を
明確にした上で、同拠点の具体的な支援事業を企画し、必要な人的体制を整備するこ
とが必要となるのである。

【むすびに】
○「第4回次期計画検討部会」の議事録(県ホームページで公開)でも明らかなよう
に、3機関のものづくり産業支援機能の合理的活用のために必要な統合型支援(相談)
窓口の共同運営という課題と、3機関の組織全体の経営統合という課題とが、混同さ
れ、地域産業政策的な観点からの、開かれた論理的検討を省略した形で議論され始め
ている。

○経営統合については、当然、プラス面もあればマイナス面もある。人事、経理等の
システムの統合に係る技術的困難性や膨大なコストの発生等も見込まなければならな
い。県としては、地域産業政策面からのメリット・デメリット、被統合機関それぞれ
の経営的メリット・デメリット、県財政にとってのメリット・デメリット等について、
広く関係機関を集めて、慎重かつ論理的に検討・評価することが不可欠となる。

○いずれにしても、経営統合すべきか否かの検討には、相当の期間を要する。また、
関係機関の総意として、経営統合すべきと方向づけができた場合でも、その実現には
相当の準備期間を要する。
 したがって、平成30年度開始の次期計画における「産業イノベーション拠点」につ
いては、3機関の共同運営方式でスタートすることを前提とした議論に集中すること
が、最も合理的と言えるのではないだろうか。


ニュースレターNo.113(2017年10月21日送信)

長野県の航空機産業クラスター形成手法の抜本的改善について
〜クラスター形成の中核的推進機関の事業企画・実施化機能の強化を最優先で目指すべきこと〜

【はじめに】
○長野県は、「長野県航空機産業振興ビジョン〜アジアの航空機システムの拠点づ
くり〜」を策定し、飯田・下伊那地域を中心とする、航空機産業クラスターの形成
を目指している。
 しかし、長野県は、飯田・下伊那地域に航空機産業クラスターを形成するとしな
がら、そのクラスター形成活動のキックオフ的な位置づけの重要イベント(2017.
10.20プレイベント、11.15フォーラム)の開催を、飯田・下伊那地域における航空
機産業クラスター形成活動の中核的推進機関である「南信州・飯田産業センター」
ではなく、何故か遥か離れた諏訪地域のものづくり産業の支援機関である「NPO諏訪
圏ものづくり推進機構」に、わざわざ委託して開催しているのである。

○県は、従来から、航空機産業については、場面によっては、飯田・下伊那地域だ
けでなく、全県平等に発展するように支援すると主張して来ている。そのような揺
れ動き一定の方向に定まらない県の政策的姿勢が、このような理解しがたい事業実
施形態として顕在化してきたのであろう。

○このような県の航空機産業クラスター形成手法を目の当たりにすると、県の担当
部署は、地域クラスター形成手法に関する通常の知識を有しているのか、非常に不
安になってしまうのである。
 県は、政策として、飯田・下伊那地域にクラスターを形成したいのであれば、そ
のクラスター形成活動の中核的推進機関が、クラスター形成に資する各種事業を自
ら企画・実施化できるように、その機能強化を最優先で目指すべきこと、そのこと
が、当該地域での自立的かつ持続的なクラスター形成活動の進展を可能とすること
などを、県の担当部署に対して、繰り返し提言してきたが、なかなか理解していた
だけない状況が続いている。

○そこで今回は、県の航空機産業クラスター形成への諸活動を、より論理的かつ効
果的なものに高度化することに資するため、クラスター形成に関する各種の資料等
を参考にして、基本的なクラスター形成手法について整理し、県が主導すべき航空
機産業クラスター形成活動の在り方を検討してみることにした次第である。

【地域クラスターの地理的規模(範囲)の在り方】
○長野県においては、形成を目指す航空機産業クラスターの地理的規模については、
時と場合によって、飯田・下伊那地域と言ったり、長野県全域と言ったりするなど、
考え方を明確にしていない。諸般の事情から、明確にしたくてもできないでいるの
かもしれない。

○現在、長野県が策定中の次期ものづくり産業振興戦略プラン(計画期間2018年〜
2022年)における「信州型次世代産業クラスターバレーの形成」の中に提示してい
る15の地域クラスター形成戦略の1つの「航空機システム産業の集積形成」におい
ては、対象地域を全県とし、その中核的推進機関としては、長野県航空機産業推進
会議という、いわゆる関係機関の活動の連絡・調整機関であって、クラスター形成
活動の主体的な企画・実施化機能を持たない組織を指定しているのである。

○地域クラスターの形成要因等に関する各種の資料等を参考にすると、地域クラス
ター形成の成功の確度を高めることに資する、その地理的規模については、「何か
問題が生じたら、すぐに関係者が集まって、その対応策について相談ができるよう
な規模」と言われている。自動車や列車によって1時間程度で集まれる範囲が、こ
れに相当するというのが常識となっているのである。

○飯田・下伊那地域での航空機産業クラスター形成活動がスタートすると同時に、
県内他地域にも同様なクラスター形成に資する政策的サービスを提供しようとし、
飯田・下伊那地域の事業企画・実施化機能の強化を最優先で目指すことを躊躇して
いる、長野県の航空機産業クラスター形成手法は、「二兎を追う者は一兎をも得ず」
のことわざ通り、県内のどこにも国際競争力を有する航空機産業クラスターを形成
できないという悲劇的結末を迎える方向に、我々を誘導していると言っても過言で
はないのである。

【地域クラスター形成の促進要因】
○以下では、地域クラスター形成の促進要因について整理し、飯田・下伊那地域は、
その促進要因において、優位性を有しているのか否かについて評価してみたい。そ
して、同地域が、現状において優位性を有していない場合には、どのような政策的
対応をすれば、促進要因に優れる内外の他の航空機産業クラスターに対して、飯田・
下伊那地域の航空機産業クラスターが、優位性を確保できるようになるのか、につ
いて議論してみたい。

○地域クラスター形成の促進要因については、以下の6つに整理できるだろう。
@優れた地域資源
 高度な技術力を有する企業・人材の集積、高度な研究開発・人材育成支援機能の
集積、便利な交通インフラ、魅力ある住環境 etc.
A厳しい需要条件
 クラスター内部や近隣地域に、先進的なユーザーが存在すること(高度な知識を
有するユーザー主導のイノベーションが誘発されやすい環境) etc.
B関連企業・支援組織
 原材料・部品の調達、加工委託等、生産プロセスの連携・相互補完等を可能とす
る関連企業・支援組織の集積 etc.
C適度な刺激を受ける産業環境
 クラスター内の同業他社との競争・相互啓発、クラスター内の革新的企業による
外部情報の導入・波及 etc.
D中核的産業支援機関の存在
 クラスター内での知識の移転・創造や知的交流の場の提供、クラスター内外にわ
たる知的ネットワークの形成・活用、研究開発・事業化のためのグローバルな規模
での産学官連携コーディネート etc.

【飯田・下伊那地域の地域クラスター形成促進要因の優位性評価】
○長野県は、「長野県航空機産業振興ビジョン〜アジアの航空機システムの拠点づ
くり〜」を掲げ、航空機システム分野で国際的優位性を有する航空機産業クラスタ
ーの形成を目指している。

○地域クラスター形成促進要因の@〜Dのそれぞれについて、国内広域的な、ある
いは、国際的な視点から、飯田・下伊那地域と国内外の先進的航空機産業クラスタ
ーとを比較してみれば、現状の飯田・下伊那地域は、促進要因の@〜Dの全てにお
いて、優位性があると明言することが非常に困難であることは、だれの目にも明ら
かであろう。

○それでは、どうすれば、飯田・下伊那地域において、国際的優位性を有する航空
機産業クラスターの形成を促進できるのであろうか。
 政策的に、どの促進要因における優位性の確保に最優先で取り組むべきなのだろ
うか。

【中核的推進機関の支援機能強化が最も実現性が高く効果的な促進要因となること】
○飯田・下伊那地域において、直ちに、航空機システムに関して国際的評価の高い
大学や研究機関を整備することは不可能である。また、航空機システムの開発・製
造拠点となることに資する、先進的ユーザーや多様な関連企業を直ちに近隣に集積
させることも不可能である。
 そのようなことから、航空機産業クラスター形成促進要因の中で、飯田・下伊那
地域において、最も実現性が高く効果も期待できる促進要因は、クラスター形成の
中核的推進機関の機能の拡充強化ということになるのである。

○飯田・下伊那地域における航空機産業クラスター形成の中核的推進機関である
「南信州・飯田産業センター」の、クラスター内での、航空機システムに関する知
識の移転・創造や知的交流の場の提供、クラスター内外にわたる知的ネットワーク
の形成・活用、グローバルな規模での産学官連携コーディネートなどによる、クラ
スター形成促進機能の高度化を目指すことが、長野県が最優先で主導すべき航空機
産業振興事業となるのである。

○このようなことから、飯田・下伊那地域の航空機産業クラスター形成活動のキッ
クオフ的な位置づけの重要イベント(飯田・下伊那地域の産学官の航空機産業クラ
スター形成への熱い思いをしっかりと込め、地元が主体的に企画・実施化すべき重
要なイベント)を、飯田・下伊那地域から、遥か離れた諏訪地域の産業支援機関に
委託するようなことは、地域クラスター形成手法に関する通常の知識を有する方々
には、とても考えられないことと言えるだろう。

【むすびに】
○いずれにしても、長野県が、航空機産業の振興によって、県産業の持続的発展を
実現しようとするのであれば、航空機産業クラスター形成の中核的推進機関である
「南信州・飯田産業センター」が、自立して、グローバルな視点から、クラスター
形成促進に資する各種事業を企画・実施化できるようになるよう、その機能の拡充
強化に最優先で人的・資金的支援をすることを県にお願いしたい。

○飯田・下伊那地域に国際競争力を有する航空機産業クラスターをまず形成し、そ
こを拠点として、同心円的に、あるいは、飛び地的に、県内他地域への技術的・経
済的な波及効果が顕在化していくようにすることを、基本的な航空機産業振興戦略
とすべきことを、関係の皆様にはご理解いただきたいのである。


ニュースレターNo.112(2017年10月2日送信)

長野県食品製造業振興ビジョンの論理的な体系・構成への大転換
〜「発酵・長寿」県宣言も「非科学的なPRツール」から「新食品の創出
を産学官が先導する旨の決意表明」へ大転換〜

【はじめに】
○平成29年9月12日に、知事以下の県幹部が出席して開催された長野県産業イノベー
ション推進本部会議において、「長野県食品製造業振興ビジョン」(以下、食品ビ
ジョンという。)の概要版が承認・公表された。
 この食品ビジョンについては、策定作業当初から、その内容の科学的根拠の欠如
や体系・構成の非論理性等の様々な課題が顕在化し、前回までのニュースレターで
も、それらの課題について繰り返し取り上げ、また、県の担当部署に対して、その
改善を強く提言等もしてきた。

○しかしながら、長野県産業イノベーション推進本部会議で決定された食品ビジョ
ンの概要版は、「科学的根拠に基づくかない信頼性の低い事項は記載すべきでない。
体系・構成は、ビジョン(目指す姿)・シナリオ(目指す姿実現への道筋)・プロ
グラム(シナリオの的確な推進に必要な各種施策)という論理的な体系・構成に整
理すべき。」という主旨の私の提言には、残念ながら応えていただけない形のもの
となってしまったことについては、既に前回のニュースレターでお知らせしたとこ
ろである。

○概要版が決定したため、本編(本体)もそれと整合して、科学的根拠に乏しい内
容を含み、ビジョン・シナリオ・プログラムという論理的な体系・構成のものとは
ならないとあきらめていたところ、知事から「概要版の『目指す姿(ビジョン)』
から各種施策に至る道筋が不明確なので、本編については、それが良く分かるよう
な論理的な体系・構成にすべき」という主旨の強い指示が、担当部署に対して出さ
れたようで、そのお陰で、ビジョン・シナリオ・プログラムという体系・構成に拘
る私の提言が再び日の目を見ることになり、全面的に「本編」に反映していただく
ことになった次第である。

○また、体系・構成の修正の過程で、科学的根拠の乏しい記載内容の修正も、完璧
とまではいかないまでも、併せて実施していただけたことは、本編の完成度を大き
く高めたと言えるだろう。
 例えば、「長野県の長寿」=「長野県産の発酵食品の摂取」というような科学的
根拠の乏しい短絡的なイメージを県内外に広くアピールし、「長野県産の発酵食品
を食べてみんなで長寿になろう!」を主旨とするような、非科学的PRツールとして
の「発酵・長寿」県宣言を、県内の産学官の代表者による、発酵技術を中核とした
健康長寿に資する新食品の創出を先導する旨の決意表明としての「発酵・長寿」県
宣言に大転換していただくことができたのである。
 同宣言によって、産学官連携による発酵技術活用型の新食品の研究開発・事業化
活動が従来より格段に活性化されうるという、政策的意義を同宣言に与えることが
できたのである。

○以下で、私の提言を全面的に反映していただき、最終的に決定された食品ビジョ
ンの施策展開に係る体系・構成のエッセンスについて紹介したい。

【食品ビジョンの施策展開に係る体系・構成のエッセンス】
〇ビジョン(目指す姿)実現への、私が提言したシナリオ・プログラムについて、
担当部署が修正していた場合には、どのように修正されたかが分かるように「※参
考」として記載してある。どちらの方がシナリオやプログラムの記載としてベター
かについて、皆様方に評価していただければ幸いである。
 なお、ビジョン(目指す姿)が、私の提言を参考にして、どのように修正・決定
されてきたかについては、ニュースレターNo.109(2017.7.26)とNo.111(2017.9.13)
を参照願いたい。

[ビジョン(目指す姿)]
長寿県NAGANOの「からだに優しい食品」の創出・提供を核として、国内外の食市場
で優位性を確保する食品製造業の実現
〜確保を目指す4つの優位性〜
@健康志向や世界基準の安心・安全など消費者(市場)ニーズに沿った的確な開発力
A健康長寿やそれを支えてきた食文化・歴史・風土等の本質的な価値を活用したブ
ランド力
B世界市場への展開を加速する高いマーケティング力
C農業・観光等の関連産業との連携による新たな価値の創出力
※「からだに優しい食品」の定義:美味しく健康維持・増進に役立つ食品

〇ビジョン(目指す姿)を実現するためには、食品製造業が、前記の@からCの
「4つの優位性」を確保することが必要であることから、次に、[「4つの優位
性」確保への「4つのシナリオ」と「4つの重点プログラム」]が提示されている。

・第1シナリオ(優位性@の確保への道筋)
 国内外の消費者(市場)ニーズの探索・選定と新食品創出のための産学官連携の
推進
 ※参考:私が提言した第1シナリオは、「国内外の消費者(市場)ニーズの探索・
 選定とそれに応える新食品を創出する産学官連携活動の活性化」だった。
・第1重点プログラム(第1シナリオの的確な推進に必要な各種プロジェクトの総体)
「『食』と『健康』ラボ」による研究開発・商品開発等の一貫支援
・第1重点プログラムの概要〈「『食』と『健康』ラボ」の構築〉
 しあわせ信州食品開発センターを連携拠点・総合窓口とする、産学官連携・ネッ
トワーク型の「『食』と『健康』ラボ」を構築し、「からだに優しい食品」の創出
に係るニーズ探索、研究開発から販路開拓等に至る全工程を一貫支援できるように
し、産学官連携(オープンイノベーション)による新食品創出活動を活性化する。

・第2シナリオ(優位性Aの確保への道筋)
 県内の食品関係企業や食品業界のブランディング活動の活性化
・第2重点プログラム(第2シナリオの的確な推進に必要な各種プロジェクトの総体)
 「発酵・長寿」県宣言等によるブランド化の基盤づくり
 ※参考:私が提言した第2重点プログラムは、「ブランド戦略策定・実施化へ
 の支援体制・支援メニューの整備」だった。
・第2重点プログラムの概要〈「発酵・長寿」県宣言の実施〉
 食品製造業振興活動に参画する産学官の代表者による、科学的エビデンスに基づ
く新たな「からだに優しい食品」の創出と情報発信を先導する旨の決意表明として
の「発酵・長寿」県宣言を実施し、長野県食品工業協会が中心となって、関係機関
との緊密な連携の下に、発酵技術を中核に据えたブランディング活動を活性化する。

・第3シナリオ(優位性Bの確保への道筋)
 県内食品製造業の海外展開・インバウンド対応の強化
 ※参考:私が提言した第3シナリオは、「県内食品製造業の海外展開・インバウ
 ンド戦略の策定・実施活動の活性化」だった。
・第3重点プログラム(第3シナリオの的確な推進に必要な各種プロジェクトの総体)
 食のグローバル・マーケティングへの支援
 ※私が提言した第3重点プログラムは、「県内食品製造業の海外展開戦略等の策
 定・実施化への支援体制・支援メニューの整備」だった。
・第3プログラムの概要〈食のマーケティング支援体制の拡充強化〉
 グローバルな規模での新市場開拓への支援ノウハウを長年にわたって蓄積してき
ている長野県中小企業振興センターや、長野県工業技術総合センターが中心となっ
て、関係機関との緊密な連携の下に、県内食品製造業の海外市場、インバウンド市
場への進出活動を活性化する。

・第4シナリオ(優位性Cの確保への道筋)
 食品製造業と関連産業(農業や観光等)の連携促進
 ※参考:私が提言した第4シナリオは、「食品製造業の関連産業(農業や観光等)
 と連携した新たな価値創出活動の活性化」だった。
・第4重点プログラム(第4シナリオの的確な推進に必要な各種プロジェクトの総体)
 部局間連携による異業種ネットワークの構築
 ※参考:私が提言した第4重点プログラムは、「他産業との連携活動の企画・実
 施化への支援体制・支援メニューの整備」だった。
・第4プログラムの概要〈関係部局による異業種間連携への支援〉
 県産業労働部が、最適な産業支援機関と連携し、関係部局の協力を得て、他分野
の産業が抱える食に関する様々な課題解決ニーズを把握し、それに的確に応える新
食品や新サービスを開発・提供することに支援し、新たな付加価値を創出する活動
を活性化する。

【むすびに】
○食品ビジョンについては、非常に厳しい財政的な縛りから、新規の重点事業をほ
とんど盛り込めないという制約条件の下で、既存の支援事業や既存の産業支援機関
の活用面での創意工夫によって、食品製造業の振興施策を拡充強化できるようにす
る点に知恵を絞っている。

○より具体的に言えば、他県等の食品製造業振興戦略に比して、その論理的推進方
法での優位性、例えば、既存の大学、産業支援機関等による産学官連携・ネットワ
ーク型の食に関する企画から商品化までの一貫支援体制(ワンストップ・サービス
体制)の整備・運営など、いわゆる「形式論的な面」での優位性を確保することは
できているが、実際に実施する各種施策(プログラム)における、産業界への政策
的なインパクトや波及効果の大きさのような、「実質論的な面」での優位性を確保
するところまでには至っていないのである。その点においては、悔いが残る食品ビ
ジョンとなってしまっている。

○食品ビジョンの策定作業はやっと終了したが、同ビジョンが提示するプログラム
に参画する産学官の関係者は、プログラムの中核に位置づけられた、科学的エビデ
ンスに基づく健康長寿に資する新食品の創出への取組は、既に他県がかなり先行し
ているという現実についての共通認識をしっかり持つことが必要となる。
 例えば、静岡県では、去る9月27日に「健康長寿食品・生物産業の推進」を掲げ、
機能性食品に係るニーズ探索、原材料開発から商品化に至るまでの、産学官の様々
な研究開発成果の発表会(事務局:静岡県工業技術研究所)を開催したのである。
 もちろん私は、「長野県の静岡県への遅れは、なぜ生じてしまったのか」につい
て探ることを主目的として参加している。

〇静岡県では、既に、県の試験研究機関の連携による「健康長寿静岡の新たな機能
性食品産業の創出」プロジェクトで、エビデンス・オリエンテッドな新規機能性食
品の研究開発に積極的に取り組んでいる。
 また、その発表会の場で、静岡県立大学が、オープンイノベーションによって、
日本食材の強みを見える化(エビデンスの蓄積・発信)し、健康長寿日本食ブラン
ドの確立に取り組もうと、参加者に強く呼びかけたことが印象に残っている。


ニュースレターNo.111(2017年9月13日送信)

長野県食品製造業振興ビジョンの策定作業の経過から学ぶべきこと
 〜地域産業振興戦略の策定作業を論理的かつ効率的に進めるための「参考」として〜

【はじめに】
○平成29年9月12日に、知事以下の県幹部が出席して開催された長野県産業イノベ
ーション推進本部会議において、「長野県食品製造業振興ビジョン」(案)の概要
(以下、食品ビジョンという。)が承認・公表された。
 この食品ビジョンについては、策定作業当初から、その内容の科学的論理性等に
係る様々な課題が顕在化し、このニュースレターでも、それらの課題について繰り
返し取り上げ、また、県の担当部署に対して、その改善を強く提案等もしてきた。
担当部署には、その提案等に対して真摯に対応していただいたと感謝している。

○それにも係らず、産業イノベーション推進本部会議で最終的に決定された食品ビ
ジョンには、まだまだ改善されないままの課題が多く残されている。そうなってし
まった原因はどこにあるのか。

○その原因は、非常に大まかに言えば、長野県産業イノベーション推進本部会議の
議題となる前の一連の事前作業、すなわち、「食品ビジョンの当初案→第1修正案
→知事レク→第2修正案→知事レク・決定」という経過を辿っていく中での、策定
作業の「手違い」によって発生したものである。

〇知事レクでは、当然のことながら、食品ビジョンの中で、長野県としての独創性
や先進性を提示することを求められたようである。
 その要請に応えて、長野県としての独創性や先進性を打出すためには、食品ビジ
ョンのビジョン(目指す姿)・シナリオ(目指す姿実現への道筋)・プログラム
(シナリオの的確な推進のための各種施策)という体系・構成の中で、最初にビジ
ョン・シナリオを決定し、それを前提として、プログラムの部分で創意工夫(目玉
事業の提示)をすべきだったにも係らず、担当部署が、好みのプログラムを提示し
やすくするために、その都度安易にビジョン・シナリオの修正にまで手を出してし
まったことが、最終決定された食品ビジョンに重大な課題を残したままにしてしま
った主要因と思われるのである。

○担当部署の食品ビジョン策定に係る思考パターンが、当初、「プログラム→シナ
リオ→ビジョン」(思いつくプログラムを提示するのに都合の良いシナリオ・ビジ
ョンを設定する手法)であったのを、「ビジョン→シナリオ→プログラム」に転換
するよう、様々に説明・説得し、やっと「ビジョン→シナリオ→プログラム」とい
う論理的視点から食品ビジョンを組立てていただけるようになったと思ったが、ま
だまだ転換は不完全で、確固たる政策策定姿勢として確立されていなかったという
ことである。

○食品ビジョンが、「当初案→第1修正案→知事レク→第2修正案→知事レク・決
定」という経過を辿る中で、策定作業に係るどのような紆余曲折があり、担当部署
の思考パターンがどのように変化し、最終的に知事の下で決定されることになった
のかについて整理しておくことは、今後の他の地域産業振興戦略の策定作業を論理
的かつ効率的に進めようとする際の「参考」として役立つものであり、地域産業政
策の研究としても意義のあることと考え、今回のニュースレターのテーマとした次
第である。

【食品ビジョンの当初案の課題:科学的論理性の欠如】
○平成29年3月29日の長野県中小企業振興審議会で公表された、食品ビジョン(当
初案)については、以下のような重大な課題があった。
※以下の課題に関する詳細については、ニュースレターNo.102(2017.3.29)を参
照願いたい。

@科学的根拠に基づかない、非論理的で短絡的な筋立てがなされていた。
 明確な科学的根拠も示せないままに、長野県の健康長寿の主要因が、発酵食品の
摂取であるかのような勝手な論理を、「発酵長寿」あるいは「発酵長寿県」という
ようなキャッチフレーズ(造語)でイメージ化し、食品ビジョンの体系・構成の
「根幹」に据えていた。

Aビジョン・シナリオ・プログラムという論理的体系・構成になっていなかった。
 食品ビジョンの記載事項全体からは、「健康長寿に資する新規発酵食品の研究開
発・生産活動が活発な食品産業クラスターの形成」を「目指す姿」(ビジョン)に
しようとしていることは類推できたが、それがビジョンとして明確に位置づけられ
てはいなかったのである。
 また、本来的には、シナリオ(ビジョン実現への道筋)に位置づけられるべき記
載事項も、非科学的で、その推進のための各種施策(プログラム)を企画・実施化
することが非常に困難なものとなっていた。
 例えば、シナリオに相当する事項として、長野県発酵食品の優位性の論理的アピ
ールを掲げ、そのシナリオの推進のためのプログラムとして、発酵食品と健康長寿
の相関に関する文献等から、長野県の健康長寿のエビデンスを探索・抽出し、それ
を発信・PRする旨が記載されていた。
 そのような都合の良い文献が存在することは、ほとんどあり得ないにも係らず、
勝手に存在を前提としたり、長野県が他県に比して健康長寿であることのエビデン
スを、発酵食品の機能性の中のみで見出せると考えたりと、科学的根拠の無い非常
に安易な姿勢が目立ったのである。

○当初案では、「長野県の長寿=発酵食品の摂取」というような勝手な論理を根拠
として、長野県の発酵食品をPRし、それによって食品産業を振興するために、長野
県(知事)が他県に先駆けて「発酵長寿県」宣言を実施することを、食品ビジョン
の最重要施策(メイン事業)として据えていたことも興味深い。
 そのような科学的根拠の乏しい「発酵長寿県」宣言を、県(知事)が実施すべき
でないことは、客観的に考えれば明らかであるにも係らず、当初はだれもそれを理
解できなかったのである。疑問にさえ思っていなかったのである。

【食品ビジョンの当初案の課題の改善:ビジョン・シナリオ・プログラムという論
理的体系・構成への転換】
○食品ビジョンについては、食品製造業に焦点を当てていることを明確化するため、
途中から名称が、「長野県食品産業振興ビジョン」(案)から「長野県食品製造業
振興ビジョン」(案)(以下、同様にその概要を食品ビジョンという。)に変更さ
れた。
 そして、食品ビジョンの見直し作業においては、私の提言を取り入れていただき、
その体系・構成を明確にビジョン・シナリオ・プログラムとすることとなった。

○日本の人口が減少傾向を辿り、高齢化が進展すれば、当然のことながら国内の食
品市場(国民の飲食の全体量)は確実に縮小していく。したがって、長野県の食品
製造業の基本的な成長戦略は、必然的に、「製品の高付加価値化」と「海外市場の
確保」の2点に焦点を絞るべきことになる。

○そのことを前提とした上で、担当部署は、本県の食品製造業が、@健康志向や安
心・安全等の消費者ニーズに応えること、A本県の食に関連する歴史・風土等の地
域的特徴を活用すること、B農業・観光等の他の関連産業と共に発展すること、C
高いブランド力を持つ食品を創出すること、の4点における優位性の確保を目指す
ことを、「キーワード」的に「目指す姿」の中に組み込みたいという非常に強い意
思を示し、以下のような長文の「目指す姿」(案)を7月14日に関係者に提案し意
見を求めてきた。

○県が提案してきた「目指す姿」は以下の通りである。

 健康長寿や豊かな自然環境などの地域的特徴を活かし、健康志向や安心・安全な
どの消費者ニーズに応え、高いブランド力を持つ食品を創出・提供し、世界の食市
場に貢献する食品製造業の集積形成を図る。
 併せて、食品製造業を核として、農業や観光など、多様な産業分野と連携した取
組を実施し、相乗効果を発揮することにより、長野県「食」関連産業の発展に寄与
する。

○県の提案に対して、私が提案した「目指す姿」は以下の通りである。
※以下のような提案に至った詳細な経緯については、ニュースレターNo.109(2017.
7.26)を参照願いたい。

 世界の食市場で優位性を確保できる新規高付加価値食品を創出・提供する食品製
造業の集積形成
〜4つの優位性を有する食品製造業の実現〜
@健康志向や安心・安全等の消費者ニーズへの的確な対応
A歴史・風土等の地域的特徴の科学的高度活用
B農業・観光等の関連産業とのWin‐Win連携
C世界市場への展開を加速するブランディング力

○私の提案を参考にして、県が第1修正案の中で最終的に提示した「目指す姿」は
以下の通りである。

 新たな価値を付加した食品を創出・提供し、国内外の食市場で優位性を確保する
食品製造業の実現
 〜確保を目指す優位性〜
@健康志向や世界基準の安心・安全など消費者(市場)ニーズに沿った的確な開発力
A健康長寿やそれを支えてきた食文化・歴史・風土等の本質的な価値を活用したブ
ランド力
B世界市場への展開を加速する高いマーケティング力
C農業・観光等の関連産業との連携による新たな価値の創出力

○優位性@〜Cの確保へのシナリオ、プログラムについても、担当部署は私の提案
を採用し、第1修正案の中で以下のように提示した。
 まず、優位性@の確保へのシナリオは、「国内外の消費者(市場)ニーズの探索・
選定とそれに応える新食品の創出のための産学官連携活動の活性化」とし、そのシ
ナリオの推進のためのプログラムの総体を「『食と健康ラボ』による研究開発・商
品開発等への一貫支援」とした。

○優位性Aの確保へのシナリオは、「県内の食品関係企業や食品業界のブランディ
ング活動の活性化」とし、そのシナリオの推進のためのプログラムの総体を「ブラ
ンド戦略策定・実施化への支援体制・支援メニューの整備」とした。

○優位性Bの確保へのシナリオは、「県内食品製造業の海外展開・インバウンド戦
略の策定・実施活動の活性化」とし、そのシナリオの推進のためのプログラムの総
体を「海外展開戦略・インバウンド戦略の策定・実施化への支援体制・支援メニュ
ーの整備」とした。

○優位性Cの確保へのシナリオは、「食品製造業の関連産業(農業・観光等)と連
携した新たな価値創造活動の活性化」とし、そのシナリオの推進のためのプログラ
ムの総体を「他産業との連携活動の企画・実施化への支援体制・支援メニューの整
備」とした。

【食品ビジョンの当初案の課題の改善:政策的意義を有する「発酵長寿県」宣言へ
の転換】
○「発酵長寿県」宣言については、「明確な科学的根拠も示さないままに、長野県
の健康長寿の主要因が、発酵食品の摂取であるかのような勝手な論理を、『発酵長
寿』あるいは『発酵長寿県』というようなキャッチフレーズ(造語)でイメージ化
し、食品ビジョンの体系・構成の『根幹』に据えている点は、県が策定する産業振
興ビジョンとしては非常に問題である。その勝手な論理での『発酵長寿県』宣言は、
絶対に実施すべきではない。」という主旨の提言を繰り返し県に対して行った。

○しかし、県としては、どうしても「発酵長寿県」宣言を実施したいという強い意
向を有していたため、その宣言の内容を、科学的根拠の乏しい単なるイメージ戦略
的な内容ではなく、本県の食品産業が他県等の食品産業に対して優位性を確保する
ことに資する、科学的根拠に基づく産業振興戦略に相当する内容にできれば問題は
無いと考え、その宣言の仕方のイメージを以下のように担当部署に提言した。
※「発酵長寿県」宣言の在り方についての詳細は、ニュースレターNo.108(2017.6.
30)を参照願いたい。

@宣言の実施者
 宣言内容の具現化を産学官連携で目指すのであれば、宣言実施者は、産学官の関
係機関の代表者になる。当然、県内の発酵食品業界の代表者は含まれることになる。

A宣言の趣旨
 本県の伝統的発酵食品は、人々の健康の維持増進に更に大きな恩恵をもたらす可
能性を秘めていることから、発酵食品の機能性解明や機能性強化のための基礎研究
と、その産業応用のための実用化研究に、国内広域的・国際的な産学官連携によっ
て取組み、本県において、発酵食品による健康の維持増進を先導する高度食品産業
の集積形成の実現を目指すことを、宣言実施者が表明・約束する。

B宣言に基づき具現化を目指す食品産業の姿
 新たな発酵技術を活用した新規食品によって、世界の人々の健康の維持増進に貢
献するとともに、その新規食品の生産・供給を通して成長し続けることができる、
国際競争力を有する高付加価値型食品産業の集積

C目指す食品産業の姿を具現化するための産学官連携活動方針
 宣言実施者は、発酵技術によって、人々の健康の維持増進と食品産業の発展に資
する、以下を含むあらゆる活動に緊密に連携して取組んでいく。
・世界の「食」の課題解決ニーズの把握とその解決に応用できる発酵技術とのマッ
チングシステムの構築・運営
・健康の維持増進や、「食」の安心・安全確保に貢献する新規発酵食品の研究開発
とその成果の早期事業化
・国・県等の産業政策との緊密な連携の下に、新規発酵技術による「食」の課題解
決に貢献する事業の積極的な企画・実施化

○このような「発酵長寿県」宣言を実施すれば、食品産業の振興に関して、産学官
が担うべき役割とその実施化への強い意思が、広くアピールされることになる。す
なわち、発酵技術に係る食品産業振興施策の企画・実施化については、より確実に
推進されることになるという政策的メリットがもたらされることになるのである。

○担当部署は、「発酵長寿県」宣言を単なるイメージ的PR手法の位置づけではなく、
発酵食品に係る産学官連携活動の基本方針に位置づけることとし、第1修正案の
「各種施策(プログラム)を推進するための政策的仕掛け」の中に、「発酵技術に
よる健康長寿に資する新食品の創出を先導する産学官の決意表明『発酵長寿県』宣
言」として位置づけたのである。

〇このようにして、根本的な課題を抱えていた当初案は、やっと科学的根拠を尊重
し、ビジョン・シナリオ・プログラムという論理的体系・構成を有する第1修正案
へと改善されたのである。

〇しかしながら、知事レクで要請された、食品ビジョンの中での長野県としての独
創性や先進性の提示への対応において、その手法を誤ったため、やっと手にした科
学的論理性と論理的体系・構成を再度失った、第2修正案を作ってしまうことにな
ったのである。

○食品ビジョンにおいて、知事が求める長野県としての独創性や先進性を打出すた
めには、食品ビジョンのビジョン(目指す姿)・シナリオ(目指す姿実現への道筋)
・プログラム(シナリオの的確な推進のための各種施策)という体系・構成の中で、
最初にビジョン・シナリオを決定し、それを知事と共有した上で、プログラムの部
分で創意工夫(目玉事業の提示)をすべきだったにも係らず、担当部署が、安易に
ビジョン・シナリオの修正にまで手を出して第2修正案を作成してしまったことが、
最終決定された食品ビジョンに重大な課題を残したままにしてしまった主要因と思
われるのである。

【食品ビジョンの第2修正案の課題:論理的体系・構成を崩してしまったこと】
○9月12日の長野県産業イノベーション推進本部会議において決定・公表された食品
ビジョン(第2修正案)の「目指す姿」は、以下のように修正されたものとなった。

 長寿県NAGANOの「からだに優しい食品」の創出・提供を核として、国内外の食市
場で優位性を確保する食品製造業の実現

○そして、食品ビジョンの第2修正案においては、「目指す姿」を実現するための
道筋(シナリオ)と、シナリオの着実な推進のための各種施策(プログラム)とい
う形での体系・構成を崩し、「目指す姿」を実現するための重点施策(@「食と健
康ラボ」による食品開発、A発酵を核としたブランド力の向上、Bグローバル展開、
C関連分野との連携による相乗効果を生み出す仕組みづくり)を提示するだけのも
のとなってしまった。
 「目指す姿」を実現するためのシナリオ・プログラムが効果的に推進されるよう
な「政策的仕掛け」を整備するという体系的な視点に立つことを止め、効果があり
そうな各種プログラムを思いつくままに列挙するという、アットランダムな視点に
立ってしまったのである。

○「目指す姿」を実現するためのシナリオが提示されていないことの弊害としては、
例えば、シナリオは、プログラムの企画・実施化の「指針」として不可欠のもので
あるにも係らず、その「指針」が存在しないことから、現状では提示されていない、
より効果的な新規プログラムの企画・実施化を今後に期待することが非常に困難に
なる、ということを挙げることができる。
 また、各プログラムの実効性等の評価も、そのプログラムに係るシナリオの視点
から実施されることから、各プログラムの進捗管理・評価も的確には実施できない
という弊害をもたらすことにもなるのである。

〇上記のことをもう少し具体的に解説すると以下のようになる。
 例えば、「目指す姿」を実現するために食品製造業の開発力を強化しようとする
場合、その開発力強化へのシナリオとして、「国内外の消費者(市場)ニーズの探
索・選定とそれに応える新食品の創出のための産学官連携活動の活性化」を設定し、
そのシナリオの推進のためのプログラムの総体として「『食と健康ラボ』による研
究開発・商品開発等への一貫支援」を位置づけておけば、「食と健康ラボ」の一貫
支援は、新食品創出のための企業の産学官連携活動(オープンイノベーション)の
活性化のためになされることが明確化される。「食と健康ラボ」には、フルセット
型の支援機能整備は期待せず、各種産業支援機関との連携によって、企業のオープ
ンイノベーション型の新食品開発への支援ができるようにすることを期待している
ことが分かるのである。
 しかし、そのシナリオの提示がなければ、「食と健康ラボ」の一貫支援機能は、
何を目的として、どのように整備され強化されていくべきなのかが不明確になって
しまうのである。その結果、オープンイノベーションの活性化に必要な機能が整備
されず、シナリオの視点からは整備する必要のない支援機能の整備に予算を無駄に
使ってしまうというような事態も想定できるのである。

○「発酵長寿県」宣言についても、せっかく単なるイメージ的PR手法の位置づけで
はなく、発酵食品に係る産学官連携活動の基本方針に位置づけることとし、第1修
正案の「各種施策(プログラム)を推進するための政策的仕掛け」の中に、「発酵
技術による健康長寿に資する新食品の創出を先導する産学官の決意表明『発酵長寿
県』宣言」として位置づけたにも係らず、第2修正案においては、単なるイメージ
的PR手法の位置づけに戻してしまったのである。

【食品ビジョンの第2修正案の課題:科学的論理性に基づく実行可能なシナリオ・
プログラムにすべきことを忘れてしまったこと】
○科学的論理性の欠如に基づく課題はいろいろあるが、象徴的な課題が、「食と健
康ラボ」の支援機能の提示に見られる。「食と健康ラボ」は、しあわせ信州食品開
発センターが総合窓口となり、分析機器を設置して、「食」と「健康長寿」の関連
性の解明のための研究開発を実施し、その成果を県内企業が健康長寿食品の開発に
活用する、というスキームが大きく強調・提示されていることである。このスキー
ムを「食と健康ラボ」の支援機能のメインに据えているのである。

〇前述した通り、「食と健康ラボ」に整備すべき中核的支援機能は、本来的には、
新食品開発への一貫支援であるはずである。その点からも、既にかなりずれたメイ
ン支援機能が提示されていることになる。その点の問題は別としても、なぜ、この
ような実行困難な支援機能をわざわざ提示するに至ったのか不思議でならない。

○「食」と「健康長寿」の関連性の解明については、信州大学がその分野の研究を
来年度以降実施する計画があると聞いて、信州大学の協力を得れば県でも支援可能
と考え、見栄えが良い支援スキームとするために、安易に記載してしまったように
推測できる。
 しかし、「食」と「健康長寿」の関連性の解明の困難性は一般的に非常に高いこ
とから、その研究成果を基にした企業の食品開発への支援というスキームは、理想
的であっても非現実的であること(実際にこのスキームで県が食品開発を支援する
ことは極めて稀と考えられること)は、食品開発に関して通常の知識を有する人に
とっては明らかなことなのである。
 そのような実際には機能しないような支援スキームを、堂々とメインに据えて公
表することは非常に問題である、という認識を持てない担当部署に大きな不安を覚
えるのである。

【むすびに】
○食品ビジョンに関しては、当初から、科学的論理性の欠如に由来する様々な課題
の解決のために、県の担当部署への改善要請等、真剣に取組んできた。その科学的
論理性の欠如を担当部署も認識し、食品ビジョンの改善がなされたと喜んだのも束
の間、結局、科学的論理性の欠如に基づく課題を残したままの形で「完成」という
ことになってしまったのである。

○今後、地域産業振興戦略の策定に参画される皆様には、今回の食品ビジョンの策
定経過の紆余曲折を参考にして頂き、科学的論理性の確保は当然として、最初に地
域産業振興戦略の体系・構成に関する議論を「ビジョン→シナリオ→プログラム」
の順に実施していくことに十分に留意していただくことをお願いしたい。
 最初から、そのような論理的な手順を踏んで食品ビジョンの策定作業をしていた
ら、作業時間は大幅に短縮された上に、他県に誇れる独創性と先進性を有するもの
(知事が言うフロントランナーに相応しいもの)になっていたであろうにと残念で
ならない。


ニュースレターNo.110(2017年8月12日送信)

長野県が設置を検討している「長野県オープンイノベーションセンター」(仮称)の在り方について

【はじめに】
○長野県が、創業に関する情報等が一元的に集積し、創業希望者が自由に集える
ような「場」である「長野県オープンイノベーションセンター」(仮称)(以下、
NOICと言う。)の設置を検討していることが、県が県内の産業支援機関等を対象
に配布した、NOICに関するアンケート用紙で明らかにされた。

○長野県の地域産業政策においては、産業界が主導する「イノベーション」につ
いては、長野県中小企業振興条例で、「産業イノベーション」として、以下の様
に定義している。
 産業イノベーションの創出=新たな製品又はサービスの開発等を通じて新たな
価値を生み出し、経済社会の大きな変化を創出することをいう。

○長野県中小企業振興条例が定義する「産業イノベーション」をもう少し噛み砕
くと、「地域社会や地域産業が抱える課題の解決方策を創出・ビジネス化し、地
域社会や地域産業の発展に、更には、国内外の社会や産業の発展に大きく貢献す
ること」というようなことになろう。

〇いずれにしても、産業イノベーション創出活動を活性化し、本県の経済・産業
の発展と県民生活の質的向上を図るためには、産業イノベーション創出型の創業
だけではなく、当然、既存企業の新技術・新製品の研究開発等を通した産業イノ
ベーション創出活動の活性化も重要視すべきことになる。

〇長野県中小企業振興条例は、その第4条で、正に、「県の責務」として、県は、
特に産業イノベーションの創出に留意して、中小企業振興施策を総合的に策定・
実施すべき旨を定めているのである。

〇本県における産業イノベーション創出活動の活性化を、創業のみに頼ることは
非現実的であることは明らかである。産業振興戦略論的には、産業イノベーショ
ン創出によって創業の実現を目指す人と、産業イノベーション創出によって新事
業分野開拓を目指す既存企業の技術者等との、人的交流(情報交流や事業連携等)
に資する機会・場の提供が、産業イノベーション創出の加速化には効果的と考え
られるのである。

○このような視点から、長野県における産業イノベーション創出活動の活性化の
ために、新たに設置すべき産業イノベーション創出支援拠点としてのNOICの在り
方について、以下で議論してみたい。

【NOICの設置趣旨】
○アンケートでは、NOICを創業支援に特化した拠点として位置づけているが、中
小企業振興条例の基本理念を高く評価している者としては、科学技術を活用した
産業イノベーション創出(地域社会・地域産業が抱える課題の解決方策の創出・
ビジネス化)による、創業や既存企業の新事業分野進出等の活動を活性化するこ
とを使命とし、産業イノベーション創出支援事業の総合的な企画・実施化拠点と
してNOICを設置することを提案したい。そもそも、条例の規定の有無に係わらず、
あえて創業支援に特化させる必要性などどこにも無いのである。

○科学技術の活用に焦点を絞った場合には、主な支援対象業種は、製造業分野と
製造業関連サービス業分野となる。しかし、産業イノベーション創出を目指すと
いう視点からは、製造業や関連サービス業と連携する農林水産業分野あるいは健
康・医療産業分野等、幅広い産業分野が支援対象に含まれることになるだろう。

【NOICが整備すべき支援機能】
○アンケートには、NOICが整備すべき支援機能に関する設問は全く無かった。
こでは、整備すべき支援機能について、ソフト分野とハード分野に分けて整理し
てみたい。まずは、ソフト分野で整備すべき支援機能として、以下のようなもの
を挙げることができるだろう。
@産業イノベーション創出工程の全てを、産学官連携コーディネートによって一
貫支援できる機能
[想定する具体的支援事業の例]
a.課題解決ニーズの探索・選定への支援
b.ニーズ保有企業・シーズ保有企業等の情報交流・マッチングのための異業種
企業交流研究会等の開催
c.課題解決方策のビジネス化可能性調査、ビジネスモデル構築への支援
d.課題解決方策の創出のための研究開発計画策定・実施化への支援
e.研究開発成果の早期事業化への支援
f.その他、産業イノベーション創出に必要な各種活動へのハンズオン型支援
A創業や新事業創出に必要な知識を習得できる人材育成メニューの提供機能
B創業や新事業創出に必要な各種情報の整備・提供機能
Cビジネスモデル構築に必要な調査研究、新技術・新製品創出のための研究開発、
研究開発成果の早期事業化のための市場開拓活動等への資金的支援機能(事前調
査等の少額で可能な事業へは県費で支援、本格的研究開発等の多額の費用を要す
る事業へは、国等の提案公募制度の活用で支援)

○ハード分野で整備すべき支援機能については、以下のようなものを挙げること
ができるだろう。
@産業イノベーション創出に関する自由な情報交換のための交流スペースの提供
機能
A産業イノベーション創出に必要な調査研究活動のためのワーキングスペース
(オープンスペースやクローズドスペース、試験研究機器の貸付を含む。)の提
供機能

【NOICの設置場所】
○コスト削減と早期立上げのためには、運営主体の在り方は別として、工業技術
総合センターや信州大学のレンタルラボ等の既存の施設の活用を考えるべきこと
になる。

○アンケートでは、NOICの設置数について、県内1か所から10か所まで、幅広く
選択肢を設けている。しかし、まずは、県内1か所に設置し、運営ノウ・ハウの
蓄積等を図りつつ、需要の規模・傾向等を十分に把握した上で、増設等を検討す
るというのが、常識的手法と言えるのではないだろうか。

【NOICの運営主体・体制】
○アンケートでは、県の直営、民間委託等の選択肢を設けている。NOICを早期か
つ円滑に立上げるためには、産業イノベーション創出への支援事業の企画・実施
化に経験を有する、長野県中小企業振興センターや長野県テクノ財団等の産業支
援機関に運営を委託すべきことになる。既に実施している創業支援関係の事業と
の重複を避け、それをより効果的に活用することも可能となる。
 NOICの支援サービス提供等における、専門性、柔軟性、迅速性等の確保の視点
からは、県の直営方式は、選択肢から外れることになろう。

○NOICの活動を支援する産学官の産業支援機関を、「NOIC協議会」(仮称)メン
バーとして組織化し、NOICの事業計画の策定・運営等に参画していただき、NOIC
事業の高度化を図るような「仕掛け」を整備することも重要事項になる。
 例えば、協議会メンバーである産業支援機関に所属する、産業イノベーション
創出に関する専門知識を有する様々なコーディネータ等の協力を得られる体制を
整備しておくことは、NOICの支援機能高度化には不可欠と言えるだろう。

【むすびに】
○長野県中小企業振興条例は、長野県の中小企業は、産業イノベーション創出に
よって発展していくべきことを基本理念としている。長野県が、NOICの設置によ
って、産業イノベーション創出を根幹に据えて、中小企業振興に本気で取組む決
意表明をしたことを大いに歓迎し、微力ではあるが、その具現化に最大限の協力
をするつもりである。

〇ここでのNOICの在り方に関する私の提言は、今後の産学官の関係の皆様による、
NOICを、他県等の産業支援機関に比して、優位性のある産業イノベーション創出
支援拠点として実現するための、本格的な議論や県への提言等の活動の「触媒」
になることを期待したものである。関係の皆様の英知が高度に結集されたNOICと
なることを願っている。


ニュースレターNo.109(2017年7月26日送信)

地域産業振興戦略の「目指す姿」の提示手法
―――長野県食品製造業振興ビジョンの「目指す姿」を検討事例として―――

【はじめに】
〇現在、全面的見直し作業が進められている「長野県食品産業振興ビジョン」
(案)については、食品製造業に焦点を当てることを明確化するため、途中か
ら名称が「長野県食品製造業振興ビジョン」(案)に変更されている。
 そして、同ビジョン(案)はほぼ固まったとして公表された後に始まった、
同ビジョン(案)の全面的見直し作業においては、その体系・構成について、
@実現を「目指す姿」(ビジョン)、Aビジョン実現への道筋(シナリオ)、
Bシナリオの着実な推進に必要な各種施策(プログラム)とすることとして、
まず、@の「目指す姿」の見直しに取り組むこととなった。

〇日本の人口が減少傾向を辿り、高齢化が進展すれば、当然のことながら国内
の食品市場(国民の飲食の全体量)は確実に縮小していく。したがって、長野
県の食品製造業の基本的な成長戦略は、必然的に、「製品の高付加価値化」と
「海外市場の確保」の2点に焦点を当てるべきこととなる。
 そこで、「長野県食品製造業振興ビジョン」が実現を「目指す姿」としては、
その2点を組み込み、「世界の食市場で優位性を確保できる新規高付加価値食
品を創出・提供する食品製造業の集積形成」というような主旨のものを提示す
べきことになる。

〇そのことを前提とした上で、県の担当部署は、本県の食品製造業が、@健康
志向や安心・安全等の消費者ニーズに応えること、A本県の食に関連する歴史・
風土等の地域的特徴を活用すること、B農業・観光等の他の関連産業と共に発
展すること、C高いブランド力を持つ食品を創出すること、の4点を優位性確
保の源泉として「キーワード」的に「目指す姿」の中に組み込みたいという非
常に強い意向を有しており、以下のような長文の「目指す姿」(案)を7月14日
に関係者あてに提案し、意見を求めてきた。

 「目指す姿」(案)
 健康長寿や豊かな自然環境などの地域的特徴を活かし、健康志向や安心・安
全などの消費者ニーズに応え、高いブランド力を持つ食品を創出・提供し、世
界の食市場に貢献する食品製造業の集積形成を図る。
 併せて、食品製造業を核として、農業や観光など、多様な産業分野と連携し
た取組を実施し、相乗効果を発揮することにより、長野県「食」関連産業の発
展に寄与する。

〇この「目指す姿」(案)については、「世界の食市場に貢献」というような
意味の良く分からない表現を修正すべきこと、「長野県『食』関連産業の発展
に寄与」を食品製造業の使命とし、その「目指す姿」として提示することの適
否など、検討すべき課題がいくつもある。
 しかし、ここでは、この長文で分かりづらい「目指す姿」を如何にして短文
化し、インパクトのある表現形式に転換すべきか、という1点に焦点を絞り、
以下で、県の担当部署への私の提案内容と、私の提案への担当部署の対応状況等
について整理し、地域産業振興戦略策定手法に関する調査研究の一つとして紹介
したい。

【県への提案事項1(7月17日):「目指す姿」に多くの「キーワード」を組
み込みたい場合の手法=「総括的目指す姿」と「各論的目指す姿」に分けて提
示すること】
〇県の担当部署が提示した長文の「目指す姿」(案)を、短文化した「総括的
目ざす姿」と、組み込むべき「キーワード」毎に分けた「各論的目ざす姿」で
再構成して、より分かり易く提示する手法については、以下のような例示をす
ることができるだろう。

[総括的目指す姿]
〇世界の食市場で優位性を確保できる新規高付加価値食品を創出・提供する食
品製造業の集積形成

[4つの各論的目指す姿]
@健康志向や安心・安全などの多様な消費者ニーズに的確に応える新規食品を
創出・提供する食品製造業の集積形成

A長野県の健康長寿、豊かな自然等の地域的特徴を科学的に評価・活用できる
食品製造業の集積形成

B農業・観光等の多様な産業分野の課題解決に貢献する、新規食品・製造技術
を創出・提供できる食品製造業の集積形成

C世界の食市場で優位性を確保することに資するブランディング力(ブランド
戦略を策定・実施化できる力)を有する食品製造業の集積形成

【県への提案事項2(7月18日):「総括的目指す姿」と「各論的目指す姿」
の提示をよりキャッチ―な形にする手法=「各論的目指す姿」の主旨を副題と
して提示し「総括的目指す姿」と一体化すること】
〇「総括的目指す姿」と「各論的目指す姿」を明確に区分して提示することに、
視覚的にある種の堅苦しさやアピール性の弱さ等を感じる場合には、「各論的
目指す姿」の主旨を副題としてキーワード的に提示する手法を推奨できる。以
下に一つの「形」を例示する。

    [目指す姿](例示)
世界の食市場で優位性を確保できる新規高付加価値食品を創出・提供する
食品製造業の集積形成
   ―――4つの優位性を有する食品製造業の実現―――
  @健康志向や安心・安全等の消費者ニーズへの的確な対応
  A歴史・風土等の地域的特徴の科学的高度活用
  B農業・観光等の関連産業とのWin―Win連携
  C世界市場への展開を加速するブランディング力

【県の担当部署の提案事項への対応】
〇県の担当部署が、私からの提案事項を参考にして、「長野県食品製造業振興
ビジョンに係る検討会」(7月26日。信州大学、長野県中小企業振興センター、
長野県テクノ財団、長野県で構成)の場で提示してきた、見直し後の「目指す
姿」(案)は、以下の通りである。

    [目指す姿](案)
 国内外の食市場で優位性を確保できる高付加価値食品を創出・提供する
 食品製造業の集積形成
    〜 4つの優位性を有する食品製造業の実現 〜
  @健康志向や安心・安全など消費者ニーズへの的確な対応
  A世界市場への展開を加速するマーケティング力
  B健康長寿やそれを支えてきた食文化・歴史・風土等の地域的特性の活用
  C農業・観光等の関連産業との相乗効果

○私の提案を尊重していただき、アピール性のある分かり易い表現形式に改善
されていると思われるが、残念ながら、直ちに修正すべき事項を少なくとも2
つ挙げなければならない。
 [第1の修正すべき事項]
 Bの「地域的特性の活用」については、地域的特性をどのように活用するの
かで、優位性を確保できるか否かが決定する。本県の地域的特性の中で、食品
の優位性のアピールに活用できる事項の科学的根拠を明らかにし、その科学的
根拠を活用して、食品の真の優位性を確保するというアプローチが不可欠とな
る。したがって、私の案では、エビデンス・オリエンテッドな視点から、「科
学的高度活用」という表現を用いている。いずれにしても、単に活用ではなく、
長野県らしくどのように活用していくのかを示す「修飾語」が必要となる。

 [第2の修正すべき事項]
 Cの「関連産業との相乗効果」については、何によって、どのような効果が
生まれるのかが分かりにくい表現となっている。また、相乗効果という言葉か
らは、新たな価値が生まれる、創造的なイメージがあまり伝わって来ない。し
たがって、「関連産業との連携による新たな価値の創造」、「関連産業との創
造的な連携」などの、発展的で創造的な意味合いの強い表現に変えることが必
要となる。

〇これら第1、第2の修正を加えれば、産学官が一致団結して、本県の食品製
造業の振興に取り組んでいく際の「旗印」に相応しい、分かり易く、アピール
性と論理性のある「目指す姿」となるだろう。
※第1、第2の修正すべき事項については、「長野県食品製造業振興ビジョン
に係る検討会」(7月26日)の場で詳しく説明済み。

【むすびに】
〇「長野県食品製造業振興ビジョン」の策定作業において、「目指す姿」を提
示できれば、次に、その「目指す姿」を実現するための道筋(シナリオ)と、
そのシナリオを着実に推進するための各種施策(プログラム)を順次提示する
ことになる。

〇シナリオの検討については、当然、4つの「各論的目指す姿」毎に実施する
ことになる。そして、その後のプログラムの検討においては、それぞれのシナ
リオ毎に実施されることになる。
 このようなことから、どのような表現形式にしろ、「総括的目指す姿」だけ
ではなく「各論的目指す姿」を提示しておく手法は、「長野県食品製造業振興
ビジョン」の策定作業全体を効率的かつ論理的に進めることに大いに資するこ
とになるのである。

〇「長野県食品製造業振興ビジョンに係る検討会」(7月26日)の場で説明さ
れた「目指す姿」(案)については、私を含む出席者からの意見を踏まえ、体
系・構成は変えずに、表現に関して必要な修正を加え、後日、検討会の出席者
に示されることになった。
 今後も、地域産業振興戦略の策定手法の高度化に資する新たな知見を活用し
て、「長野県食品製造業振興ビジョン」(案)の質的高度化に貢献して参りた
いので、引き続き皆様方から、ご意見・ご支援等を頂ければ幸いである。


ニュースレターNo.108(2017年6月30日送信)

長野県食品産業振興ビジョンにおける「発酵長寿県」宣言の在り方
―――「浜松を『光の尖端都市』に〜浜松光宣言2013〜」を参考にして―――

【はじめに】
〇現在、全面的見直し作業が進められている「長野県食品産業振興ビジョン
(案)」においては、幾度かの修正を経ても、他県等に先駆けて「発酵長寿県」
宣言を実施することは提示され続けている。
 この「発酵長寿県」宣言については、ニュースレターNo.102(平成29年3月
29日送信)等において、「明確な科学的根拠も示さないままに、長野県の健康
長寿の主な要因が、発酵食品の摂取であるかのような勝手な論理を、『発酵長
寿』あるいは『発酵長寿県』というようなキャッチフレーズ(造語)でイメー
ジ化し、同ビジョン(案)の体系・構成の『根幹』に据えている点は、県が策
定する産業振興ビジョンとしては非常に問題である。したがって、県として、
『発酵長寿県』宣言を実施するようなことは絶対に避けるべきである。」とい
うような主旨の提言を繰り返し実施してきている。

〇しかし、県として何か事情があって、どうしても「発酵長寿県」宣言を実施
したいということならば、その宣言の内容を、科学的根拠の乏しい短なるイメ
ージ戦略的な内容ではなく、本県の食品産業が他県等の食品産業に対して優位
性を確保すること資する、科学的根拠に基づく産業振興戦略に相当する内容に
できれば問題は無いのではないのか、という考え方に至ったのである。

〇このような考え方に至った最も大きな理由は、過日、「メディカルフォトニ
クスの新技術によって、浜松地域を光応用産業の尖端都市にすることを目指す
シンポジウム」に参加し、「浜松を『光の尖端都市』に〜浜松光宣言2013〜」
の存在を知り、新たな地域産業の振興を目指して、産学官の基本的な取組み方
針を「宣言」という形で内外にアピールすることの、政策的意義・効果につい
て強く認識させられたことである。

【「浜松を『光の尖端都市』に〜浜松光宣言2013〜」の概要について】
〇浜松光宣言の体系・構成・内容について、その概要を勝手にまとめさせてい
ただくと、以下の様になる。
1 宣言の実施者
    静岡大学 学長、浜松医科大学 学長、光産業創成大学院大学 学長、
  浜松フォトニクス 代表取締役
2 光科学と光産業
  光には無限の可能性があり、光科学と光産業の発展が、人類に大きな恩恵
 をもたらす旨を述べている。
3 光科学と光産業と浜松
  浜松はテレビジョン発祥の地であり、浜松は光科学と光産業の発展に大き
 な役割を果してきており、浜松が今後も光の産業応用に係る世界の中心とし
 て活動していくべき旨を述 べている。
4 光の尖端都市HAMAMATSUに
  浜松は、日本の政治経済の中心ではない地方都市であるが、光技術の極限
 に挑み続ける人々や、様々な機関が存在していることから、世界はHAMAMATSU
 を知っている旨を述べ、世界の俊英が、一度はそこで学び、研究・開発したい
 と思う「光の尖端都市HAMAMATSU」を創造することを「新たな使命」とし、宣
 言実施者がその具現化のために密接に連携して 取り組んでいく旨を表明して
 いる。
5 今後の活動方針
 「光の尖端都市HAMAMATSU」を実現するために、光の最先端研究を目指し世界
 と交流すること、光の産業化を恒に意識しベンチャー企業等にタイムリーに支
 援すること、国や県市の施策との連携を図り、我が国の光に関する基礎・応用
 研究の進展、産業競争力の強化に貢献すること、などを掲げている。

〇浜松光宣言の実施者には、県や市は含まれていないが、県や市の光関連の産業
振興施策には、この宣言に基づいて策定・実施化される旨が述べられている。こ
の宣言の具現化が、産学官の緊密な連携によって強力に進められていることは、
今年の4月1日に、(公財)浜松地域イノベーション推進機構の中に、光応用産
業振興の中核的推進拠点「フォトンバレーセンター」(10名体制)が、静岡大学、
静岡県・浜松市等の人的・資金的支援を得て設置されたことにも良く表れている。

【長野県の食品産業振興に資する「発酵長寿県」宣言の在り方について】
〇浜松光宣言を参考にすれば、理想的な「発酵長寿県」宣言の体系・構成・内容
については、以下の様なイメージを提示できるだろう。
1 宣言の実施者
  宣言の具現化を産学官の連携活動で目指すのであれば、宣言実施者は、産学
 官の関係機関の代表者になる。当然、県内の発酵食品業界の代表者が含まれる
 ことになる。
2 宣言の趣旨
  本県の伝統的発酵食品は、人々の健康の維持増進に更に大きな恩恵をもたら
 す可能性を秘めていることから、発酵食品の機能性解明や機能性強化のための
 基礎研究と、その産業応用のための実用化研究に、国内広域的・国際的な産学
 官連携によって取り組み、本県において、発酵食品による健康の維持増進を先
 導する高度食品産業の集積形成の実現を目指すことを、宣言実施者が表明・約
 束する。
3 宣言に基づき具現化を目指す食品産業の姿
  新たな発酵技術を活用した新規食品によって、世界の人々の健康の維持増進
 に貢献するとともに、その新規食品の生産・供給を通して成長し続けることが
 できる、国際競争力を有する高付加価値型食品産業の集積
4 目指すべき食品産業の姿を具現化するための産学官の連携活動方針
  宣言実施者は、発酵技術によって、人々の健康の維持増進と食品産業の発展
 に資する、以下を含むあらゆる活動に緊密に連携して取り組んでいく。

@世界の「食」の課題解決ニーズの把握とその解決に応用できる発酵技術とのマッ
チングシステムの構築・運営
A健康の維持増進や、「食」の安心・安全確保に貢献する新規発酵食品の研究開
発とその成果の早期事業化
B国・県等の産業政策との緊密な連携の下に、新規発酵技術による「食」の課題
解決に貢献する事業の積極的な企画・実施化

〇このように、「発酵長寿県」宣言を実施すれば、食品産業の振興に関して、産
学官が担うべき役割とその実施化への意思が、広く明確にアピールされることに
なる。すなわち、発酵技術が絡む食品産業の振興施策の企画・実施化については、
より確実に推進されることになるという政策的メリットがもたらされることになる。
 このような政策的メリットがもたらされる「発酵長寿県」宣言なら大歓迎とい
うことになるが、なぜ、発酵技術による食品産業の振興のためだけに政策的宣言
がなされるのか、という新たな疑問に応えることが必要になるのである。

【むすびに】
〇浜松地域で、産学官が一致団結して、浜松光宣言の具現化に強力に取り組めて
いるのは、光の応用に関する技術(光による加工、計測、表示、通信等)が、浜
松地域のあらゆる業種の製造業の課題の解決に貢献しうることが、歴史的に共通
認識として定着しているからである。

〇しかし、長野県の発酵技術は、浜松地域における光技術のように、地域産業の
課題の解決に貢献しうる地域特有の技術として共通認識されるものとはなってい
ない。なぜなら、味噌・醤油、酒等に係る発酵技術は、全国共通の技術であって、
長野県に特異的に蓄積されてきたものではなく、そのままでは、長野県の食品産
業に国際的な優位性や独創性を与える技術とはなりえないからである。

〇したがって、発酵技術にのみ焦点を当てた「発酵長寿県」宣言で、長野県の食
品産業の振興戦略に優位性を確保できるのか、長野県が強みとする他の工業技術
も含めて、食品産業の振興に資する政策的宣言をすべきではないのか、というよ
うな非常に重要な検討課題が残されたままになっているのである。


ニュースレターNo.107(2017年6月28日送信)

長野県食品産業振興ビジョンの論理的な体系・構成の在り方
    〜同ビジョン(案)の全面的見直しに対応して〜

【はじめに】
○今まで、5月中の策定として公表されてきた「長野県食品産業振興ビジョン
(案)」については、その経緯・背景は良く分からないが、全面的な見直し作業
が進められているようである。
 そこで、同ビジョン(案)について、その論理的脆弱性等を繰り返し指摘して
きた者としては、全面的見直しを歓迎するとともに、その在るべき論理的な体系・
構成(ビジョン・シナリオ・プログラム)について改めて提言し、優位性のある
ビジョンとして生まれ変わることに少しでも貢献できればと考えた次第である。

〇以下で、同ビジョンの「実現を目指す姿(ビジョン)」、「ビジョン実現への
道筋(シナリオ)」、「シナリオの着実な推進に必要な各種施策(プログラム)」
の在り方について、今までの提言内容を含めて総合的に整理し直してみたい。

【「実現を目指す姿(ビジョン)」の分類・整理の在り方】
〇本県の食品産業振興に関する戦略について議論する際には、まず、本県の食品
産業は、「何」によって、他県等の食品産業に対して優位性(市場競争力等)を
確保できるのか、あるいは、「何」によって、優位性の確保を目指すべきなのか、
をテーマとすべきことになる。
 この「何」が、本県食品産業の振興に、県内の産学官の産業支援機関が一致団
結して取り組む場合の、それぞれの活動の「ベクトル合わせ」のための共通認識
(旗印)として極めて重要になるのである。

〇この「何」を「実現を目指す姿(ビジョン)」の中に位置づける場合について
は、以下の様に大きく2つに分類・整理できるだろう。

[ビジョン1](「何」=特定の食品)
特定の機能性、信頼性(安心・安全)等を有する特定の食品を創出できることで
優位性を確保する。

[ビジョン2](「何」=食品を創出する「仕掛け」)
新規高付加価値食品の創出を加速できる「仕掛け」を設置・運営することで優位
性を確保する。

【[ビジョン1](「何」=特定の食品)の具体的設定の在り方】
〇[ビジョン1]の「特定の機能性、信頼性(安心・安全)等を有する特定の食品
を創出できることで優位性を確保する」ことを「実現を目指す姿(ビジョン)」
として設定するためには、長野県の産学官において、例えば、新規機能性成分の
抽出・応用技術や、アレルゲン・残留農薬等の有害成分の新規除去技術等の分野
で、高付加価値で新規な食品の製造に活用可能な先進的技術シーズ(研究成果、
特許等)を有していることが前提となる。

〇この「実現を目指す姿(ビジョン)」を具体的に表現する場合には、例えば、
「成人病予防に顕著な効果を発揮する新規食品を創出できる高度食品産業の集積
形成」、「各種アレルゲンの完全除去により食の安心・安全確保に貢献する高度
食品産業の集積形成」というような、具体的な食品像をイメージできる表現形式
になるだろう。

〇成人病予防食品なら長野県、アレルゲン除去食品なら長野県というように、長
野県食品産業(関係機関を含めて)が、特定の食品分野で非常に高度で独創的な
技術力を有することを、他地域の食品産業に対する優位性(顕著な差異)として
アピールし、ブランド化を図ろうとするものである。

【[ビジョン2](「何」=食品を創出する「仕掛け」)の具体的設定の在り方】
〇活用すべき先進的技術シーズを明確に選定・提示できないことから、 [ビジョ
ン1](「何」=特定の食品)をビジョンとして設定できない場合には、広く消費
者が健康増進や「食」の安心・安全のために求めている新規食品像の探索・選定
から、その食品のデザイン(仕様設計等)、その具現化のための研究開発・評価、
販路開拓等に至るまでの一連の活動を活性化し、早期に研究開発成果を事業化で
きる「仕掛け」、すなわち[ビジョン2]の「新規高付加価値食品の創出を加速で
きる『仕掛け』を設置・運営することで優位性を確保する」ことを目指すべきこ
とになる。

〇創出を目指す食品像(食品ニーズ、ニーズに応えうる食品の機能・形態に係る
デザイン等)を最初に特定・提示することができなくても、目指すべき食品像の
探索、その食品像の具現化に必要な先進的技術シーズの探索、その技術シーズを
応用して食品像を具現化するための研究開発の企画・実施化等に取り組むという
ような、新規食品の創出活動の加速化の「仕掛け」における優位性を明確に提示
できれば、実効性の高い食品産業振興ビジョンとしてまとめ上げることは可能と
なるのである。

〇この「実現を目指す姿(ビジョン)」を具体的に表現する場合には、例えば、
「世界の『食』ニーズに応える新規高付加価値食品を創出し続ける高度食品産業
の集積形成」というような、具体的な食品像を提示せずに、新規食品の総合的な
創出力に優れている点を強調する表現形式になるだろう。

〇今までに公表された食品産業振興ビジョン(案)を見る限り、その策定作業の
現場においては、応用すべき大学等の先進的技術シーズを特定することが困難な
ようなので、ここでの議論においては、同ビジョン(案)の「実現を目指す姿
(ビジョン)」については、この「世界の『食』ニーズに応える新規高付加価値
食品を創出し続ける高度食品産業の集積形成」を仮置きし、以下で、そのシナリ
オ・プログラムについて検討してみたい。

【「ビジョン実現への道筋(シナリオ)」の設定の在り方】
〇「世界の『食』ニーズに応える新規高付加価値食品を創出し続ける高度食品産
業の集積形成」の実現への道筋(シナリオ)としては、今まで公表されてきた食
品産業振興ビジョン(案)の内容も考慮して、以下の4つのシナリオに整理し提
示してみたい。

[シナリオ1] (ニーズとシーズのグローバル・マッチングシステムの構築)
国内外の「食」の課題解決ニーズの把握とその解決方策創出への「仕掛け」の構築
〜グローバルな規模での「食」のニーズと、そのニーズに応える「食」を具現化
 できる技術 シーズとのマッチングシステムの構築〜

[シナリオ2] (研究開発テーマは、第1に、健康長寿に資する機能性食品分野へ特化)
健康長寿に資する新規食品の創出
〜新規機能性成分の探索と伝統的発酵食品の微生物学的特性の解明による、新規
 機能性食品創出の加速化〜

[シナリオ3] (研究開発テーマは、第2に、食品における安心・安全確保分野へ特化)
食品の安心・安全に資する新規食品や新規生産管理システムの創出
〜「食」の安心・安全確保への、長野県の産学官の知的蓄積(超精密技術、先端
 材料技術等)の応用展開〜

[シナリオ4] (「食」を通じた他産業とのWin−Win関係の構築)
他産業の課題解決に資する新規食品や新規食品関連技術の創出
〜農業、小売・流通、観光等の他産業の製品・サービスの質的向上に資する、
 「食」関連新技術・新製品の創出〜

【シナリオに参画する産学官の産業支援機関の組織化と中核的推進機関設置の必要性】
○前述の4つのシナリオを効果的に推進できるようにするためには、本県の食品
産業振興に取り組んでいる産学官の産業支援機関(以下、「プレーヤー」と言う。)
に対しては、食品産業振興ビジョン(案)の策定作業の段階から、プレーヤーの
意思を尊重した、実際に稼働可能な「仕掛け」を構築できるよう、十分な意見交
換の機会を設けるなどの配慮が必要になる。

〇プレーヤーの同ビジョンへの参画意思を確認し、その参画意欲を高めた上で、
プレーヤーの組織化や連携事業の在り方等について、同ビジョンの中に明確に提
示しておくことが、同ビジョン策定後の速やかな連携事業の着手に繋がるのである。

〇また、4つのシナリオを、相互に関連付けながら効果的に推進できるようにす
るためには、全プレーヤーの活動を俯瞰的に把握し、各シナリオの推進に係るPDCA
サイクルを回す中心的役割を担う、中核的推進機関を設置(指定)しておくこと
が不可欠となる。
 当然、同推進機関が、シナリオの推進に必要な各種施策(プログラム)ついて
も、各プレーヤーとの意見交換の下に、総合的に企画・調整し円滑な実施を図っ
ていくことになる。

○このようなことから、設置(指定)すべき同推進機関については、以下のよう
な機能を有していることが求められる。
@新規食品ニーズの探索・選定、新規食品のデザイン(仕様設計等)、研究開発・
評価、販路開拓等に至る全工程を、他の産業支援機関との連携に下に一貫支援で
きる機能
A国際競争力を有する新規高付加価値食品を、国内広域的・国際的な産学官連携
によって、次々と創出する「仕掛け」を整備・運営できる機能
Bプレーヤーを組織化し、プレーヤーとの連携事業に係るPDCAサイクルを回し、
その連携事 業の改善・高度化を主導できる機能 etc.

〇以下で、同推進機関が、プレーヤーと連携して企画・実施化を主導すべき、
「シナリオの着実な推進に必要な各種施策(プログラム)」の在り方について議
論してみたい。

【[シナリオ1]「国内外の『食』の課題解決ニーズの把握とその解決方策の創出
への『仕掛け』の構築」のためのプログラム】
〇「食」に関する先進的地域クラスターとの連携
国内外の「食」に関する先進的地域クラスターの中核的産業支援機関との連携に
よる、
@「食」に関する課題解決ニーズの探索とその解決方策創出のための共同研究
開発プロジェクトの企画・実施化を目指す、情報交換会の開催、国際的展示会等
での調査
A研究開発された新規食品の早期事業化のための、パートナー企業・大学等の探
索と事業化プロジェクトの企画・実施化を目指す、情報交換会の開催、国際的展
示会等での調査

【[シナリオ2]「健康長寿に資する新規食品の創出」のためのプログラム】
〇新規機能性成分の探索と新規機能性食品の効能検証への支援体制の整備
 本県産の農林水産物が含有する未知の機能性成分の探索・評価と、その成分を
応用した新規機能性食品の効能検証等を支援する新たな産学官連携体制の整備

〇発酵技術の高度化と応用展開への支援
 本県の伝統的発酵食品の優れた特性の微生物学的解明と、その解明成果の新規
応用分野の探索と事業化のための産学官連携研究開発プロジェクトの企画・実施
化への支援
  @食品に応用できる新規発酵技術に関する大学・研究機関等の研究成果発表会の
開催
A新規発酵技術を活用した新規食品のデザイン(仕様設計等)や、その具現化の
ために必要な産学官連携体制構築への支援、その体制による研究開発への助成等

【[シナリオ3]「食品の安心・安全に資する新規食品や新規生産管理システムの
創出」のためのプログラム】
〇「食」の安心・安全の確保に資する新技術・新製品の研究開発への支援
 「食」の安心・安全の確保に関する課題解決ニーズの探索と、その課題解決に
資する新規食品や新規生産管理システムの創出のための産学官連携研究開発プロ
ジェクトの企画・実施化への支援
@県内食品産業が抱えている「食」(食品そのもの、食品製造工程等)の安心・
安全に関する課題の探索・選定のための研究会の開催
A 選定課題の解決方策創出のために必要な産学官連携体制構築への支援、その
体制による研究開発への助成等

【[シナリオ4]「他産業の課題解決に資する新規食品や新規食品関連技術の創出」
のためのプログラム】
〇農業、小売・流通、観光等の他産業における「食」に係る課題解決に資する新
技術・新製品の研究開発への支援
@他産業が抱えている「食」に関連する課題解決ニーズの探索・選定のための研
究会の開催
A選定課題の解決方策創出のために必要な産学官連携体制構築への支援、その体
制による研究開発への助成等

〇食品系廃棄物の減量化・有効利用に資する新技術・新製品の研究開発への支援
 農業・食品製造現場等から排出され、有効利用の困難性から処理コストが嵩む
有機性廃棄物の、新規有効利用技術の創出のための動脈・静脈産業連携型の研究
会の開催

  【むすびに】
〇現状の長野県食品産業振興ビジョンの策定作業について、私が最も危惧してい
るのは、長野県航空機産業振興ビジョンに関するニュースレターにおいても指摘
したことだが、ビジョンの策定作業に、ビジョン具現化に不可欠な、県内の産学
官の産業支援機関(ビジョン具現化のプレーヤー)がほとんど参画していないこ
とである。
 プレーヤーを集めた、食品産業振興の在り方に関するフリーディスカッション
さえも実施されていないのである。

〇県組織を中心とする限られたメンバーだけで(閉ざされた環境下で)、策定さ
れる食品産業振興ビジョンには、県内の産業支援機関が一致団結して、オール信
州で、国際的競争力を有する食品産業の集積形成に取り組む活動を活性化すると
いう効果(旗印としての役割)を期待することはできないのである。

〇なお、本県の食品産業の振興のためには、他県等の食品産業との差別化を図る
ための食品のブランド戦略を強化すべきとの意見を良く耳にする。このブランド
戦略の策定・実施化において最も留意すべきことは、「何」によって、長野県の
食品産業が創出する食品を、他県等の食品産業が創出する食品と差別化するのか、
ということである。
 その「何」については、長野県の豊かな自然環境や健康長寿というような、食
品の品質を直接的には左右しない、風土的な特徴(長野県の心象的な要素)の中
に求めるのではなく、高度な技術力によって生み出される、科学的根拠に裏打ち
された食品の品質の中に求めるべきことを強調しておきたい。


ニュースレターNo.106(2017年6月14日送信)

「地域産業クラスター拡大再生産『装置』」としての「産業イノベーション創出活動の活性化『装置』」の在り方

【はじめに】
○地域産業クラスターが持続的に拡大していくメカニズムの解明が、私の地域産
業政策研究における最重要テーマであるが、なかなかその「解」を見いだせない
ままに何年も過ごしてきてしまった。しかし、最近、長野県の「次期ものづくり
産業振興戦略プラン(H30年度〜H34年度)」(以下、「次期プラン」という。)
の策定作業に係らせていただいている中で、「産業イノベーション創出活動の活
性化『装置』」が、「地域産業クラスター拡大再生産『装置』」の中核的な構成
要素になることにやっと気づくことができたのである。
※ここでの産業イノベーション創出の定義は、当然、次期プランと同様、以下に
示す長野県中小企業振興条例の定義と同じことになる。
 産業イノベーション創出=新たな製品又はサービスの開発等を通じて新たな価
値を生み出し、経済社会の大きな変化を創出すること

○従来からの本県の地域産業振興戦略は、中小企業振興戦略として、大手メーカ
ー等からの受注量拡大戦略(受注量拡大のための研究開発、販路開拓、人材育成
等に至るまでの多種多様な支援メニューで構成)を中核に位置づけてきている。
この大手メーカー等からの受注量拡大戦略は、現状の企業の存続のために不可欠
なものであるが、自らはコントロールできない経済・産業動向に大きく影響を受
けることから、いわば「他力本願的な戦略」とも言える。
 しかし、産業イノベーション創出戦略は、社会的あるいは経済・産業的に重大
な課題の解決方策を開発・提供することによって、自ら新市場を創出できる、い
わば「自助努力型の戦略」と言えるのである。
 したがって、地域産業クラスターが、経済・産業動向に翻弄されず、自らの力
で持続的に拡大できるようにするためには、この自助努力型の産業イノベーショ
ン創出戦略、すなわち「産業イノベーション創出活動の活性化『装置』」の存在
が不可欠となるのである。

○「地域産業クラスター拡大再生産『装置』」≒「産業イノベーション創出活動
の活性化『装置』」という仮説をベースとして、地域産業クラスター形成に資す
る「産業イノベーション創出活動の活性化『装置』」の具体像について以下で議
論をしてみたい。
 なお、皆様方からご意見等をいただき、その「装置」の具体像を更にブラシュ
アップしたいと目論んでいるので、ご協力等よろしくお願いしたい。

【次期プランにおける産業イノベーション創出の位置づけ】
○次期プランの「目指す姿」は、「産業イノベーションの創出に向けて、積極果
敢にチャレンジするものづくり産業の集積」である。産業イノベーションの創出
を目指す地域ものづくり産業の活動が活性化することが、当該地域のものづくり
産業の「成長エンジン」となることから、正に的を得た「目指す姿」の提示と言
える。

○そして、次期プランの策定作業においては、その産業イノベーションの創出工
程を以下の様に整理・提示し、その創出工程を一貫支援できる体制の構築等、「産
業イノベーションが創出されやすい環境を整備すること」を重点施策として位置
づけている。

[産業イノベーションの創出工程]
1 社会的・経済的ニーズの把握・選定
  ↓
2 ニーズに対応するためのアイディアの検討・選定
  ↓
3 ビジネス化可能性の評価
  ↓
4 研究開発
  ↓
5 試作・評価・改良
  ↓
6 生産
  ↓
7 販売・販路拡大
  ↓
8 新たな価値の創出、経済社会の大きな変化の創出(産業イノベーションの創出)

○次期プランの検討部会の委員からは、新製品の研究開発プロジェクトの企画・
実施化においては、創出する製品が真に市場ニーズに応えるものであるのかとい
う、いわゆる「出口」についての十分な検討・評価を経た上で着手すべきという
主旨の発言が多く出されている。このことは、産業イノベーション創出の確率の
高いプロジェクトを企画・実施化すべきという主旨であり、正にその通りなので
ある。

○前述の「産業イノベーションの創出工程」の中の「1 社会的・経済的ニーズ
の把握・選定」、「2 ニーズに対応するためのアイディアの検討・選定」、「3
 ビジネス化可能性の評価」という「入口」の段階が的確に推進されることが、
「出口」である産業イノベーション創出の確率を高めることに通ずることになる
のである。

○すなわち、本県ものづくり産業が、「産業イノベーションの創出工程」の1〜
3に相当する活動に効果的に取組み、成功確率の高い産業イノベーション創出戦
略を次々と策定できるようになるためには、産業イノベーション創出の「入口」
段階を支援する「政策的仕掛け」(各種の支援施策の集合体)を中核的な構成要
素とする、「産業イノベーション創出活動の活性化『装置』」が必要となるので
ある。その「政策的仕掛け」に、長野県としての優位性を付加できるか否かが、
次期プランが他県等に対する優位性を確保できるか否かを決定づけることになる
のである。
 以下で、その優位性のある「政策的仕掛け」の在り方について議論をしてみたい。

【社会的・経済的ニーズの把握・選定を支援する「政策的仕掛け」】
○まず、社会的ニーズとは、例えば、住民生活の質的高度化の障害となっている
課題(日常生活に係る健康、環境等の、様々な分野で住民が直面している課題)
を解決してもらうことへの住民の期待・要望と言えるだろう。
 次に、経済的ニーズとは、例えば、産業活動における付加価値向上(生産性向
上)の障害となっている課題(困難性の高い新規高付加価値製品の創出、製造工
程改善による生産性向上等の、様々な分野で産業界が直面している課題)の解決
支援への産業界の期待・要望と言えるだろう。

○それでは、県内ものづくり産業が、その社会的・経済的ニーズを把握すること
を支援する「政策的仕掛け」とは、どのように整備すべきなのだろうか。
 そもそも、地域住民や地域産業界が抱えている課題の解決は、県、市町村等の
行政サイドが、何らかの形で対応すべき課題でもあるのである。
 したがって、当然、行政サイドは、解決の困難な各種の地域課題を行政課題と
して位置づけ、整理・蓄積しているはずなのである。

○行政サイドが抱えている行政課題については、地域の産業界や大学等との連携
(地域の英知の結集)によって、その解決を目指すという基本姿勢に立てば、当
然、地域の産業界等に対して、解決困難な行政課題を提示し、その解決への協力
を求めるという行動にでるはずである。この極めて自然で合理的な行政サイドの
行動が、「社会的・経済的ニーズの把握・選定を支援する『政策的仕掛け』」の
中核的な構成要素となりうるのである。

〇しかしながら、何故か、行政サイドは、この行政課題の提示に非常に消極的な
のである。例えば、環境行政の現場では、事業所等への立入検査等によって、工
場排水の処理、騒音や悪臭の防止、有害な産業廃棄物の処理等に関して、事業所
等が直面している様々な解決困難な課題を把握しているはずなのであるが、その
解決に産業界等の協力を得ようとする姿勢になかなか転じないのである。

※参考 長野県庁の唯一の行政課題紹介事業
 長野県農政部は、長野県農業の革新を目的として、農業分野で求められている
開発ニーズ(水田の栽培作業の省力化、きのこ栽培管理作業の省力化、堆肥の臭
気問題の解決、乳牛への給餌作業の省力化等)を製造業等の産業界や大学等に紹
介し、農業と製造業・大学等との共同研究開発を目指す事業を展開している。
(平成29年6月23日開催)

【ニーズに対応するためのアイディアの検討・選定、ビジネス化可能性評価を支
援する「政策的仕掛け」】
○把握・選定された具体的な社会的・経済的ニーズに応える新製品の供給を、ビ
ジネスとして如何にして成立させていくべきかという、いわゆるビジネスモデル
についての検討・評価を実施する段階では、例えば、ビッグデータに基づく市場
予測調査等ができるような専門機関等の支援がどうしても必要になるだろう。
 長野県の従来のものづくり産業振興施策においては、ビジネスモデルの検討・
評価の段階への支援施策を明確に提示したことは無かったのではないだろうか。

○したがって、産業イノベーション創出における、この段階の活動を支援する
「政策的仕掛け」は、ビジネスモデルの策定・ブラシュアップからその具現化へ
の取組みまでを、県内外の専門機関等との連携の下に一貫して支援する総合的支
援施策の体系(集合体)の中に、新たに位置づけられることになる。
 その「政策的仕掛け」を構成する、具体的な個別の支援施策については、以下
のような例示ができるだろう。
@ビジネスモデルの策定・評価を含む産業イノベーション創出戦略の策定・実施
化に関して一貫支援できる総合的窓口(拠点)の設置
Aビジネスモデルの策定・評価に助言できる最適な専門家の派遣
Bビジネスモデルの策定・評価に必要な手法等を修得するための研修会等の開催
Cビジネスモデルの策定・具現化に必要な広域的産学官連携体制の構築への支援
Dビジネスモデルの策定・具現化に必要な調査・研究開発への資金的支援 etc.

【むすびに】
○前述の「産業イノベーションの創出工程」を一貫して効果的に支援できる施策
の論理的体系(集合体)が、「産業イノベーション創出活動の活性化『装置』」
となる。この活性化「装置」が他県等に比して優位性を有するものとなることが、
本県の地域産業クラスターが他県等に比して優位性を確保し、拡大再生産してい
けるようになることに密接に繋がるのである。

○これまでの議論から、「産業イノベーション創出活動の活性化『装置』」の優
位性確保については、「産業イノベーションの創出工程」の中の「1 社会的・
経済的ニーズの把握・選定」、「2 ニーズに対応するためのアイディアの検討・
選定」、「3 ビジネス化可能性の評価」という「入口」の段階に対する、独創
性を有する新規支援施策を提示できるか否かにかかっていることが明らかにされ
ている。

○したがって、次期プランに組込むべき「産業イノベーション創出活動の活性化
『装置』」の在り方についての議論においては、関係の産学官の参画の下に、産
業イノベーション創出の「入口」段階への支援施策について重点的に検討してい
ただき、独創的で優位性のある新規支援施策の集合体としてまとめ上げていただ
くことを期待したいのである。


ニュースレターNo.105(2017年5月17日送信)

県内10か所の地域振興局の地域クラスター形成戦略策定主導への期待

【はじめに】
〇グローバルな規模での研究開発・生産活動によって、毎年、長野県のGDPの約
25%を稼ぎ出す、重要産業である製造業を中心に据え、健康・医療、環境・エネ
ルギー、次世代交通の各分野に焦点を当てた地域クラスター形成戦略が、次期も
のづくり産業振興戦略プラン(平成30年度から34年度まで。以下「次期計画」と
いう。)の重点プロジェクトとして、各地域振興局を拠点として策定作業が進め
られている。

〇従来からの長野県の現地機関である地方事務所を改組し、この4月からスター
トした地域振興局が重点的に取り組む「複数の現地機関に関係する『横断的な
課題』」については、報道機関等によってクローズアップされているが、その課
題の中には、地域製造業の国際競争力の強化に係る課題が全く含まれていないと
言えるような状況にあることから、県として、製造業振興の政策的重要性への認
識が低く過ぎるのではないのか、と憂えていたのは私だけではないだろう。

〇しかし、実際には、全ての地域振興局が、次期計画の重点プロジェクトとして
の地域クラスター形成戦略の策定に、非常に熱心に取り組んでいたのである。
 現状での、その地域クラスター形成戦略(案)については、5月17日開催の
「次期計画検討部会(第3回)」の場で公表された。

〇そこで、それぞれの地域クラスター形成戦略(案)の今後のブラシュアップ作
業の参考にしていただくことを目的として、戦略(案)が実現を目指す姿(ビジョ
ン)とその実現への道筋(シナリオ)という、基本的な骨格部分の「優位性」と
「課題」について、以下で、簡潔に整理してみたい。

【佐久地域振興局「プレメディカルケア産業の集積形成」の優位性と課題】
〇この重点プロジェクトの優位性は、地域企業によって開発されたプレメディカ
ルケア製品(ソフト・ハード)を地域住民が実際に使用し、健康管理(疾病予防)
に活用することまでを含めた、住民参加型の産業イノベーションの創出を目指す、
新たな取組みを内包していることである。
 なお、佐久地域が、健康・医療分野における住民参加型の地域クラスター形成
への取組みの先進都市である、松本市と連携できる仕組みを構築できれば、更に
合理的にその優位性を高めていくことができるだろう。

〇課題は、開発されたプレメディカルケア製品の医学的効果を検証・実証するシ
ステムの構築である。住民参加によって、学術面でもビジネス面でも活用できる、
医学的効果に関するエビデンスを蓄積できるようにするためには、松本市のみな
らず、県内外の高度専門的な大学・研究機関等との連携、すなわち、佐久地域の
枠を超えた広域的で合目的的な産学官連携の下に、その手法・体制等について検
討し具現化していくことが必要となる。

【上田地域振興局「東信州広域連携による次世代自立支援機器・産業機器製造業の集積形成」の優位性と課題】
〇この重点プロジェクトの優位性は、東信州地域の10市町村、信州大学繊維学部、
県が、東信州次世代産業振興協議会を立ち上げ、次世代ロボット関連産業の集積
を目指すという、意欲的、広域的かつ緊密な地域クラスター形成推進体制を構築
していることにある。

〇課題は、その意欲ある推進体制が、具体的にどのような優れた機能を有するロ
ボット関連機器の開発によって、国際競争力のある産業集積を新たに形成してい
くのかという、ビジョン、シナリオが未だに不明確であることである。これから、
製品分野別の研究会を立ち上げ、取り組む研究開発課題等の探索・特定をしてい
くとのことであるが、ビジョン、シナリオをまずしっかり詰めておくことの重要
性を、関係者間で十分には認識されていないようで不安が残る。

【諏訪地域振興局「超精密加工技術による医療・ヘルスケア機器分野への参入企業の集積形成」の優位性と課題】
〇この重点プロジェクトの優位性は、諏訪地域が、誰もが認める国際競争力を有
する超精密加工技術の集積地域であり、その強みをベースとしたグローバルな規
模での国際的産学官連携活動の先進地域でもあることから、新たに形成を目指す
医療・ヘルスケア機器分野の産業集積の具現化への潜在的可能性は非常に高いと
いうことである。

〇課題は、優れた技術蓄積と産学官連携研究開発推進体制によって、具体的にど
のような市場競争力を有する新規医療・ヘルスケア機器の創出を目指すのかとい
う、ビジョン、シナリオが未だに不明確なことである。
 これから、医療機関等との交流等によって、研究開発ターゲットの探索・特定
を目指すことにしていることから、現時点では、この地域クラスター形成戦略は、
潜在的には大きな優位性を有しているとしか評価できないことになる。

【上伊那地域振興局「日常生活動作支援産業を主体とするオープンイノベーション」の優位性と課題】
〇この重点プロジェクトの優位性は、地域に立地する県看護大学、病院、福祉施
設等と企業が、既に、障がい者等の日常生活の動作の円滑化を支援する、製品・
サービスの試作開発ネットワークを形成してきていることである。すなわち、県
内外の企業や医療機関等からの当該製品・サービスの試作依頼に的確に対応でき
る、優位性のある試作企業クラスター形成の可能性を有しているということである。

〇課題は、他地域に比して市場競争力のある試作企業クラスターの形成を何によっ
て実現していくのか、その戦略的なシナリオ・プログラムについては明確に提示
できていないことである。今後、伊那地域振興局が調整役となって、地域の産学
官の英知を結集して、他の類似の試作企業クラスターに対して優位性を有するネッ
トワーク形成へのシナリオ・プログラムについての議論を深め、それを実施化し
ていくことが必要となる。

【木曽地域振興局「すんき等の発酵食品による地域ブランディングを通じた産業の集積形成」の優位性と課題】
〇この重点プロジェクトの優位性は、地域独特の伝統的発酵食品である「すんき」
由来の微生物(植物性乳酸菌等)を高度に活用し、機能性成分に着目した新規食
品の開発を目指すという、独自性、独創性を内包していることである。

〇課題は、すんき由来の微生物(植物性乳酸菌)のどのような機能を活かした、
どのような機能を有する新規食品の開発を目指すのかという、目指す食品像(ビ
ジョン)が不明確なために、ビジョン実現のためのシナリオ・プログラムの検討
に入れないことである。
 また、すんき・発酵を核とした地域ブランディングにおいては、単なるイメー
ジ作りではなく、科学的手法による木曽地域の特徴づけ(例えば、すんきの他地
域の発酵食品に対する微生物学的な優位性の解明等)が不可欠となるが、それに
係る具体的シナリオは提示されていない。
 ものづくり産業におけるブランディングは、科学的根拠に基づき実施されるべ
きことを十分に認識した上で、シナリオ・プログラムを検討されることを期待し
たい。

【北アルプス地域振興局「ヘルスツーリズムの活性化に資する農商工連携型産業の集積形成」の優位性と課題】
〇この重点プロジェクトの優位性は、農商工連携によってヘルスツーリズムに資
する新規製品を開発・供給する産業の集積を目指すというビジョンが明確で具体
的であり、かつ、その具現化のための推進組織として「北アルプス山麓地域ヘル
スツーリズム関連商品開発推進協議会」を設立するなど、ビジョン具現化推進へ
の地域の積極性が提示されていることである。

〇課題は、@地域の観光産業サイドが、ヘルスツーリズムの質的高度化への課題
をどのように探索・特定できるのか、A地域の農商工の産業サイドが、特定され
た課題の解決に資する製品・サービスをどのようにして開発・提供するのか、B
観光産業と農商工の産業サイドとのニーズ・シーズのマッチングシステムを、ど
のように構築し、効果的に運営していくのか、ということである。まだ、その根
本的かつ重要な課題への対応策は提示されていない。

【長野・北信地域振興局「地域資源を活用した発酵食品・機能性食品産業の集積形成」の優位性と課題】
〇この重点プロジェクトの優位性は、味噌等の伝統的発酵食品の中の微生物を分
析し、有用な微生物を選抜し、その高度活用によって、伝統的な食品産業の高付
加価値化を図ろうとするような、高度科学的で新しいアプローチによる食品産業
振興戦略を提示していることである。

〇課題は、中小食品企業が、機能性食品の研究開発・事業化を目指す場合に必要
なエビデンスの収集等への支援体制の構築である。新規機能性食品を事業化する
ためには、どのような法的手続が必要で、その手続を完了するためには、どのよ
うなエビデンスを収集し、どのような申請書類を作成しなければならならないの
か。それらを含めて、事業化に係る総合的支援を実施できる体制の整備について、
具体的提示が必要なのである。

【松本地域振興局「信州カラマツ活用型産業の集積形成」の優位性と課題】
〇この重点プロジェクトの優位性は、地域内に大量に存在しているにもかかわら
ず、未だ有効に活用されていないカラマツ材の高付加価値化に注目したことであ
る。地域の製材企業や建設産業等との連携によって、早期に実現しやすいテーマ
であるかもしれない。

〇課題は、松本地域で、他地域に比して優位性を有する(高付加価値な)、カラ
マツを活用したベニヤ板の製造関連産業の集積を形成できる、具体的なシナリオ
が提示されていないことである。
 カラマツでベニヤ板を作りさえすれば簡単に売れる環境であれば別だが、他の
木材によるベニヤ板、他地域で製造された安価・高品質なベニヤ板等との競争も
ある中、なぜ今、松本地域でカラマツのベニヤ板製造に取組むことに政策的意義
があるのか。地域の産学官の賛同を得て、その英知を結集するためには、松本地
域振興局によって、その政策的意義に関する論理的説明がなされることが必要と
言える。

【長野地域振興局「高度科学的手法による未利用バイオマス新規活用産業の集積形成」の優位性と課題】
〇この重点プロジェクトの優位性は、高度な科学技術によって、キノコ廃培地の
有効(高付加価値)活用という、長年の地域課題を解決できることである。しか
も、その手法が、大学発の新規技術シーズの活用による、バイオマスの高付加価
値な糖への変換によるもので、当地域が、日本初の国際競争力を有する新規かつ
独創的なバイオマス活用糖化産業の集積形成を実現することに大きく期待できる
のである。

〇課題は、基礎的な糖化試験等から事業化に至るまでの各工程を明確化し、その
工程を一つひとつ着実にクリアしていくために必要なプレーヤーで構成される、
合目的的な産学官金連携体制を如何にして構築し、運営していくかである。

【南信州地域振興局「航空機システム産業の集積形成」の優位性と課題】
〇この重点プロジェクトの優位性としては、@航空機産業システム(装備品)に
特化した、日本初の航空機システム関連の企業・試験研究機関・大学等の集積を
目指すものであり、新規性や独創性を有していること、A国内に未だない航空機
システム環境試験設備を設置することなどにより、国内外の関連企業等を飯田地
域へ誘引する機能に優れていること、B航空機産業クラスター形成活動に係る、
経済産業省、産総研、JAXA等を含むオールジャパンの支援・調整組織が立ち上がっ
ていること、などを挙げることができる。

〇課題は、南信州地域における「航空機システム産業の集積形成」プロジェクト
には、県(工技センターを含む。)、飯田市、南信州広域連合、南信州・飯田産
業センター、信州大学、テクノ財団等の多くの組織が、それぞれの組織のミッショ
ンに基づき、様々な立場から参画しているが、国際競争力を有する航空機産業ク
ラスター形成を効果的に推進していくためには、個々の組織の活動全体を俯瞰的
に統括・評価し、不足する事業等についての新たな企画・実施化を主導する機能・
権限を有するような、真の中核的推進機関が不可欠であるにもかかわらず、それ
が未だに南信州地域に設置されていないことである。

【むすびに】
〇それぞれの地域振興局による、新たな地域クラスター形成戦略策定への真剣な
努力は、必ずや当該地域産業の持続的発展に大いに資するはずである。
 しかし、前述のように、現状の地域クラスター形成戦略(案)は、形式論的に、
あるいは実質論的に様々な課題を抱えている。今後、それぞれの地域振興局が調
整役となって、当該地域の産学官の英知を更に高度に結集し、まずは、ビジョン
(目指す姿)、シナリオ(目指す姿実現への道筋)という、基本的な骨格部分の
論理的ブラシュアップに取り組まれることを期待したい。

〇そして、地域の産学官の皆様には、地域クラスター形成に係るビジョン、シナ
リオが固まらなければ、シナリオの着実な推進に必要な各種施策(プログラム)
について、論理的に議論を進めることは不可能であることを再認識していただき、
各地域振興局が中心となって取り組む、ビジョン、シナリオのブラシュアップに
ご協力いただくことをお願いしたい。


ニュースレターNo.104(2017年4月15日送信)

長野県食品産業振興ビジョン(案)の論理的脆弱性(No.2)
〜長野県の食品産業の優位性を、発酵食品・技術の中に見出そうとすることに偏り過ぎていること〜

【はじめに】
〇去る3月29日に開催された長野県中小企業振興審議会の場で、発酵食品分野を
中心に据えた長野県食品産業振興ビジョン(案)の「概要」が公表された。その
体系・構成には、以下のような、短絡的で非科学的な要素が内在していること
は既にお伝えしている。

@明確な科学的根拠も示さないままに、長野県の健康長寿の主要因が、伝統的
発酵食品の摂取であるかのような短絡的な論理を、「発酵長寿」あるいは「発酵
長寿県」というようなキャッチフレーズ(造語)でイメージ化し、同ビジョン
(案)の体系・構成の「根幹」に据えていること。
Aビジョン(実現を目指す姿)が不明確であり、シナリオ(ビジョン実現への
道筋)、プログラム(シナリオの推進のための各種施策)も非科学的で、実行す
ることが非常に困難な事項が提示されていること。

〇今までのニュースレターでは、長野県は未だかつて、食品産業(食品の製造・
加工に係る産業)の振興戦略を策定したことが全く無かった、とお伝えしてきた。
確かにそれは事実であるが、(社)食品需給研究センター(東京都)が主導して、
平成21年度に策定した「地域連携による食料産業の推進に向けて『商品開発・技
術開発戦略』(長野県編)」(以下、「食料産業振興戦略(長野県編)」という。)
を偶然見つけた。 ※「食料産業=食品産業+農業」と定義されている。

〇食料産業振興戦略(長野県編)は、長野県内の産学官の関係機関で構成され
た「長野県食農連携推進戦略構想書策定ワーキング」によって、十分な検討を
経た上で策定されたようで、食品産業振興戦略としての完成度がかなり高く、
長野県食品産業振興ビジョンの策定作業においては参考にすべきものと言える。
 そこで、今回のニュースレターでは、その食料産業振興戦略(長野県編)の
ビジョン、シナリオ、プログラムと対比して、長野県食品産業振興ビジョン
(案)の問題点を整理し、その改善方策を提言してみたい。

【食料産業振興戦略(長野県編)のビジョン、シナリオ、プログラム】
〇食料産業振興戦略(長野県編)は、残念ながら、ビジョン、シナリオ、プロ
グラムの体系・構成にはなっていない。そこで、以下で議論を論理的に展開で
きるようにするため、農業振興の視点よりも食品産業振興の視点を重視する立
場から、食料産業振興戦略(長野県編)の体系・構成をビジョン、シナリオ、
プログラムの形に再構築させていただいた。

[ビジョン]
〇新たな「信州ブランド食」の創出

[シナリオ]
@消費者の「食の安全・安心」志向への対応
A競争力のある高品質な信州らしい食品づくりへの対応
B食品製造工程のコスト削減への対応
C食品製造工程の環境負荷低減への対応

[シナリオ@に係るプログラム]
@残留農薬、アレルゲン、混入異物等に係る安全・安心の評価・保証システム
の確立への支援
Aクレーム解析・対応システム確立への支援
B原産地判別等の原材料確保に係る安全・安心システム確立への支援

[シナリオAに係るプログラム]
@機能性評価による新食品開発への支援
Aおいしさ評価による新食品開発への支援
B微生物・酵素利用等の先端技術を活用した新規高付加価値食品開発への支援

[シナリオBに係るプログラム]
@省力化等の製造工程改善への支援
A高付加価値化に資する新製造技術開発への支援
B技術者育成への支援

[シナリオCに係るプログラム]
@製造工程由来の廃棄物の有効利用への支援
A製造工程の効率化への支援
B製造工程の消費エネルギー低減化への支援

【長野県食品産業振興ビジョン(案)のビジョン、シナリオ、プログラム】
〇中小企業振興審議会の場で公表された同ビジョン(案)の「概要」には、最も
重要なビジョン(実現を目指す姿)が、何故か提示されていなかったため、ここ
では、「概要」の内容全体から類推したものをビジョンとして仮置きした。また、
シナリオ、プログラムについては、「概要」の中にアットランダムに記載されて
いた関係事項を抽出・整理して提示した。
(ニュースレターNo.102で提示した内容と同じ。)

[ビジョン]
〇健康長寿に資する新規発酵食品の研究開発・生産活動が活発な食品産業集積
(クラスター)の形成

[シナリオ1:長野県産発酵食品の優位性の論理的アピール]
〇長野県の伝統的発酵食品の評価(美味しく健康長寿に寄与する食品であること
のエビデンスの蓄積)
〇そのエビデンスを国内外へ発信し、既存の長野県の発酵食品の付加価値が高い
こと(優位性を有すること)をアピール

[シナリオ2:優位性を有する新規発酵食品の創出]
〇美味しさと機能性において優位性を有する新規発酵食品の研究開発

  [シナリオ1に係るプログラム]
@発酵食品と健康長寿の相関に関する文献等をデータベース化し、エビデンスの
抽出
Aその結果をエビデンスライブラリー(HP、冊子等)として発信・PR
B長野県工業技術総合センターの美味しさ分析・評価体制を拡充強化し、美味し
さにおける優位性も発信・PR

[シナリオ2に係るプログラム]
@長野県工業技術総合センターの機能性成分分析・評価機能の高度化
A産学官連携による新規機能性発酵食品等の研究開発支援
B「機能性表示食品」制度の利用支援

【食料産業振興戦略(長野県編)との対比から明らかとなる、長野県食品産業振
興ビジョン(案)のビジョン、シナリオ、プログラムの課題】

[長野県食品産業振興ビジョン(案)のビジョンに係る課題]
〇「長野県の発酵食品が健康維持に有効な成分を含有」=「発酵食品が長野県の
健康長寿の主要因」というような短絡的・非科学的論理に捉われ過ぎているため、
「発酵長寿県」宣言というようなイメージ戦略を重視するなど、発酵食品・技術の
中に本県食品の優位性を無理にでも見出そうとする姿勢に偏り過ぎている。
 したがって、県内の様々な業種の食品産業の、今後のあるべき展開方向を俯瞰し
た上での、国際競争力を有する食品産業集積(クラスター)の形成を目指すものと
はなっていないのである。

〇食料産業振興戦略(長野県編)においては、国際競争力を有する新たな「信州ブ
ランド食」の創出の実現をビジョン(目指す姿)として位置づけ、様々な業種や技
術分野の産学官の関係者が、それぞれの立場から(農業まで含めて)、そのビジョ
ンの実現に向けて参画・連携しやすいように配慮している。

〇また、「信州ブランド食」を、安全・安心で機能性や美味しさも有することで優
位性を確保する食品(製造工程の低環境負荷性をも優位性とできる食品も含む。)
と定義し、その創出へのシナリオ・プログラムが、様々な視点から策定・実施化し
やすくなるように配慮している。

[長野県食品産業振興ビジョン(案)のシナリオに係る課題]
〇シナリオ1では、発酵食品と健康長寿の相関に関する文献等から、長野県の健康
長寿のエビデンスを探索・抽出し、発信・PRするというような、実際に実施するこ
とが極めて困難な事項を提示している。

〇また、シナリオ2では、美味しさと機能性を兼ね備えた新規発酵食品の研究開発
を実施するとしているが、まだ、どのような美味しさや機能性を有する新規発酵食
品を創出すべきかについて、全く方向づけができていない。

〇食料産業振興戦略(長野県編)においては、シナリオとして、消費者の「食の安
全・安心」志向に応える、市場競争力のある高品質な信州らしい食品づくりや、食
品製造工程のコスト削減・環境負荷低減への対応など、多角的に具体的事項が提示
されている。
 様々な業種の企業による、それぞれの固有課題の解決のための研究開発等への取
組みに対して、効果的な支援施策(プログラム)を企画・実施化しやすい様に配慮
されたシナリオになっているのである。

[長野県食品産業振興ビジョン(案)のプログラムに係る課題]
〇そもそもシナリオ1が、発酵食品と長野県の健康長寿との因果関係の解明という
ような、科学的に推進することが非常に困難な事項を含むため、シナリオ1に係る
プログラムについては、議論を深めることができない状況となってしまっている。

〇シナリオ2については、美味しさと機能性において優位性を有する新規発酵食品
の研究開発という、非常に漠然としてハードルの高いものであるが、そのハードル
を超えることを可能とするような新規プログラム(新規施策)の提示は全くなされ
ていない。従来からの支援施策が列挙されているだけなのである。

〇食料産業振興戦略(長野県編)においては、4つの具体的なシナリオが提示され
ており、それぞれのシナリオ毎に、多角的な視点から、漏れのないよう網羅的に各
種プログラムが具体的に提示されている。プログラムについての更に詳細で具体的
な議論を進めやすいように配慮されている。

【むすびに】
〇以上のように、食料産業振興戦略(長野県編)と対比することによって、現状の
長野県食品産業振興ビジョン(案)が、如何に大きく発酵食品・技術に偏り過ぎた
ものなのか、かなり具体的に説明できたのではないだろうか。

〇したがって、同ビジョン(案)の策定作業においては、食料産業振興戦略(長野
県編)など、過去の、あるいは他県等の食品産業振興戦略関連の資料を参考にする
などして、食品産業に係る産学官が、それぞれの立場から参画しやすくすることに
配慮した、多角的で網羅的な視点からの、ビジョン・シナリオ・プログラムの体系・
構成とするための議論からやり直すことをお勧めしたい。


ニュースレターNo.103(2017年4月6日送信)

長野県行政経営方針(案)に関するパブリックコメントに提出した意見等に対する県の見解の分析・評価

【はじめに】
〇長野県には、形式論的にも実質論的にも、他県等に比して優位性を有する「行
政経営方針」を策定して欲しいという強い思いから、平成29年度から運用される
新たな「行政経営方針」(案)に関するパブリックコメントへは、多くの意見等
を積極的に提出させていただいた。

〇4月4日に、その提出意見等に対する県の見解が公表されたので、以下で、その
見解についての分析・評価を行い、「行政経営方針」(案)に関する一連の議論
の「まとめ」とさせていただく。

【意見等1:行政サービスの品質をどのように測定し、品質向上に活かすのか。】
《パブリックコメントへの提出意見等》
〇第1に、県組織のミッション(使命・目的)として、最高品質の行政サービス
の提供を目指す旨の記載があるが、実際に個々の行政サービスを最高品質にする
ことに具体的に取り組む考えなのか。それとも、単にキャッチフレーズとして見
栄えが良いので、最高品質という言葉を掲げただけなのか。明確にお答え願いたい。

〇第2に、行政サービスを最高品質にするためには、行政サービスの品質(受け
手側の評価等)を測定する手法の存在が前提となると考えるが、いかがか。

〇第3に、行政サービスの品質は、その受け手となる県民が評価することになる
と考えるが、それで良いか。
   長野県の行政サービスが、他県等の類似の行政サービスに比して、その品質が
優れているのか、劣るのか、について、どのような測定・評価手法を県は採用し
ようと考えているのか。具体的に説明願いたい。
 なお、測定・評価することを考えていない場合には、その理由を含めて説明願
いたい。

《県の見解》
〇最高品質の行政サービスを県民の皆様に提供するために、各種計画において数
値目標を定め、その実現に向け様々な事業を実施してまいります。なお、「最高
品質の行政サービスの提供」にゴールはなく、各種計画期間の取組実績を踏まえ、
目標を掲げるなど、PDCAサイクルにより、最高品質を追い求めてまいります。

《県の見解に関する分析・評価》
〇県は、行政サービスの品質の尺度については、各種計画の数値目標の達成度と
考えているようである。しかし、行政サービスの品質を評価するのは、その受け
手である県民であるべきであり、それを前提とした、品質を評価する手法がない
と最高品質を達成できたか否かの判断はできない、という私の意見のポイントに
焦点を当てた見解は頂けなかった。

【意見等2:最高品質の行政サービスの提供には、最高品質の(優位性ある)地
域産業政策の策定・実施化が含まれるのか。】
《パブリックコメントへの提出意見等》
〇第1に、「長野県行政経営方針」(案)における行政サービスの定義は何か。
その定義を明確にした上で、行政サービスの品質とは何か、その品質を最高にす
る方策としてどのようなことを想定しているのか、について具体的に説明願いたい。
 それらが明らかにならないと、県組織の職員が、行政サービスの品質向上方策
について具体的に議論・検討することはできない。

〇第2に、その行政サービスには、地域の産業界に対して、長野県の地域産業の
持続的成長に資する、地域産業振興戦略を策定・提示し、それを実施化すること
は含まれるのか。地域産業振興戦略の策定・実施化によって、県内産業が発展す
れば、「ふるさと長野県の発展と県民のしあわせの実現に貢献」することになる。

〇第3に、行政サービスに、地域産業振興戦略の策定・実施化が含まれるとした
場合、行政サービスの最高品質とは、地域産業振興戦略が、他県等に比して優位
性を有すること、すなわち、他県等に比して、より市場競争力を有する高度な産
業集積を、より速やかかつ効果的に形成することに資する「仕掛け」を内包する
ものであることを意味すると考えるが、それで良いのか。

《県の見解》
〇行政経営方針・行政経営理念は、各分野の施策の土台となる県の行政経営に関
する方針・理念であり、特定分野に関する戦略策定や施策の実施について具体的
にお示しする趣旨のものではありません。
 お寄せいただいた「地域産業戦略の策定・実施」に関する御意見は、今後の取
組の中で参考にさせていただきます。

《県の見解に関する分析・評価》
〇最初に、行政サービスとその品質の定義を確認しておくことが重要と考えてお
尋ねしたが、回答いただけなかった。同方針(案)の体系・構成を論理的なもの
とするためには、用語の定義をすることが非常に重要であることを理解していた
だけなかった。

〇それに関連して、行政サービスの中には、地域産業振興戦略の策定・実施化が
含まれるのか、お尋ねしたが、回答いただけなかった。また、行政サービスとし
ての、地域産業振興戦略の品質の尺度についてお訪ねしたが、回答を避けられて
しまった。

【意見等3:優位性を有する地域産業振興戦略の策定・実施化に係る行政経営方
針「T.県民の信頼と期待に応える組織づくり」とは具体的に何か。】
《パブリックコメントへの提出意見等》
〇第1に、優位性を有する地域産業振興戦略の策定・実施化・具現化のための行
政経営方針(県組織としての取組方針)は、行政経営方針の「T.県民の信頼と
期待に応える組織づくり」のどこに、どのように位置づけられているのか。具体
的に説明願いたい。

〇第2に、この「県民」の定義は何か。自然人としての個人のみを示すのか。法
人も含むのか。いずれにしても、産業界は含まれることになる。したがって、
「県民」の期待に応えるということは、産業界の県組織への期待に応えるという
ことになる。「県民起点」には、「産業界起点」が含まれると思われるが、それ
で良いのか。

〇第3に、産業界の県組織への期待に応える最高品質の(優位性ある)地域産業
振興戦略の策定・実施化を可能とするために、県組織として、行政経営方針「T.
県民の信頼と期待に応える組織づくり」の中に提示されている事項のうちの、特
に何に力を入れて取り組んでいこうと考えているのか。具体的に説明願いたい。

《県の見解》
〇行政経営方針・行政経営理念は、各分野の施策の土台となる県の行政経営に関
する方針・理念であり、特定分野に関する戦略策定や施策の実施について具体的
にお示しする趣旨のものではありません。
 お寄せいただいた「地域産業戦略の策定・実施」に関する御意見は、今後の取
組の中で参考にさせていただきます。

《県の見解に関する分析・評価》
〇最初に「県民」の定義を確認し、「県民起点」には「産業界起点」も含まれる
ことを確認したかったが、回答を避けられてしまった。同方針(案)の体系・構
成を論理的なものとするためには、用語の定義をすることが非常に重要であるこ
とを理解していただけなかった。
 ただ、同方針(案)の中には、多様な主体の例示として、県民、NPO、企業など
という記載があることから、県は、自然人としての個人のみを県民として定義し
ているようである。

【意見等4:優位性を有する地域産業振興戦略の策定・実施化に係る行政経営方
針「U.共感と対話の県政の推進」とは具体的に何か。】
《パブリックコメントへの提出意見等》
〇第1に、優位性を有する地域産業振興戦略の策定・実施化・具現化のための行
政経営方針(県組織としての取組方針)は、行政経営方針の「U.共感と対話の
県政の推進」のどこに、どのように位置づけられているのか。具体的に説明願い
たい。

〇第2に、地域産業振興戦略の策定・実施化における「多様な主体との協働の推
進」については、いわゆる産学官連携(当然、金融機関も含まれる。)が中心に
なると思われる。産学官連携による地域産業振興の県組織にとっての重要性につ
いては、どこに提示されているのか。提示すべきではないのか。

〇第3に、地域産業振興戦略の策定・実施化における「多様な主体との協働の推
進」のコーディネート役を務める、地域の産業支援機関の役割は重要と思われる
が、それについては、どこに提示されているのか。提示すべきではないのか。

《県の見解》
〇行政経営方針・行政経営理念は、各分野の施策の土台となる県の行政経営に関
する方針・理念であり、特定分野に関する戦略策定や施策の実施について具体的
にお示しする趣旨のものではありません。
 お寄せいただいた「地域産業戦略の策定・実施」に関する御意見は、今後の取
組の中で参考にさせていただきます。

《県の見解に関する分析・評価》
〇多様な主体との協働の中には、県と産業界や大学等との協働(産学官連携)が
含まれているのか確認したかったが、回答を避けられてしまった。また、協働の
対象として、NPO、企業だけでなく産業支援機関が含まれているのかも確認した
かったが、回答いただけなかった。

【意見等5:優位性を有する地域産業振興戦略の策定・実施化に係る行政経営方
針「V.行政サービスを支える基盤づくり」とは具体的に何か。】
《パブリックコメントへの提出意見等》
〇第1に、優位性を有する地域産業振興戦略の策定・実施化・具現化のための行
政経営方針(県組織としての取組方針)は、行政経営方針の「V.行政サービス
を支える基盤づくり」のどこに、どのように位置づけられているのか。具体的に
説明願いたい。

〇第2に、優位性を有する地域産業振興戦略の策定・実施化・具現化のためには、
「職員の育成と適正配置」が極めて重要と考えるが、その重要性や育成・適正配
置の基本的考え方等については、どこに提示されているのか。提示すべきではな
いのか。

〇第3に、優位性を有する地域産業振興戦略の策定・実施化・具現化のためには、
優位性を有する地域産業振興戦略の策定・実施化・具現化を主導できる職員の存
在が不可欠と考えられるが、その育成方針については、どこに提示されているの
か。提示すべきではないのか。

《県の見解》
〇行政経営方針・行政経営理念は、各分野の施策の土台となる県の行政経営に関
する方針・理念であり、特定分野に関する戦略策定や施策の実施について具体的
にお示しする趣旨のものではありません。
 お寄せいただいた「地域産業戦略の策定・実施」に関する御意見は、今後の取
組の中で参考にさせていただきます。

《県の見解に関する分析・評価》
〇地域産業振興戦略の策定・実施化・具現化を主導できる職員の育成や適正配置
が重要となる。行政経営方針には、それが含まれているのか(それを含むべきと
考えているのか)確認したかったが、回答を避けられてしまった。

【意見等6:行政サービスの種類や受け手を分類しなければ、行政サービスの品
質向上方策に係る実効性ある行政経営方針は策定できないのではないのか。】
《パブリックコメントへの提出意見等》
〇県民には、例えば、県組織のヒアリングに応じて、自らの行政サービスニーズ
を伝えることができる人もいれば、自らのニーズを伝えることができない(サー
ビス提供者がニーズを慮る必要がある)ハンディキャップを有する人もいる。
 また、行政サービスの品質の評価についても、受け手(その感情や価値観等)
によって千差万別であるし、サービスを受けた時は、評価が低くても、時間とと
もに評価が高まるようなサービス(例えば、医療、教育等の分野)もある。サー
ビスの内容も、受け手も、様々なのである。

〇「長野県行政経営方針」(案)は、行政サービスやその受け手を分類(具体的
に想定)することもなく、全ての行政サービスを最高品質にすることを目指して
いるため、非常に抽象的な観念論の範疇を脱しきれないものとなってしまっている。

〇「長野県行政経営方針」(案)を、県組織の職員の具体的な活動指針として、
実際に活かせるようにするためには、対象とする行政サービスやその受け手の分
類(具体的な想定)が必要ではないのか。
 その分類に応じた具体的な行政経営方針でなければ、県組織の現場で職員が実
際に活用できるものとはなりえないのではないのか。

《県の見解》
〇行政経営方針、行政経営理念は、各分野の施策の土台となる行政経営の一般的
な方針・理念です。
 ご指摘の事項については、各所属において具体的な施策、事業を推進していく
際に参考にさせていただきます。

《県の見解に関する分析・評価》
〇たとえ行政経営方針が、行政経営の一般的方針・理念であっても、対象とする
行政サービスやその受け手の分類(具体的な想定)がなければ、職員が現場で使
える方針にはなりえないという意見の重要性については、理解いただけなかった。

【意見等7:既存の行政サービスをどのようにして最高品質に改善するのか。ま
た、新たにどのような最高品質の行政サービスを創出するのか。】
《パブリックコメントへの提出意見等》
〇第1に、既存の行政サービスの中から、最高品質でないため改善を要する行政
サービスをどのように探索・抽出・選定するのか。その手法についての基本的考
え方を説明願いたい。

〇第2に、現状の行政サービスでは足りないので、新たに創出しなければならな
い行政サービスをどのようにして選定するのか。その手法についての基本的考え
方を説明願いたい。

〇第3に、行政サービスの受け手のニーズを満たすための、既存の行政サービス
の最高品質への改善や、新たな最高品質の行政サービスの創出に係る具体的手法
(最高品質の行政サービスの設計手法等)についての基本的考え方について説明
願いたい。

《県の見解》
〇最高品質の行政サービスを県民の皆様に提供するため、各種計画において数値
目標を定め、その実現に向け様々な事業を着実に実施してまいります。なお、
「最高品質の行政サービスの提供」にゴールはなく、各種計画期間の取組実績を
踏まえ新たな目標を掲げるなど、PDCAサイクルにより、最高品質を追い求めてま
いります。

《県の見解に関する分析・評価》
〇既存の行政サービスの改善、新規行政サービスの企画・提供のための手法につ
いては、担当部署任せにするということなのか。最高品質の行政サービスの提供
のための具体的手法に関連する事項については、あえて議論を避けているようで
ある。

【意見等8:「策定趣旨」を記載・提示すべきこと】
《パブリックコメントへの提出意見等》
〇行政経営方針(案)の最初に「策定趣旨」を記載・提示すべきではないのか。

[意見等8−1]
〇この行政経営方針(案)には、「方針の位置づけ」は記載されているが、「策
定趣旨」が記載・提示されていない。
 平成24年3月策定の「長野県行政・財政改革方針」(平成28年度末まで)に引
続き、ビジョンに「県民起点」を追加したり、全体的にコンパクト化(前回50ペ
ージ、今回9ページ)したりして、なぜ、同様のミッション、ビジョン等を掲げ、
わざわざ行政経営方針を策定しなければならないのか。
 ある重要課題が存在し、その重要課題を解決するためには、引続き行政経営方
針の策定が必要ということなのか。策定の背景・理由が良く理解できないので、
簡潔に説明願いたい。

[意見等8−2]
〇今のままでは、行政経営方針(案)全体を読んでからでないと、「策定趣旨」
を理解できない、あるいは、「策定趣旨」は読んだ人それぞれの解釈に任せる、
というような、非常に不親切な体系・構成になってしまっている。
 なぜ、通常は記載される「策定趣旨」をあえて除いたのか。理由があれば、
それを説明願いたい。

[意見等8−3]
〇このような県の方針等の文書の、通常の体系・構成の「形式論的あるべき姿」
の視点からも、最初に、「策定趣旨」を明確に記載・提示すべきと思うが、い
かがか。

《県の見解》
〇「策定趣旨」という項目は置いていませんが、策定理由は「第1 基本的考え
方 1方針の位置付け」に記載しています。

《県の見解に関する分析・評価》
〇「第1 基本的考え方 1方針の位置付け」では、この方針の体系・構成の説
明はなされているが、「策定趣旨」の記載はない。「策定趣旨」の項目建ての重
要性を理解いただけなかった。

【意見等8−2:「策定趣旨」を記載・提示すべきこと】
《パブリックコメントへの提出意見等》
[意見等8−4]
〇目次と2ページ以降の項目建てが整合していない(目次に「第1 基本的考え
方」、「第2 具体的な取組内容」等の記載がない。)ので、修正すべきではな
いか。あえて不整合にしているのか。

《県の見解》
〇御意見を踏まえ、修正いたします。

《県の見解に関する分析・評価》
〇誤字脱字レベルの修正なので当然のことである。

【意見等9:体系・構成をビジョン・シナリオ・プログラムという分かりやすい
形に再構築すべきこと】
《パブリックコメントへの提出意見等》
〇行政経営方針(案)の体系・構成について、ビジョン・シナリオ・プログラム
という、分かり易い形に再構築すべきではないのか。
 一般県民が理解できるように策定しようという意思があるとすれば、現状の体
系・構成をもっと平易で分かり易い形にすべきであるということである。多くの
県職員にとっても、理解しづらい体系・構成と思われる。

[意見等9−1]
〇この行政経営方針(案)は、県組織が、そのミッション(使命・目的)「最高
品質の行政サービスを県民に提供し、長野県の発展と県民のしあわせの実現に貢
献」を果せるようにするために策定するのではないのか。

[意見等9−2]
〇もしそうだとすれば、ビジョン(実現を目指す姿)としては、県組織が、その
ミッションを果すことによって、「長野県の発展と県民のしあわせ」が実現でき
た状態(理想的な状態)を位置づけるべきではないのか。

[意見等9−3]
〇県民に期待される県行政や、県職員が仕事に高い志や情熱を持つことなどを目
指すことを、わざわざビジョン(実現を目指す姿)として設定するということは、
県行政が、県民からの信頼や期待に十分には応えられておらず、県職員も、高い
志や情熱を持つことに劣っているという、内部的事情の改善が必要なためなのか。

[意見等9−4]
〇県組織内部の課題が解決された状態を、行政経営方針が実現を目指す姿として、
わざわざ県民の前に提示することは適切ではないと考えるが、いかがか。
 本来的に、行政経営方針とは、県組織や県職員の「しあわせ」の実現ではなく、
県民の「しあわせ」の実現をビジョン(行政経営方針が実現を目指す姿)として
設定・提示すべきではないのか。

《県の見解》
〇行政経営方針は、行政経営理念のミッション、ビジョンを実現するための組織
としての取組方針として策定しました。
 「多くの職員にとっても理解しづらい」という意見を踏まえ、職員に対して丁
寧に説明するよう努めてまいります。なお、ビジョン(目指す姿)で掲げる、
「職員が高い志と情熱を持って活躍する県組織」を目指すことで、県民の皆様へ
のよりよいサービス提供につながるものと考えています。

《県の見解に関する分析・評価》
〇ビジョン(実現を目指す姿)としては、県組織が、そのミッションを果すこと
によって、「長野県の発展と県民のしあわせ」が実現できた状態(理想的な状態)
を位置づけるべきであって、職員が頑張っている姿というような内部事情をビジ
ョンとして位置づけるべきではないということ、すなわち、県職員のための方針
ではなく、県民のための方針にすべきという根本的考え方を理解いただけなかった。

【意見等9−2:体系・構成をビジョン・シナリオ・プログラムという分かりや
すい形に再構築すべきこと】※県の回答の都合で意見等の順番が変更されている。
《パブリックコメントへの提出意見等》
[意見等9−5]
〇現状のビジョン(県民の期待に応える県行政、職員が活躍する県組織等)を前
提とした場合、そのビジョンの実現へのシナリオ(ビジョン実現への道筋)、プ
ログラム(シナリオの着実な推進に必要な各種施策)は、どこに提示されている
のか。分かりやすく明確に提示すべきではないのか。

[意見等9−6]
〇この行政経営方針(案)には、ビジョンを実現するためのシナリオ・プログラ
ムが明確には提示されていないという、体系・構成上の欠陥があると言えると思
われるが、いかがか。
 例えば、ビジョン実現のシナリオ・プログラムに大きく係ると思われる「バリ
ュー(職員の価値観・行動の指針)」でさえも、その内容等については明確に提
示されていないということである。

[意見等9−9]
〇職員が、特に「県民起点」の意識改革ができ、「高い志と仕事への情熱」を持
てるようにするためのシナリオ(実現への道筋)とプログラム(シナリオの的確
な推進のための各種施策)は、どこに具体的に記載されているのか。具体的に分
かり易く、記載すべきではないのか。

《県の見解》
〇「第1 基本的考え方 2取組の進め方」記載のとおり、当該方針に基づく具
体的な取組については、毎年度検討して取りまとめ公表することにしています。

《県の見解に関する分析・評価》
〇主に、ビジョン(職員が高い志と情熱を持って活躍する県組織等)を具現化す
るシナリオ・プログラムは何かを問い質したかったが、回答を避けられてしまった。

【意見等9−3:体系・構成をビジョン・シナリオ・プログラムという分かりや
すい形に再構築すべきこと】
《パブリックコメントへの提出意見等》
[意見等9−7]
〇バリュー(職員の価値観・行動の指針)の注記として、「職員一人ひとりがバ
リューの意味を考え、自分ごと化するとともに、職員討議を通じて、各職場の特
性・状況に応じた具体化を行います。」となっている。
 行政経営理念としてのバリューの形成については、職員一人ひとりや各職場の
対応に任せるということなのか。
 県組織としては、職員に求めるバリューのレベル・内容等については、全く提
示しないという考え方なのか。
 それを提示しなければ、職員も職場も、目指す方向・レベル等が理解できず、
十分なバリューを形成・確保できないのではないのか。

[意見等9−8]
〇バリューに記載されている「挑戦」、「迅速」、「責任」と、ビジョン実現へ
の道筋との関係を論理的に明示し、「挑戦」、「迅速」、「責任」をどのように
して職員が確保し、それを職員がどのように運用していくべきなのか、を明確に
提示すべきと考えるがいかがか。

《県の見解》
〇職員や職場により職務内容が異なることから、日常の業務の中で、どのように
行動することが「バリュー」に合致し、「ミッション」「ビジョン」の実現につ
ながるのか、一人ひとりが考えるとともに、各職場における討議を通じて具体化
することができるよう取組んでまいりたいと考えています。
 なお、行政経営理念のバリューについては、改定に向けて引き続き検討します。

《県の見解に関する分析・評価》
〇「バリュー」の内容が、職員にとって分かりにくいという意見に対して、回答
を避けられてしまった。
 しかし、実際には、「バリュー」の内容が、「挑戦、迅速、責任」から「〇県
民起点で真摯に行動、〇様々な組織と協働、〇成果をあげることにこだわる、
〇平均ではなく最高、〇変化を恐れず挑戦、〇責任感を持って主体的に行動、
〇チームとして協力」に修正されている。

【提出意見等10:平成24年3月策定の「長野県行政・財政改革方針」の達成度評
価を反映すべきこと】
《パブリックコメントへの提出意見等》
〇平成24年3月策定の「長野県行政・財政改革方針」(平成28年度末まで)によっ
て、県組織のミッションは果たせたのか、ビジョンは実現できたのか。

[意見等10−1]
〇「長野県行政・財政改革方針」(平成28年度末まで)においても、県組織のミッ
ションは、同じ「最高品質の行政サービスを提供し、ふるさと長野県の発展と県
民のしあわせの実現に貢献します。」であったが、そのミッションは果たせたのか。
どう評価しているのか。

[意見等10−2]
〇どの程度の行政サービスが最高品質になったと評価しているのか。評価してい
るとしたら、どのような手法で最高品質であると評価したのか。

《県の見解》
〇最高品質の行政サービスを県民の皆様に提供するため、各種計画において数値
目標を定め、その実現に向けて様々な事業を実施しているところですが、「最高
品質の行政サービスの提供」にゴールはなく、PDCAサイクルにより引き続き取組
んでまいります。

《県の見解に関する分析・評価》
〇「長野県行政・財政改革方針」(平成28年度末まで)では「最高品質の行政サ
ービスの提供」を達成できたのか、という根本的な問い掛けに応えようとしてい
ない。応えることができないのだろう。県政モニターアンケート(平成27年度第
2回)では、達成できていないという結果が得られている。

【提出意見等10-2:平成24年3月策定の「長野県行政・財政改革方針」の達成度
評価を反映すべきこと】
《パブリックコメントへの提出意見等》
[意見等10−3]
〇「長野県行政・財政改革方針」(平成28年度末まで)においても、ビジョンは、
「県民起点」を除けば全く同じ「県民に信頼され、期待に応えられる県行政を目
指します。職員が高い志と仕事への情熱を持って活躍する県組織を目指します。」
であったが、そのビジョンは実現できたのか。どう評価しているのか。

[意見等10−4]
〇県行政が、県民の信頼や期待に応えられたか否かの評価は、県民満足度調査も
含めて、どのような手法で実施したのか。分かり易く説明願いたい。
 その結果から、最高品質であると評価できる行政サービスはどの程度あったの
か、概要を説明願いたい。

[意見等10−5]
〇県職員の仕事に係る高い志や情熱についての評価は、どのような手法で実施し
たのか。その結果はどうだったのか。

《県の見解》
〇県民の期待に応えられているか、職員が高い志や情熱を持って職務にあたって
いるかについて、県政モニターアンケートを実施しました。
 引き続きビジョン(目指す姿)の実現に向けた取組を続けてまいります。

《県の見解に関する分析・評価》
〇県政モニターアンケート(平成27年度第2回)で、問11「県の職員は、県民の
皆様の期待にどの程度応えられていると思いますか。」、問12「県の職員は、
『高い志と仕事への情熱を持って職務に取り組んでいる』と思いますか。」と質
問し、それぞれ10点満点中で6.3点と6.2点となっている。

〇10点満点で6.3点と6.2点では、とても最高品質を達成できたとは言えない。ま
た、ビジョン(職員が高い志と仕事への情熱を持って活躍する県組織)が実現で
きたとも言えない。この事実をどのように理解し、反省がなされたのか、確認し
たかったが、回答を避けられてしまった。

【提出意見等10-3:平成24年3月策定の「長野県行政・財政改革方針」の達成度
評価を反映すべきこと】
《パブリックコメントへの提出意見等》
[意見等10−6]
〇今回の行政経営方針(案)に「県民起点」を加えたのは、現状の県行政や県職
員には、「県民起点」が不足していると認識しているからなのか。
 「長野県行政・財政改革方針」(平成28年度末まで)でも、県民の声の行政運
営への反映として「広聴事業の充実」、「政策づくりへの県民の参画の推進」、
「目標実現度調査の実施」、「審議会等の活性化」が提示されていたが、これら
のどこに、どのような「県民起点」に係る課題があったのか。

[意見等10−7]
〇現状において、県組織や県職員に「県民起点」が不足していると具体的に認識
できているとしたら、どのようにして認識できるようになったのか。その手法等
について具体的に説明願いたい。

《県の見解》
〇策定過程において、職員から「県民起点」で業務に取り組むことを重視する意
見が多数寄せられたことから、「県民起点の意識改革」としました。

《県の見解に関する分析・評価》
〇「県民起点の意識改革」が重要なことは、県職員にとっては一般常識である。
それをなぜわざわざ本方針に位置付けたのか確認したかったが、回答を避けられ
てしまった。

【意見等11:職員の価値観はバリューとして規範化すべきでないこと】
《パブリックコメントへの提出意見等》
〇バリューについては、1ページで、職員の価値観と行動の指針であると定義し、
2ページでは職員の行動規範であるとも定義している。
 本来、自由であるべき、職員の価値観にまで「規範」という概念を適用するこ
とは、間違いではないのか。

[意見等11−1]
〇職員の行動規範とは、行動における基準のようなもので、全職員に適用される
約束事と解釈できると思われるが、そのような解釈で良いか。

[意見等11−2]
〇もしそうだとすれば、県職員は、その価値観についても、一定の基準の下に、
同じ価値観を持つべきということになると思われるが、それで良いのか。

[意見等11−3]
〇県職員が対応する地域社会は、多様な価値観を有する県民で形成されている。
その地域社会の課題の解決に取り組む県職員には、多様な価値観を理解・共有で
きることが求められると思われるがいかがか。
 職員の行動規範によって、職員の価値観を一定の基準で統一しようとすること
は、行政サービスの質の低下に繋がるのではないのか。

[意見等11−4]
〇したがって、行動規範として、行動の指針(基準)を定めることは良いが、職
員の価値観を行動規範として一定の基準にあてはめようとすることは間違いでは
ないのか。

[意見等11−5]
〇多様な価値観を持つ職員の自由で活発な議論によって、はじめて、多様な価値
観の県民で形成される地域社会の課題を解決できる、質の高い行政サービスの提
供が可能になるのではないのか。

《県の見解》
〇御意見を踏まえ、2頁中「行動規範」を「職員の価値観・行動の指針」に改め
ました。

《県の見解に関する分析・評価》
〇本来、自由であるべき職員の価値観にまで、「指針」によって一定の枠をはめ
ようとすること自体が間違いではないのか、という意見の真の意味を理解いた
だけなかった。

【意見等12:バリューとしての行動指針は明確に提示すべきこと】
《パブリックコメントへの提出意見等》
〇全職員が常に念頭に置くべき、バリューという行動の指針(基準)を明確に提
示せず、今後の職員の自問自答や職場討議に委ねるといのでは、一定品質以上の
行政サービスの提供を、全職場で実現することは期待できないのではないのか。
バラツキをどう把握し、どう補正するのか。

[意見等12−1]
〇行動の指針(基準)のキーワードとして、挑戦、迅速、責任を提示しているが、
なぜ、その3つを選定したのか、それぞれのキーワードについて、どのような指針
(基準)で行動すべきなのか、について明確に分かりやすく提示することが必要で
はないのか。

[意見等12−2]
〇バリューの形成・具現化を職場討議等に委ねれば、職場ごとにバリューの質・レ
ベルが異なることになるが、県組織全体としての、県組織共通のバリューの質・レ
ベルはどのように決定され、どのように県組織全体で共有・維持・運用されるのか。
 バリュー形成のスケジュール等を含む、その手法・道筋を明示しなければ、職員
の行動規範としてのバリューは、いつまでたっても具現化できないのではないのか。

《県の見解》
〇職員や職場で業務内容が異なることから、日々の業務において、どのように行動
することが「バリュー」に合致し、「ミッション」「ビジョン」の達成につながる
のか、職員一人ひとりが考えるとともに、各職場における討議を通じて具体化する
ことができるよう、手法を検討し取り組んでまいりたいと考えています。
 なお、行政経営理念(バリュー)については、改定に向けて引き続き検討します。

《県の見解に関する分析・評価》
〇県職員の価値観や行動の指針である「バリュー」については、個々の職員や職場
任せではなく、県組織全体として、その一定の質・レベルを維持できるようにすべ
きという問い掛けに対して、回答をさけられてしまった。

【意見等13:経営方針の推進期間(見直し時期)は設定すべきこと】
《パブリックコメントへの提出意見等》
〇この経営方針については、従来のような推進期間の設定(見直しの時期の設定等)
はしないとされている。なぜ、あえて期間設定しないのか。
 期間設定しない場合には、代わりに、経営方針の見直しの必要性を判断し、見直
しの実施をするか否かを決定するシステムを別途設けることが必要となると考える
が、いかがか。そうでないと、見直しすべきタイミングを逸するリスクが高まると
考えられるが、いかがか。

【意見等14:経営方針が策定趣旨通り遵守・実施化されない場合には見直すべきこと】
[意見等1]
〇この経営方針については、「本県の行財政を取り巻く環境に変化が生じた場合に
は、適宜方針を見直す」旨が提示されているが、この経営方針が、何らかの理由等
で、策定趣旨通りに遵守・実施化されていない場合(多くの行政分野で最高品質の
行政サービスが提供されていない場合、職員によるバリューの具体化が徹底されて
いない場合等)には、見直す必要性が生ずるということは想定していないのか。
 想定しておくべきと考えるが、いかがか。

《県の見解》
〇社会情勢の変化などに対応するため、推進期間を設けず、随時、必要な改定をし
ていくこととしています。見直しの是非については、毎年度検討して取りまとめる
具体的取組の結果等を踏まえ、判断する予定です。

《県の見解に関する分析・評価》
〇推進期間を設定しない場合には、代わりに、経営方針の見直しの必要性を判断し、
見直しの実施をするか否かを決定するシステムを、方針の中に提示しておくべきと
いう意見については、その重要性についてご理解いただけなかった。

【意見等14-2:経営方針が策定趣旨通り遵守・実施化されない場合には見直すべきこと】
《パブリックコメントへの提出意見等》
[意見等2]
〇今の(案)のままでは、長野県の経営方針は、外部環境の変化によって見直すこ
とはあっても、県組織内部の状況の変化(新たな問題の発生等)によっては見直す
ことはない、というような非常に狭い「視点」が提示されており、県組織の基本的
行政経営姿勢の在り方という観点からも修正すべきと考えるが、いかがか。

《県の見解》
〇P2「取組の進め方」記載の「本県の行財政を取り巻く環境」は外部環境のみに限
定する意図はありません。御指摘の県組織内部の状況の変化によって、本指針を見
直すべき事態が生じた場合にあっても、果断に見直しを行ってまいります。

《県の見解に関する分析・評価》
〇「本県の行財政を取り巻く環境に変化が生じた場合には」は、「この検証の結果
及び本県の行財政を取り巻く環境の変化に応じて」に修正されている。

【意見等15:経営方針の遵守・実施化状況をチェックするシステムの構築が必要なこと】
《パブリックコメントへの提出意見等》
〇この経営方針が、策定趣旨通りに遵守・実施化されていない時には、見直すこと
がありうるとした場合には、この経営方針が、策定趣旨通り遵守・実施化されてい
るか否かについて、定期的にチェックするシステム(行政サービスの受け手等を含
む、県組織外メンバーで構成される組織等)を構築しておかないと、見直しの必要
性の判断等に支障が生ずると考えるが、いかがか。
 このシステムを、経営方針の中に明確に提示しておくべきと考えるが、いかがか。

【意見等16:経営方針の見直しを決定するシステムの構築が必要なこと】
〇この経営方針は、あえて推進期間の設定(見直しの時期の設定等)をしていない
ことから、策定趣旨通りに遵守・実施化されていないと、前述のシステムによって
評価・判断された場合、見直しをすべきか否かを速やかに決定できるシステムも、
経営方針の中に明確に提示しておくべきと考えるが、いかがか。

《県の見解》
〇見直しの是非については、毎年度検討して取りまとめる具体的取組の結果等を踏
まえて、判断する予定ですので、御意見を踏まえ修正します。

《県の見解に関する分析・評価》
〇「本県の行財政を取り巻く環境に変化が生じた場合には」は、「この検証の結果
及び本県の行財政を取り巻く環境の変化に応じて」に修正されている。
 しかし、見直しの是非等について検討・決定するシステムの提示の重要性につい
ては、理解いただけなかった。

【むすびに:県の見解に関する分析・評価の総括】
〇全体を通して概ね誠実に回答いただいたと言える。しかし、前年度までの「長野
県行政・財政改革方針」と全く同じに、県組織のミッション(使命・目的)として、
最高品質の行政サービスの提供を目指すと高らかに宣言しながら、実際に個々の行
政サービスを最高品質にすることに具体的に取り組む考えなのか、それとも、単に
キャッチフレーズとして見栄えが良いので、最高品質という言葉を掲げただけなの
か、という核心的な問い掛けに対しては、明確な回答はいただけなかった。

〇また、県政モニターアンケート(平成27年度第2回)において、前年度までの「長
野県行政・財政改革方針」のミッション(使命・目的)「最高品質の行政サービスの
提供」に係る問「県の職員は、県民の皆様の期待にどの程度応えられていると思いま
すか。」については、10点満点中6.3点であり、とても最高品質の行政サービスを提
供できているとは言えない。
 更に、同方針のビジョン(目指す姿)「職員が高い志と仕事への情熱を持って活躍」
に係る問「県の職員は、『高い志と仕事への情熱を持って職務に取り組んでいる』と
思いますか。」については、10点満点中6.2点であり、とてもビジョンを実現してい
るとは言えない。

〇前年度までの「長野県行政・財政改革方針」に関して、このような県民評価を得
ながら、特に新たな創意工夫をすることもなく、前年度までの「長野県行政・財政
改革方針」と全く同じミッションとビジョンを掲げて、今年度からの行政経営方針
を策定した県の姿勢には、大きな疑問を呈さざるを得ない。


ニュースレターNo.102(2017年3月29日送信)

長野県食品産業振興ビジョン(案)の論理的脆弱性
〜ビジョン・シナリオ・プログラムの「根幹」が、非科学的で実施・実現が困難なものであること〜

【はじめに】
〇3月29日に開催された長野県中小企業振興審議会で、発酵食品分野を中心に据え
た長野県食品産業振興ビジョン(案)の概要が公表された。その体系・構成には、
以下のような、非科学的で非論理的な要素が内在している。

@科学的根拠に基づかない、非論理的で短絡的な筋立てがなされていること
 明確な科学的根拠も示さないままに、長野県の健康長寿の主な要因が、発酵食
品の摂取であるかのような勝手な論理を、「発酵長寿」あるいは「発酵長寿県」
というようなキャッチフレーズ(造語)でイメージ化し、同ビジョン(案)の体
系・構成の「根幹」に据えている。

Aビジョン・シナリオ・プログラムという論理的体系・構成になっていないこと
 ビジョン(実現を目指す姿)が不明確であり、シナリオ(ビジョン実現への道
筋)、プログラム(シナリオの推進のための各種施策)も非科学的で、実行する
ことが非常に困難である。

〇私からは、既に、修正すべき事項について、直接担当部署に伝えてあるが、な
かなか理解をしていただけない状況にある。ビジョン・シナリオ・プログラムと
いう論理的な体系・構成になっていないという形式論的課題をまず解決しなけれ
ば、政策的な優位性を如何に確保するかというような、実質論的課題も解決でき
ないという、原則論的事項を理解していただけないでいることが非常に残念である。

【食品産業振興ビジョン(案)のビジョン・シナリオ・プログラムの体系・構成】
〇現状の食品産業振興ビジョン(案)は、ビジョン(実現を目指す姿)、シナリ
オ(ビジョン実現への道筋)、プログラム(シナリオの着実な推進に必要な各種
施策)というような、論理的で理解しやすい体系・構成にはなっていない。
 そこで、食品産業振興ビジョン(案)の中にアットランダムに散在している、
ビジョン・シナリオ・プログラムに関連する事項を探索・抽出し、他県等に対し
て「優位性を有する発酵食品産業集積(クラスター)の形成」という視点から、
できるだけ「贅肉」を削ぎ落とし、可能な限り簡潔に体系・構成を再構築するこ
とを試みた。その結果、以下の様に整理することができた。

《ビジョン》
〇健康長寿に資する新規発酵食品の研究開発・生産活動が活発な食品産業集積
(クラスター)の形成

《シナリオ1:長野県産発酵食品の優位性の論理的アピール》
@長野県の伝統的発酵食品の評価(おいしく健康長寿に寄与する食品であること
のエビデンスの蓄積)

Aエビデンスを国内外へ発信し、既存の長野県の発酵食品の付加価値が高いこと
(優位性を有すること)をアピール

《シナリオ2:優位性を有する新規発酵食品の創出》
@おいしさと機能性において優位性を有する新規発酵食品の研究開発

  《プログラム1:シナリオ1のための各種施策》
@発酵食品と健康長寿の相関に関する文献等をデータベース化し、エビデンスの
抽出

Aその結果をエビデンスライブラリー(HP、冊子等)として発信・PR

B長野県工業技術総合センターのおいしさ分析・評価体制を拡充強化し、おいし
さにおける優位性も発信・PR

《プログラム2:シナリオ2のための各種施策》
@長野県工業技術総合センターの機能性成分分析・評価機能の高度化

A産学官連携による新規機能性発酵食品等の研究開発支援

B「機能性表示食品」制度の利用支援

【食品産業振興ビジョン(案)のビジョン(目指す姿)の課題】
〇ビジョン(目指す姿)については、現時点では具体的には提示されていない。
全体的な記載内容から推測すると、多分、「長野県の長寿=発酵食品の摂取」と
いうような勝手な論理を根拠として、健康長寿の維持・増進に資するおいしい新
規発酵食品の研究開発・生産活動が活性化している食品産業の集積(クラスター)
形成を目指そうとしているのだろう。

〇しかし、健康長寿の維持・増進に資するおいしい新規発酵食品というだけでは、
他県等の既存の発酵食品に対して、どのような差異があるのか、また、どのよう
な優位性や独創性を確保しようとしているのか、産学官の関係者に全く伝わって
来ないのである。
 ビジョン(目指す姿)の提示においては、長野県が新たに創出・提供しようと
する発酵食品の優位性や独創性について、明確に分かり易く説明(定義)しなけ
ればならないのである。

○その新規発酵食品については、その創出のために、本県の産学官が汗を流し、
それ相当の人的・資金的投資をしても良いと評価できるものとして定義されなけ
ればならない。具現化を目指す新規発酵食品の具体像が、まず明確化され、関係
者間で目指す「価値」があるものとして、共通認識されなければ、その具現化へ
のシナリオ・プログラムについての真の議論は始まらない。

〇例えば、長野県の健康長寿を維持・増進する上で障害となっている疾病の予防
に効果のある機能性成分を多く生産する、新規の微生物(酵母、乳酸菌等)による
新規機能性食品の創出というような、具体的に実現を目指す食品像(分野)を特定
しなければならないということなのである。

○それは、一つの特定の食品像(分野)である必要はない。複数の食品像であって
も良いが、とにかく、関係者が具体的にイメージできる食品像を提示すべきなので
ある。ただ、おいしくて健康長寿に貢献する食品というだけでは、漠然とし過ぎて
いて、その具現化に必要なシナリオ・プログラムについて、具体的かつ戦略的に検
討することはできない。

○具現化を目指す新規発酵商品は、既に国内外で開発・生産されている、おいしく
て健康長寿に貢献できる発酵食品等に対して、どのようにして、どのような優位性・
新規性・競争力を確保できるのか。その確保に向けた戦略的なシナリオ・プログラ
ムについても、食品産業振興ビジョン(案)の中に明確に提示すべきなのである。
これが、産学官の関係者が、ビジョン具現化に取組む最大の動機づけとなるからで
ある。

【食品産業振興ビジョン(案)のシナリオ1の課題】
〇シナリオ1では、発酵食品と健康長寿の相関に関する文献等から、長野県の健康
長寿のエビデンスを探索・抽出し、発信・PRするとしているが、長野県が他県等に
比して健康長寿であることのエビデンスを、発酵食品の機能性の中のみに見出そう
とすること自体がナンセンスなのである。

〇例えば、長野県の発酵食品と、健康長寿でない他県等(例えば、日本一短命県の
青森県)の発酵食品との成分的差異等を明らかにし、その差異等が、健康長寿での
差異の主要因になっていることを明らかにすることは不可能に近いのである。
 そもそも、健康長寿の主要因が発酵食品であるとは言えない状況下では、「他県等
の発酵食品との差異」と「他県等の健康長寿との差異」との因果関係の解明に取組
むこと自体に意義があるのかについても、非常に疑問なのである。

※長野県の「信州保健医療総合計画〜『健康長寿』世界一を目指して〜」(平成25
年度〜平成29年度)の第3編「目指すべき姿」には、「健康長寿を実現してきた長野
県の地域特性や要因について科学的知見に基づく調査・分析を加え、その結果を反
映した健康づくり施策を展開する」と記載されている。しかし、その調査・分析に
おいても、健康長寿の要因が発酵食品の摂取であるというような結果は全く得られ
ていないのである。また、15年ほど前に、長野県テクノ財団が栄養学分野の大学研
究者に、長野県の長寿と食生活との因果関係を解明するための研究を依頼し、困難
として断られたこともあったのである。

〇長野県の健康長寿は、食生活によってのみもたらされたのではなく、他の多くの
要因(自然環境、労働環境、生活環境、社会制度等に係る多種多様な要因)によっ
てもたらされたものであろう。
 長野県の食品産業の優位性を非科学的な論理によって確保しようとするようなこ
とは、科学的根拠に基づき論理的に策定されるべき、地域産業政策においては、決
してあってはならないことなのである。

〇いずれにしても、長野県産の発酵食品と長野県の健康長寿との相関に関するエビ
デンスの抽出と発信というシナリオは、食品産業振興ビジョンの推進期間中(5年間)
に、遂行できるような科学的レベルのものではないことは、同ビジョン(案)の策定
作業に参画している多くの職員が、既に認識できているはずである。それにも係らず、
なぜ、そのようなシナリオが提示されているのか、理解に苦しむところである。

【食品産業振興ビジョン(案)のシナリオ2の課題】
〇シナリオ2では、おいしさと機能性を兼ね備えた新規発酵食品の研究開発を実施
するとしているが、「食品産業振興ビジョン(案)のビジョン(目指す姿)の課題」
で述べた通り、まだ、どのような機能性を有する新規発酵食品を創出すべきかにつ
いて、全く方向づけができていないのである。

〇したがって、今後、以下のような手順で新規発酵食品をデザインし、その研究開
発に取組んでいくことが必要となる。非常に困難な作業を的確に実施していかなけ
ればならないのである。

@どのような機能性(どのような疾病の予防効果等)を有する新規発酵食品を創出
すべきなのかについて、健康・医療分野の専門家等の意見・要望(市場ニーズ)等
を参考にして、いくつかの創出候補を探索・選定し、技術的・経済的視点等から研
究開発ターゲットを絞り込み決定する。

A想定する(専門家から求められる)疾病予防効果等が発現できるようにするため
には、当該発酵食品には、単位重量当たり、どのような機能性成分が、どのくらい
の量含まれることが必要になるのか、機能性が発揮されやすい食品の形態とはどの
ようなものなのか、など創出する発酵食品に求められる様々な条件等をクリアでき
るようにデザインし「仕様」として整理・決定する。

Bその「仕様」を実現できる製造技術を産学官連携によって研究開発する。
 その研究開発の効果的推進には、既存技術の調査、先願特許への抵触回避策の検
討、新規に開発しなければならない技術の選定、研究開発計画の策定、研究開発体
制の構築、必要な資金の調達、研究開発の進捗管理、成果の検証・事業化など、一
連の工程を総合的・俯瞰的にマネジメントできる「人的体制の整備」が必要となる。
それをどこに整備するのかが最重要課題となる。

〇いずれにしても、もし長野県が本気で、科学的根拠に基づき、健康長寿に資する
新規発酵食品の研究開発に、産学官連携によって取組む場合には、前述のような、
一連の研究開発工程を総合的・俯瞰的にマネジメントできる人的体制を、地域の中
核的産業支援機関の中に構築し運営することが不可欠となるのである。
 食品産業振興ビジョン(案)のビジョン(目指す姿)実現へのシナリオの中には、
当然、その構築・運営の在り方等が提示されていなければならないのである。

【むすびに】
〇以上のように、食品産業振興ビジョン(案)には、ビジョン(目指す姿)が他県
等に対する優位性を打ち出せず不明確であり、そのビジョン実現へのシナリオ(道
筋)も、本県の健康長寿の要因を、県産の発酵食品の機能性の中のみに、しかも文
献調査のみによって見出そうとするような、非科学的で実施・実現困難な活動を組
込むなど、非常に重大な問題が内在している。

〇したがって、現状においては、シナリオの推進に必要な各種施策(プログラム)
について、具体的に議論できる状況には全くないのである。まずは、疫学や栄養学
等の専門家も交えて、ビジョン・シナリオ・プログラムの基本的な在り方に関する
議論からやり直すことをお勧めしたい。

〇食品産業振興ビジョンが、その策定・公表後に、科学的視点から根本的な問題が
あるというような、恥かしい指摘を受けることが無いよう、関係の産学官の皆様方
からも、県に対する積極的な助言等をしていただくことお願いし、むすびとしたい。


ニュースレター号外(2017年3月8日送信)

長野県行政経営方針(案)のパブリックコメントへの意見等の追加提出について(No.2)

【はじめに】
〇「長野県行政経営方針」(案)のパブリックコメント(3月9日まで)への提出意
見等については、既にニュースレター101号や号外でお知らせしております。
 その101号や号外の作成作業を通じて、この行政経営方針(案)が、「十分な議論
やチェックを経て作成されたものではないのでは?」というような疑問等を強く感
じるようになりました。
 この疑問等が、パブリックコメントに提出した私の意見等への、県の誠意ある回
答によって、すっきり解消されることを期待しています。

〇現在の「長野県行政・財政改革方針」の運用期限が、この3月末までであり、それ
に代わる新たな「長野県行政経営方針」を、どうしても3月中に策定しなければなら
ないという状況下で、3月9日までパブリックコメントを実施し、その後に、寄せられ
た意見等を整理し、回答を作成し、必要な修正も加えた上で、3月末日までに正式に
決定・公表することは、事務的に非常に窮屈なスケジュールになっています。
 パブリックコメントに寄せられた意見等によって、修正が必要になることなど全
く想定していない、パブリックコメントの実施意義を非常に軽視した策定スケジュー
ルと言っても良いでしょう。

〇策定作業を急ぐあまりに、ビジョン・シナリオ・プログラムという論理的視点に
立って、複数人が繰り返し全体を読み通す(読み合わせする)作業等の不足から、
ニュースレターで指摘したような、形式論的あるいは実質論的な課題を見逃すこと
になってしまったのではないのかと推測されます。

〇長野県には他県等に比して優位性のある行政経営方針を策定していただきたいとい
う強い思いから、形式論的課題に関する追加の意見等を提出することにいたしました。
 担当部署には、時間が無いことを理由として、「不完全」であることを承知しなが
ら、決定・公表するようなことだけは止めていただくことをお願い申し上げます。

〇追加提出した意見等については、今回も皆様方にお知らせし、私の視点や問題意識
等に関して、更にご批評等をいただければと考えた次第です。以下で、提出意見等を
説明させていただきます。

【提出意見等1:経営方針の推進期間(見直し時期)は設定すべきこと】
〇この経営方針については、従来のような推進期間の設定(見直しの時期の設定等)
はしないとされている。なぜ、あえて期間設定しないのか。
 期間設定しない場合には、代わりに、経営方針の見直しの必要性を判断し、見直し
の実施をするか否かを決定するシステムを別途設けることが必要となると考えるが、
いかがか。
 そうでないと、見直しすべきタイミングを逸するリスクが高まると考えられるが、
いかがか。

【提出意見等2:経営方針が策定趣旨通り遵守・実施化されない場合には見直すべきこと】
〇この経営方針については、「本県の行財政を取り巻く環境に変化が生じた場合には、
適宜方針を見直す」旨が提示されているが、この経営方針が、何らかの理由等で、策
定趣旨通りに遵守・実施化されていない場合(多くの行政分野で最高品質の行政サー
ビスが提供されていない場合、職員によるバリューの具体化が徹底されていない場合
等)には、見直す必要性が生ずるということは想定していないのか。
 想定しておくべきと考えるが、いかがか。

〇今の(案)のままでは、長野県の経営方針は、外部環境の変化によって見直すこと
はあっても、県組織内部の状況の変化(新たな問題の発生等)によっては見直すこと
はない、というような非常に狭い「視点」が提示されており、県組織の基本的行政経
営姿勢の在り方という観点からも修正すべきと考えるが、いかがか。

【意見等3:経営方針の遵守・実施化状況をチェックするシステムの構築が必要なこと】
〇この経営方針が、策定趣旨通りに遵守・実施化されていない時には、見直すことが
ありうるとした場合には、この経営方針が、策定趣旨通り遵守・実施化されているか
否かについて、定期的にチェックするシステム(行政サービスの受け手等を含む、県
組織外メンバーで構成される組織等)を構築しておかないと、見直しの必要性の判断
等に支障が生ずると考えるが、いかがか。
 このシステムを、経営方針の中に明確に提示しておくべきと考えるが、いかがか。

【意見等4:経営方針の見直しを決定するシステムの構築が必要なこと】
〇この経営方針は、あえて推進期間の設定(見直しの時期の設定等)をしていないこ
とから、策定趣旨通りに遵守・実施化されていないと、前述のシステムによって評価・
判断された場合、見直しをすべきか否かを速やかに決定できるシステムも、経営方針
の中に明確に提示しておくべきと考えるが、いかがか。

【むすびに】
〇前回の提出分も含めて、行政経営方針策定の担当部署が、私の提出意見等を少しで
も参考にして、形式論的にも実質論的にも優位性のある行政経営方針に仕上げていた
だくことを期待したい。


ニュースレター号外(2017年3月1日送信)

長野県行政経営方針(案)のパブリックコメントへの意見等の追加提出について

【はじめに】
〇長野県行政経営方針(案)のパブリックコメント(3月9日まで)への提出意見等に
ついては、既にニュースレター101号でお知らせしました。その提出の最大の目的は、
行政サービスを「最高品質」にする道筋も明確に提示できないままに、安易に「最高
品質」という用語を使用していることに関して、サービス科学等の視点からも訂正す
べき旨を担当部署に伝えるということでした。

〇その後、その行政経営方針(案)には、その体系・構成に関して、見逃すことので
きない形式論的問題も多数存在していることに気づき、長野県には他県等に比して優
位性のある行政経営方針を策定していただきたいという強い思いから、追加の意見等
を提出することにいたしました。

〇追加提出した意見等についても、皆様方にお知らせし、私の視点や問題意識等に関
して、更にご批評等をいただければと考えた次第です。以下に提出意見等を説明させ
ていただきます。

【提出意見等1:「策定趣旨」を記載・提示すべきこと】
〇行政経営方針(案)の最初に「策定趣旨」を記載・提示すべきではないのか。

[意見等1−1]
〇この行政経営方針(案)には、「方針の位置づけ」は記載されているが、「策定趣
旨」が記載・提示されていない。
 平成24年3月策定の「長野県行政・財政改革方針」(平成28年度末まで)に引続き、
ビジョンに「県民起点」を追加したり、全体的にコンパクト化(前回50ページ、今回
9ページ)したりして、なぜ、同様のミッション、ビジョン等を掲げ、わざわざ行政
経営方針を策定しなければならないのか。
 ある重要課題が存在し、その重要課題を解決するためには、引続き行政経営方針の
策定が必要ということなのか。
 策定の背景・理由が良く理解できないので、簡潔に説明願いたい。

[意見等1−2]
〇今のままでは、行政経営方針(案)全体を読んでからでないと、「策定趣旨」を理
解できない、あるいは、「策定趣旨」は読んだ人それぞれの解釈に任せる、というよ
うな、非常に不親切な体系・構成になってしまっている。
 なぜ、通常は記載される「策定趣旨」をあえて除いたのか。理由があれば、それを
説明願いたい。

[意見等1−3]
〇このような県の方針等の文書の、通常の体系・構成の「形式論的あるべき姿」の視
点からも、最初に、「策定趣旨」を明確に記載・提示すべきと思うが、いかがか。

[意見等1−4]
〇目次と2ページ以降の項目建てが整合していない(目次に「第1 基本的考え方」、
「第2 具体的な取組内容」等の記載がない。)ので、修正すべきではないか。あえ
て不整合にしているのか。

【提出意見等2:体系・構成をビジョン・シナリオ・プログラムという分かりやすい
形に再構築すべきこと】
〇行政経営方針(案)の体系・構成について、ビジョン・シナリオ・プログラムとい
う、分かり易い形に再構築すべきではないのか。
 一般県民が理解できるように策定しようという意思があるとすれば、現状の体系・
構成をもっと平易で分かり易い形にすべきであるということである。多くの県職員に
とっても、理解しづらい体系・構成と思われる。

[意見等2−1]
〇この行政経営方針(案)は、県組織が、そのミッション(使命・目的)「最高品質
の行政サービスを県民に提供し、長野県の発展と県民のしあわせの実現に貢献」を果
せるようにするために策定するのではないのか。

[意見等2−2]
〇もしそうだとすれば、ビジョン(実現を目指す姿)としては、県組織が、そのミッ
ションを果すことによって、「長野県の発展と県民のしあわせ」が実現できた状態
(理想的な状態)を位置づけるべきではないのか。

[意見等2−3]
〇県民に期待される県行政や、県職員が仕事に高い志や情熱を持つことなどを目指す
ことを、わざわざビジョン(実現を目指す姿)として設定するということは、県行政
が、県民からの信頼や期待に十分には応えられておらず、県職員も、高い志や情熱を
持つことに劣っているという、内部的事情の改善が必要なためなのか。

[意見等2−4]
〇県組織内部の課題が解決された状態を、行政経営方針が実現を目指す姿として、わ
ざわざ県民の前に提示することは適切ではないと考えるが、いかがか。
 本来的に、行政経営方針とは、県組織や県職員の「しあわせ」の実現ではなく、県
民の「しあわせ」の実現をビジョン(行政経営方針が実現を目指す姿)として設定・
提示すべきではないのか。

[意見等2−5]
〇現状のビジョン(県民の期待に応える県行政、職員が活躍する県組織等)を前提と
した場合、そのビジョンの実現へのシナリオ(ビジョン実現への道筋)、プログラム
(シナリオの着実な推進に必要な各種施策)は、どこに提示されているのか。分かり
やすく明確に提示すべきではないのか。

[意見等2−6]
〇この行政経営方針(案)には、ビジョンを実現するためのシナリオ・プログラムが
明確には提示されていないという、体系・構成上の欠陥があると言えると思われるが、
いかがか。
 例えば、ビジョン実現のシナリオ・プログラムに大きく係ると思われる「バリュー
(職員の価値観・行動の指針)」でさえも、その内容等については明確に提示されて
いないということである。

[意見等2−7]
〇バリュー(職員の価値観・行動の指針)の注記として、「職員一人ひとりがバリュ
ーの意味を考え、自分ごと化するとともに、職員討議を通じて、各職場の特性・状況
に応じた具体化を行います。」となっている。
 行政経営理念としてのバリューの形成については、職員一人ひとりや各職場の対応
に任せるということなのか。
 県組織としては、職員に求めるバリューのレベル・内容等については、全く提示し
ないという考え方なのか。
 それを提示しなければ、職員も職場も、目指す方向・レベル等が理解できず、十分
なバリューを形成・確保できないのではないのか。

[意見等2−8]
〇バリューに記載されている「挑戦」、「迅速」、「責任」と、ビジョン実現への道
筋との関係を論理的に明示し、「挑戦」、「迅速」、「責任」をどのようにして職員
が確保し、それを職員がどのように運用していくべきなのか、を明確に提示すべきと
考えるがいかがか。

[意見等2−9]
〇職員が、特に「県民起点」の意識改革ができ、「高い志と仕事への情熱」を持てる
ようにするためのシナリオ(実現への道筋)とプログラム(シナリオの的確な推進の
ための各種施策)は、どこに具体的に記載されているのか。
具体的に分かり易く、記載すべきではないのか。

【提出意見等3:平成24年3月策定の「長野県行政・財政改革方針」の達成度評価を
反映すべきこと】
〇平成24年3月策定の「長野県行政・財政改革方針」(平成28年度末まで)によって、
県組織のミッションは果たせたのか、ビジョンは実現できたのか。

[意見等3−1]
〇「長野県行政・財政改革方針」(平成28年度末まで)においても、県組織のミッシ
ョンは、同じ「最高品質の行政サービスを提供し、ふるさと長野県の発展と県民のし
あわせの実現に貢献します。」であったが、そのミッションは果たせたのか。どう評
価しているのか。

[意見等3−2]
〇どの程度の行政サービスが最高品質になったと評価しているのか。
 評価しているとしたら、どのような手法で最高品質であると評価したのか。

[意見等3−3]
〇「長野県行政・財政改革方針」(平成28年度末まで)においても、ビジョンは、
「県民起点」を除けば全く同じ「県民に信頼され、期待に応えられる県行政を目指し
ます。職員が高い志と仕事への情熱を持って活躍する県組織を目指します。」であっ
たが、そのビジョンは実現できたのか。どう評価しているのか。

[意見等3−4]
〇県行政が、県民の信頼や期待に応えられたか否かの評価は、県民満足度調査も含め
て、どのような手法で実施したのか。分かり易く説明願いたい。
 その結果から、最高品質であると評価できる行政サービスはどの程度あったのか、
概要を説明願いたい。

[意見等3−5]
〇県職員の仕事に係る高い志や情熱についての評価は、どのような手法で実施したの
か。その結果はどうだったのか。

[意見等3−6]
〇今回の行政経営方針(案)に「県民起点」を加えたのは、現状の県行政や県職員に
は、「県民起点」が不足していると認識しているからなのか。
 「長野県行政・財政改革方針」(平成28年度末まで)でも、県民の声の行政運営へ
の反映として「広聴事業の充実」、「政策づくりへの県民の参画の推進」、「目標実
現度調査の実施」、「審議会等の活性化」が提示されていたが、これらのどこに、ど
のような「県民起点」に係る課題があったのか。

[意見等3−7]
〇現状において、県組織や県職員に「県民起点」が不足していると具体的に認識でき
ているとしたら、どのようにして認識できるようになったのか。その手法等について
具体的に説明願いたい。

【むすびに】
〇前回の提出分も含めて、行政経営方針策定の担当部署が、私の提出意見等を少しで
も参考にして、形式論的にも実質論的にも優位性のある行政経営方針に仕上げていた
だくことを期待したい。


ニュースレターNo.101(2017年2月23日送信)

「長野県行政経営方針」(案)の地域産業振興戦略の視点からの課題(No.1)
〜同方針(案)は、優位性ある地域産業振興戦略の策定・実施化を行政サービスとして認識しているのか?〜

【はじめに】
〇長野県では、「長野県行政経営方針」(案)についてのパブリックコメントが実施
されている。その体系は、まず、「長野県行政経営理念」を定め、その具現化のため
の取組方針として「長野県行政経営方針」を定めるというものである。

〇「長野県行政経営理念」とは、まず、県組織のミッション(使命・目的)を「最高
品質の行政サービスを提供し、ふるさと長野県の発展と県民のしあわせの実現に貢献
します。」とし、県組織が実現を目指すビジョン(目指す姿)については、「県民起
点で、県民に信頼され、期待に応えられる県行政を目指します。職員が高い志と仕事
への情熱を持って活躍する県組織を目指します。」としている。

〇「長野県行政経営理念」の具現化のための「長野県行政経営方針」としては、「T.
県民の信頼と期待に応える組織づくり」、「U.共感と対話の県政の推進」、「V.
行政サービスを支える基盤づくり」の三本柱を提示している。

〇今回以降、この「長野県行政経営方針」(案)が、行政サービスとして、県組織に
よる優位性ある地域産業振興戦略の策定・実施化も認識しているのか、認識している
としたら、どのような課題を内包しているのか、などについて議論をしてみたい。
 まずは、その議論に資するため、「長野県行政経営方針」(案)に関して、パブリ
ックコメントに提出した疑問・意見等について整理しておくことにしたい。

【提出意見等1:行政サービスの品質をどのように測定し、品質向上に活かすのか。】
〇第1に、県組織のミッション(使命・目的)として、最高品質の行政サービスの提
供を目指す旨の記載があるが、実際に個々の行政サービスを最高品質にすることに具
体的に取り組む考えなのか。それとも、単にキャッチフレーズとして見栄えが良いの
で、最高品質という言葉を掲げただけなのか。明確にお答え願いたい。

〇第2に、行政サービスを最高品質にするためには、行政サービスの品質(受け手側
の評価等)を測定する手法の存在が前提となると考えるが、いかがか。

  〇第3に、行政サービスの品質は、その受け手となる県民が評価することになると考
えるが、それで良いか。
 長野県の行政サービスが、他県等の類似の行政サービスに比して、その品質が優れ
ているのか、劣るのか、について、どのような測定・評価手法を県は採用しようと考
えているのか。具体的に説明願いたい。
 なお、測定・評価することを考えていない場合には、その理由を含めて説明願いたい。

【提出意見等2:最高品質の行政サービスの提供には、最高品質の(優位性ある)地域産業政策の策定・実施化が含まれるのか。】
〇第1に、「長野県行政経営方針」(案)における行政サービスの定義は何か。その
定義を明確にした上で、行政サービスの品質とは何か、その品質を最高にする方策と
してどのようなことを想定しているのか、について具体的に説明願いたい。
 それらが明らかにならないと、県組織の職員が、行政サービスの品質向上方策につ
いて具体的に議論・検討することはできない。

〇第2に、その行政サービスには、地域の産業界に対して、長野県の地域産業の持続
的成長に資する、地域産業振興戦略を策定・提示し、それを実施化することは含まれ
るのか。地域産業振興戦略の策定・実施化によって、県内産業が発展すれば、「ふる
さと長野県の発展と県民のしあわせの実現に貢献」することになる。

〇第3に、行政サービスに、地域産業振興戦略の策定・実施化が含まれるとした場合、
行政サービスの最高品質とは、地域産業振興戦略が、他県等に比して優位性を有する
こと、すなわち、他県等に比して、より市場競争力を有する高度な産業集積を、より
速やかかつ効果的に形成することに資する「仕掛け」を内包するものであることを意
味すると考えるが、それで良いのか。

〇以下では、「最高品質の行政サービスの提供」=「他県等に比して優位性を有する
地域産業振興戦略の策定・実施化」 という視点から議論を展開したい。

【提出意見等3:優位性を有する地域産業振興戦略の策定・実施化に係る行政経営方針「T.県民の信頼と期待に応える組織づくり」とは具体的に何か。】
〇第1に、優位性を有する地域産業振興戦略の策定・実施化・具現化のための行政経
営方針(県組織としての取組方針)は、行政経営方針の「T.県民の信頼と期待に応
える組織づくり」のどこに、どのように位置づけられているのか。具体的に説明願い
たい。

〇第2に、この「県民」の定義は何か。自然人としての個人のみを示すのか。法人も
含むのか。いずれにしても、産業界は含まれることになる。したがって、「県民」の
期待に応えるということは、産業界の県組織への期待に応えるということになる。
「県民起点」には、「産業界起点」が含まれると思われるが、それで良いのか。

〇第3に、産業界の県組織への期待に応える最高品質の(優位性ある)地域産業振興
戦略の策定・実施化を可能とするために、県組織として、行政経営方針「T.県民の
信頼と期待に応える組織づくり」の中に提示されている事項のうちの、特に何に力を
入れて取り組んでいこうと考えているのか。具体的に説明願いたい。

【提出意見等4:優位性を有する地域産業振興戦略の策定実施化に係る行政経営方針「U.共感と対話の県政の推進」とは具体的に何か。】
〇第1に、優位性を有する地域産業振興戦略の策定・実施化・具現化のための行政経
営方針(県組織としての取組方針)は、行政経営方針の「U.共感と対話の県政の推
進」のどこに、どのように位置づけられているのか。具体的に説明願いたい。

〇第2に、地域産業振興戦略の策定・実施化における「多様な主体との協働の推進」
については、いわゆる産学官連携(当然、金融機関も含まれる。)が中心になると思
われる。産学官連携による地域産業振興の県組織にとっての重要性については、どこ
に提示されているのか。提示すべきではないのか。

〇第3に、地域産業振興戦略の策定・実施化における「多様な主体との協働の推進」
のコーディネート役を務める、地域の産業支援機関の役割は重要と思われるが、それ
については、どこに提示されているのか。提示すべきではないのか。

【提出意見等5:優位性を有する地域産業振興戦略の策定実施化に係る行政経営方針「V.行政サービスを支える基盤づくり」とは具体的に何か。】
〇第1に、優位性を有する地域産業振興戦略の策定・実施化・具現化のための行政経
営方針(県組織としての取組方針)は、行政経営方針の「V.行政サービスを支える
基盤づくり」のどこに、どのように位置づけられているのか。具体的に説明願いたい。

〇第2に、優位性を有する地域産業振興戦略の策定・実施化・具現化のためには、
「職員の育成と適正配置」が極めて重要と考えるが、その重要性や育成・適正配置の
基本的考え方等については、どこに提示されているのか。提示すべきではないのか。

〇第3に、優位性を有する地域産業振興戦略の策定・実施化・具現化のためには、優
位性を有する地域産業振興戦略の策定・実施化・具現化を主導できる職員の存在が不
可欠と考えられるが、その育成方針については、どこに提示されているのか。提示す
べきではないのか。

【提出意見等6:既存の行政サービスをどのようにして最高品質に改善するのか。また、新たにどのような最高品質の行政サービスを創出するのか。】
〇第1に、既存の行政サービスの中から、最高品質でないため改善を要する行政サー
ビスをどのように探索・抽出・選定するのか。その手法についての基本的考え方を説
明願いたい。

〇第2に、現状の行政サービスでは足りない場合、新たに創出しなければならない行
政サービスをどのようにして選定するのか。その手法についての基本的考え方を説明
願いたい。

〇第3に、行政サービスの受け手のニーズを満たすための、既存の行政サービスの最
高品質への改善や、新たな最高品質の行政サービスの創出に係る具体的手法(最高品
質の行政サービスの設計手法等)についての基本的考え方について説明願いたい。

【むすびに(提出意見等7):行政サービスの種類や受け手を分類しなければ、行政サービスの品質向上方策に係る実効性ある行政経営方針は策定できないのではないのか。】
〇県民には、例えば、県組織のヒアリングに応じて、自らの行政サービスニーズを伝
えることができる人もいれば、自らのニーズを伝えることができない(サービス提供
者がニーズを慮る必要がある)ハンディキャップを有する人もいる。
 また、行政サービスの品質の評価についても、受け手(その感情や価値観等)によ
って千差万別であるし、サービスを受けた時は、評価が低くても、時間とともに評価
が高まるようなサービス(例えば、医療、教育等の分野)もある。サービスの内容も、
受け手も、様々なのである。

〇「長野県行政経営方針」(案)は、行政サービスやその受け手を分類(具体的に想
定)することもなく、全ての行政サービスを最高品質にすることを目指しているため、
非常に抽象的な観念論の範疇を脱しきれないものとなってしまっている。

〇「長野県行政経営方針」(案)を、県組織の職員の具体的な活動指針として、実際
に活かせるようにするためには、対象とする行政サービスやその受け手の分類(具体
的な想定)が必要ではないのか。
 その分類に応じた具体的な行政経営方針でなければ、県組織の現場で職員が実際に
活用できるものとはなりえないのではないのか。

以上、「長野県行政経営方針」(案)の問題点や疑問点を思いつくままに指摘してき
た。皆様方にも、パブリックコメントに提示されている「長野県行政経営方針」(案)
に目を通していただき、私の指摘についてコメント等をいただければ、次回以降(県
の回答を得た後)での本格的な議論が、質的により高度なものとなることが期待でき
るだろう。


ニュースレターNo.100(2017年2月10日送信)

「長野県航空機産業振興ビジョン」に内在する論理的脆弱性(No.6)
〜長野県の平成29年度当初予算案に関するパブリックコメントに提出した意見等に対する県の見解の分析・評価〜

【はじめに】
○長野県の平成29年度当初予算案に計上された、新規の航空機産業振興事業に内在
する、航空機産業振興(クラスター形成)手法等の問題点を明確化し、それを改善
していただくことを目的として、当初予算案に関するパブリックコメントに6つの意
見等を提出した。その意見等に対する県の見解が、2月8日に公表されたので、その
見解について、県の航空機産業振興手法等の改善に真に資するものであるのか否か、
以下で政策論的視点から分析・評価し、更に検討すべき課題の提示等もしてみたい。
 長野県の航空機産業振興事業の企画・実施化に携わっている皆様の参考になれば
幸いである。

【意見1:航空機部品マーケティング支援センターの設置】
《パブリックコメントへの提出意見》
〇航空機産業分野に新たに参入しようとする県内企業にとっては、航空機メーカー
の生産計画の下に、当該メーカーから一次下請、二次下請等へと重層的に発注され
る部品の製造に係る情報を的確に収集し、その部品製造に携われるようにすること
が「ビジネス戦略」になる。
 したがって、受発注支援の専門機関が、国内外の航空機部品製造企業の外注動向
を把握し、県内企業の受注に結び付けるマッチング支援活動を積極的に展開するこ
とが、新規参入を目指す県内企業への非常に重要な支援施策となる。

〇このようなグローバルな規模で受発注支援活動ができる「航空機部品マーケティ
ング支援センター」を当初予算で速やかに設置すべきと考えるがいかがか。

〇現在、南信州・飯田産業センターでは、航空機部品に係る受発注支援活動の予算
が不足し困っている。国庫補助金等外部資金の活用等の工夫はしているが、十分で
はない。南信州・飯田産業センターに、グローバルな規模で受発注支援活動のでき
る「航空機部品マーケティング支援センター」を設置することが、航空機産業クラ
スター形成の加速化をもたらすと考えるがいかがか。

〇県として、当初予算でそれを支援すべきと考えるがいかがか。

《県の見解》
○航空機産業への新規参入を促進するために、受発注販路開拓支援は非常に重要で
あると考えております。
 長野県では、航空機産業に取り組む企業を増加させ拠点化を目指すため、長野県
航空機産業振興ビジョンを策定しました。このビジョンに基づき、高度人材育成、
研究開発促進、販路開拓等の事業を実施してまいります。
 いただきましたご意見につきましては、拠点を運営する「長野県航空機産業推進
会議」において、飯田地域の要望や各方面の専門家の意見を踏まえ、検討してまい
りたいと考えています。

《県の見解に関する分析・評価》
○長野県航空機産業振興ビジョンに記載の通り、国際競争力を有するアジアの航空
機産業クラスターの形成を目指すのであれば、グローバルな規模で受発注支援がで
きる「航空機部品マーケティング支援センター」を設置すべきという意見等に対し
て、県としての見解を全く示さず、「長野県航空機産業推進会議」において検討し
たいとし、課題の解決を先送りにしている。

〇飯田下伊那地域を中心とする航空機産業クラスター形成促進のために、新たにど
のような受発注支援システムを構築すべきかに関する議論・検討が十分にはなされ
てこなかったことが窺える。
 早期に「長野県航空機産業推進会議」を開催し、グローバルな規模での受発注支
援の在り方について、具体的に議論・検討していただくことを期待したい。

〇テクノ財団は、他の産業支援機関と同様、長野県航空機産業振興ビジョンの策定
には全く参画させてもらえず、パブリックコメントの機会も与えてもらえなかった。
 したがって、今後、まだ県が明確な方針を打ち出せないでいる、同ビジョン具現
化へのシナリオ・プログラムの在り方等について議論・検討がされる「長野県航空
機産業推進会議」には、テクノ財団を含む県内産業支援機関の意見等も効果的に反
映されるよう配慮いただくことを期待したい。

【意見2:航空機産業クラスター形成の中核的推進機関の設置】
《パブリックコメントへの提出意見》
〇飯田下伊那地域を中心とする航空機産業クラスター形成の加速化の視点からお尋
ねしたい。
 同地域の航空機産業クラスター形成の加速化のためには、同地域に、クラスター
形成に必要な事業を関係機関との連携の下に、効果的に企画・実施化、進捗管理し
ていく機能を有する中核的推進機関が存在することが不可欠と考えるがいかがか。

〇もしそうだとしたら、県としては、どの産業支援機関を中核的推進機関としたい
のか。私は、南信州・飯田産業センターと考えるがいかがか。

〇飯田下伊那地域の中核的推進機関のクラスター形成推進機能(研究開発支援から
受発注支援や人材育成支援まで含めて、必要な事業を総合的に企画・実施化、進捗
管理できる機能)を強化するための、県の支援事業が当初予算の中に見当たらない
が、あれば、教えていただきたい。

〇飯田下伊那地域のクラスター形成への主体性、自立性(クラスター形成推進主体
としての意識も)を高めることも、極めて重要と考えるが、いかがか。

〇もし、そうだとすれば、主体性、自立性を育むためにも、本来、飯田下伊那地域
の中核的推進機関が実施すべき事業、例えば、航空機システム拠点形成産学官スター
トアップフォーラム開催事業を、無理やりテクノ財団にやらせようとするのはなぜ
か。論理的に説明願いたい。

《県の見解》
○長野県全域を対象としたクラスター形成に資するため、拠点の総合的な運営組織
として、昨年12月5日に「長野県航空機産業推進会議」を設置・開催しました。
 この推進会議には、経済産業省、関東経済産業局、信州大学、産業界、国立研究
開発法人産業技術総合研究所、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)か
ら参加いただくなど、航空機産業に関連するほぼすべての業界が一堂に会し拠点を
運営します。
 この推進会議を中心に、高度人材育成、研究開発、受発注支援等について検討し、
実行していくことで拠点機能の強化を図ります。

《県の見解に関する分析・評価》
〇県の関係資料によると、「長野県航空機産業推進会議」は、各種の連絡調整等を
担当するもので、拠点(クラスター)形成に必要な事業の企画・実施化組織(実働
組織)ではない。
 しかし、この見解の中では、同会議をクラスター形成の総合的運営組織として位
置づけている。県は、この会議が、クラスター形成の運営組織として実働できると
考え、クラスター形成において不可欠と言われる中核的推進機関の別途設置(指定)
は必要ないと認識しているのだろうか。
 クラスター形成を主導する者であれば通常有すべき、クラスター形成戦略(手法)等
に関する基礎知識が、関係者の間に浸透していないことが窺え、先行きに大きな不
安を感じざるを得ない。

〇産学官の関係機関が、航空機産業クラスター形成に必要な事業を企画・実施化す
る場合には、通常、クラスター形成の中核的推進機関との連携(協議・協働等)に
よって行うことになる。しかし、「会議」と協議・協働等することは不可能に近い。
 県は、どこがいわゆる中核的推進機関なのかを含め、中核的推進機関の在り方に
ついての基本的考え方を、関係機関に対して速やかに、かつ明確に提示しておくこ
とが必要となる。

○県が、県全域を航空機産業クラスターにすることをビジョンとして設定する場合
にあっても、そのビジョン実現への中核的シナリオとして、まずは、既に多額の投
資をしている飯田下伊那地域を中心とする航空機産業クラスター形成に重点的に取
組むべきと考える。この点についても、県の基本的考え方を関係者に明確に提示す
べきである。
 テクノ財団は、飯田下伊那地域でのクラスター形成に資することを、航空機産業
振興事業の実施目的の第一として明確に位置づけている。

〇以上のような様々な課題への対応についても、県は、「長野県航空機産業推進会
議」の場で検討していくという考えなので、早期に会議を開催し、具体的な議論・
検討がなされることを期待したい。
 その場には、同会議のメンバーではないが、プレーヤーとしての参画が想定でき
る産業支援機関等の意見等も、効果的に反映できるよう配意されることを期待したい。

【意見3:中小企業振興センターの航空機部品受発注支援機能の強化】
《パブリックコメントへの提出意見》
〇航空機産業振興に関する当初予算を見ると、飯田下伊那地域を中心とする航空機
産業クラスター形成の加速化のためには、受発注の面からの支援を強化することが
不可欠であるが、中小企業振興センターの飯田下伊那地域における受発注支援機能
を強化するような新規事業は無いようだが、それに間違いないか。

〇もし、無いとすれば、なぜ中小企業振興センターの飯田下伊那地域での受発注支
援機能の強化を当初予算に盛り込まなかったのか説明願いたい。

〇航空機産業クラスターの形成を加速するためには、受発注支援機能を強化するこ
とが必要で、そのために、新たに航空機部品マーケティング支援センターを、でき
れば南信州・飯田産業センター等の飯田地域の産業支援機関に設置するくらいの事
業を当初予算で考えるべきと思うがいかがか。

〇あるいは、中小企業振興センターが、その現地機関として、飯田に航空機部品マー
ケティング支援センターを設置し、クラスター形成を加速化するというような事業
も当初予算に盛り込むべきと考えるがいかがか。

《県の見解》
○ご提案のとおり、受発注支援強化は必要と考えています。
 長野県では、航空機産業に取り組む企業を増加させ拠点化を目指すため、長野県
航空機産業振興ビジョンを策定しました。
 このビジョンに基づき、高度人材育成、研究開発促進、販路開拓等の事業を実施
してまいります。
 この拠点化に向けた取組を、拠点の総合的な運営組織として昨年12月5日に設置
した「長野県航空機産業推進会議」において議論する中で、検討してまいりたいと
考えています。

《県の見解に関する分析・評価》
○飯田下伊那地域での国際競争力のある航空機産業クラスターの形成を前提として、
そのクラスターの受発注支援機能の強化(中小企業振興センターの支所設置、南信州・
飯田産業センターの受発注支援機能の強化等)を課題として提示しているが、この
課題を正面から捉えた見解が示されていない。飯田下伊那地域における受発注支援
機能の強化方策等については、まだ、具体的に議論・検討したことがないのだろう。

○県が言う「拠点化」(クラスター形成)とは、第一義的には、長野県全域を「拠
点化」することであるらしい。しかし、通常のクラスター形成においては、そのク
ラスターに属する産学官の関係者が、アフターファイブであっても、気軽にその中
核的推進機関に集い、クラスター形成について夜遅くまで議論できるような距離感
が、クラスターの地理的規模を規定している。
 したがって、県が想定する県全域のクラスター化に取組むとなれば、今までだれ
も経験したことのない、中核的推進機関の新たな在り方を含む、非常に独創的なク
ラスター形成の「仕掛け」を構想・構築することが必要となる。

〇いずれにしても、県は、拠点(クラスター)形成の促進のための受発注支援の在
り方については、「長野県航空機産業推進会議」で議論・検討するという考えなの
で、その早期開催を期待したい。
 その議論・検討については、県の航空機産業振興ビジョンの具現化は、受発注支
援の中核的・専門的支援機関である長野県中小企業振興センター(マーケティング
支援センター)との協働がなければ不可能となることを、十分に認識した上で実施
されることを期待したい。
 県が当初予算案に計上しているほとんどの事業は、県内企業における航空機部品
に係る「受発注のマッチング」がうまくいくことを最終目標としていると言えるの
である。

【意見4:受発注支援事業は中小企業振興センターに任せるべきこと@】
《パブリックコメントへの提出意見》
〇平成29年度当初予算で、県が、長野県テクノ財団に一方的に実施させたいと考え
ている航空機産業振興に係る事業の中には、県内企業の航空機部品関係の受発注支
援に係る事業が多く含まれている。県内企業の受発注支援は、中小企業振興センター
の主要事業と考えるが、いかがか。

〇もしそうであれば、なぜ受発注支援の経験が乏しく、マーケティング支援体制も
整っていないテクノ財団に実施させようとするのか。なぜ、マーケティング支援セ
ンターに実施させようとしないのか。その根拠を論理的に教えていただきたい。

《県の見解》
○航空機産業、医療・福祉関連機器産業の2分野の産業振興は、これまで公益財団
法人長野県テクノ財団に実施していただいております。
 テクノ財団の航空機産業支援事業として「NAGAN0航空宇宙プロジェクト」があり
ます。テクノ財団では、この事業により、県内企業が航空機産業に参入できるよう
に、研究開発支援を主体に受発注支援を含めたコーディネート等の事業や、航空宇
宙展への出展、航空機関連規格の認証取得支援、航空機関連セミナーを実施してい
ます。テクノ財団のこの実績・ノウハウを生かし、県内企業が航空機産業へ参入す
るための各種の支援を期待しています。

《県の見解に関する分析・評価》
○受発注支援事業については、「プロ」である中小企業振興センター(マーケティ
ング支援センター)の力を借りるべきという意見等に対して、中小企業振興センター
とテクノ財団との支援機能の差異や役割分担等に触れた、真正面からの見解の提示
を避けている。見解を提示できないのは、飯田下伊那地域を中心とする航空機産業
クラスター形成に関して、中小企業振興センターに、どのような役割を担う形で参
画してもらうべきかについての具体的議論をしたことが無いためであろう。

〇県が新規事業として考えている、航空機部品の製造受託に必要な規格・認証の取
得への支援は、基本的には、受託製造できるようにする支援、すなわち、受注支援
の一環として実施されるべきものである。航空機部品の発注企業から受注企業への、
規格・認証の取得に係る要望に、受注企業が円滑に応えられるように支援するもの
である。
 したがって、規格・認証取得支援を含め、受注の成功に必要な様々な支援メニュー
については、航空機部品の受発注の実態(例えば、どのような規格・認証が、どの
ような受発注分野で、どの程度必要とされているのか等に関する実態も含めて)を
良く承知している、中小企業振興センターのような専門的な受発注支援機関の主導
によって、体系的に企画・整備・実施化していくことが合理的となる。

〇他の意見等への対応と同様、中小企業振興センターが参画する受発注支援の在り
方についても、これから「長野県航空機産業推進会議」の場で、具体的に議論・検
討することになるのだろう。その場には、当然のことながら、中小企業振興センター
の受発注支援に係る専門的視点からの意見・意向等が、効果的に反映されるよう配
慮されることを期待したい。

【意見5:受発注支援事業は中小企業振興センターに任せるべきことA】
《パブリックコメントへの提出意見》
〇飯田下伊那地域の航空機産業クラスター形成への支援事業の中で、飯田下伊那地
域では受けきれない航空機部品関係の仕事を受注してくれる企業を県内他地域で見
つける、いわゆる受発注支援事業を、中小企業振興センターではなく、テクノ財団
に無理やり実施させようとするのはなぜか。

〇現在、テクノ財団の伊那地域センターに県補助で配置しているコーディネーター
は、受発注支援要員ではないと認識しているので、もし、新たに受発注支援要員を
1人配置するとすれば、仕事を発注する企業に近い、飯田下伊那地域に配置すべきと
考えるが、いかがか。

〇1人の受発注支援要員が、飯田下伊那地域の航空機部品企業の意向を確認しなが
ら、県内外に条件に合う企業を探索することになるという認識に間違いがあれば、
ご指摘いただきたい。あくまで飯田下伊那地域の航空機部品企業の意向に沿う支援
ができるようにすることを最優先すべきと考えるがいかがか。

《県の見解》
○航空機産業、医療・福祉関連機器産業の2分野の産業振興は、これまで公益財団法
人長野県テクノ財団に実施していただいております。
 テクノ財団の航空機産業支援事業として「NAGAN0航空宇宙プロジェクト」がありま
す。テクノ財団では、この事業により、県内企業が航空機産業に参入できるように、
研究開発支援を主体に受発注支援を含めたコーディネート等の事業や、航空宇宙展へ
の出展、航空機関連規格の認証取得支援、航空機関連セミナーを実施しています。
テクノ財団のこの実績・ノウハウを生かし、県内企業が航空機産業へ参入するための
各種の支援を期待しています。
 受発注支援要員に関しては、今後、「長野県航空機産業推進会議」において検討し
てまいりたいと考えております。

《県の見解に関する分析・評価》
○受発注支援要員を配置するのであれば、飯田下伊那地域での航空機産業クラスター
形成促進のために、飯田下伊那地域の受発注支援を担う機関に配置すべきという意見
等に対して、全く見解を提示できず、「長野県航空機産業推進会議」での検討に委ね
るとしている。受発注支援の専門機関である中小企業振興センターの意見等を反映で
きる形での、早期の会議の開催と戦略的な検討をお願いしたい。

【意見6:長野県テクノ財団に係る当初予算事業の全面的見直しの必要性】
 以下については、送信済みのニュースレター号外と重複するものであるが、本ニュー
スレターを、パブリックコメントへの提出意見等に関する全体的な「まとめ」として
位置づけていることから、改めて記載させていただく。

《パブリックコメントへの提出意見》
〇航空機産業振興に関する来年度の新規事業として、委託料や補助金によって、長野
県テクノ財団での実施を予定している全ての事業については、県からは事前に何の相
談もなく、公表前日に当財団に一方的に実施を要請してきたものである。
 長年にわたって築いてきた県と当財団との信頼関係を根底から崩す信義にもとる行
為であるとともに、事業の趣旨・内容的にも、当財団のマンパワー的にも、とても実
施できるものではないため、その旨を担当課長に伝え、十分な事前相談に基づく全面
的見直しを要請した。

〇見直してもらえる旨の回答をいただいていたが、今日まで何の説明もいただいてい
ない。したがって、止むを得ずパブリックコメントを通して、県の誠意ある回答と対
応を求めるものである。

〇このままでは、県会に対しても、当財団が実施しない事業をあたかも実施するかの
ような虚偽の説明をするような深刻な事態に発展しかねないことを危惧している。

《県の見解》
○いただいたご意見は、真摯に受け止め、これまで以上に情報交換をしてまいりたい
と考えています。

《県の見解に関する分析・評価》
○指摘について否定も反論もせず、真摯に受け止めるとした回答については、当然の
ことではあるが、県の良識の存在が確認できてほっとしている。
 今後、県がどのような誠意ある対応をするかが重要であるが、県幹部の方から、既
に正式に、事前相談・了承もなくテクノ財団を実施主体とする航空機産業振興事業を
勝手に予算化してしまったことについての「謝罪」と、当財団が当該事業を実施しな
いことを前提とした、今後の誠意ある対応をすることについての「約束」もいただい
ている。

○その誠意ある対応の具体的内容としては、当該事業については、さすがにここまで
来て取り下げるわけにはいかないので、今後は、テクノ財団が実施する事業という説
明は一切せず、中小企業振興センター、南信州・飯田産業センター、県工技センター等、
県内の主要な産業支援機関による具体的な議論の中で、どの機関が実施機関として最
適か、その最適機関がより効果的に事業を実施できるようにするためには、当該事業
にどのような改善を加えるべきか、などについて十分に検討しながら、いずれかの機
関で効果的に実施できるよう取組んでいく(その議論の場には、テクノ財団も参画す
る)ということで、県幹部の方と合意したのである。

○今回、「県は、その強い立場を利用して、我々一般県民(法人も含めて)に対して、
何か圧力をかけたり、強制したりしてはならない。」、あるいは「2者間で物事を決
める際には、事前の相談や了承が不可欠である。」というような、極めて常識的で基
本的な認識が、県サイドにおいて欠如するという、通常ではあり得ないことが起こっ
てしまったことに、非常に戸惑い、どう対応すべきか悩まされた。そして、その通常
ではあり得ない事態の解決に、非常に多くのエネルギーを費やさなければならなかっ
たことに、一応の決着をみたとはいえ、大きな虚しさも感じている。
 今後二度とこのような虚しい事態が起こらないよう、県サイドには、なぜこのよう
なことになってしまったのかについて、良く検証していただくことを期待したい。

【むすびに】
〇今回の県の見解を見て気になったことは、県は、航空機産業クラスター形成につい
ては、飯田下伊那地域を中心とした形成ではなく、あえて県下全域での形成を強調し
ていることである。県内のどのような地理的範囲でのクラスター形成の実現を目指す
にしろ、その中核的シナリオは、既に多額の資金を投入している飯田下伊那地域での
クラスター形成の成功であることに間違いはないはずである。

〇飯田下伊那地域でのクラスター形成活動が、成功に結び付くシナリオ・プログラム
で推進されることが極めて重要であることについて、特に、テクノ財団のように、県
の航空機産業振興ビジョンの策定に参画させてもらえなかった、県内の多くの主要産
業支援機関の間で、改めて確認し合っておくことの必要性を強く認識させられた。
 そして、その成功に結び付くシナリオ・プログラムとは、県内外はもとより海外か
らも、飯田下伊那地域に多くの航空機産業関係者を呼込むことができるものでなけれ
ばならないことについても、関係者の間で確認しておくことが重要だろう。

〇また、もう一つ非常に不安になることは、県内全域にしろ、飯田下伊那地域にしろ、
航空機産業クラスターの形成を推進する中核的推進機関が未だ明確に設置(指定)さ
れていないことが明らかになったことである。
 県の見解では、「長野県航空機産業推進会議」を総合的な運営組織としているが、
その会議に関する県の資料には、その会議の所掌事項として、@人材育成機関、研究
機関等の参画のための連絡調整、A拠点整備における他地域への効果波及のための総
合調整、Bその他、航空機産業の推進のための必要な事項 が規定されているだけで、
拠点の形成・運営組織(実働組織)としての位置づけはされていない。この問題点に
ついても、関係者間での早期の確認・認識共有が必要となっている。
 県内全域でのクラスター形成のための中核的推進機関と、飯田下伊那地域でのクラ
スター形成のための中核的推進機関とは、当然異なることになることについても、関
係者間で確認しておくことが必要となろう。


ニュースレター号外3(2017年2月8日送信)

 航空機産業振興事業に関する長野県と長野県テクノ財団の間での「ゴタゴタ」が
 一応の決着をみたことについて(報告)

【「ゴタゴタ」の一応の決着】
〇平成29年1月29日送信のニュースレター号外で、長野県の当初予算案に関するパ
ブリックコメントに、以下の意見(この他に5つの意見も)を提出していることを
お知らせしていましたが、本日の当初予算案についての知事会見の場での配布資料
(資料1-5)で、その意見に対する県の見解が公表されました。(詳細は県のホーム
ページで公表)
 知事は、約45分間の当初予算案の説明の中で、パブリックコメントの結果には全
く触れませんでしたし、報道関係者からも質問は出ませんでした。航空機産業振興
事業に関する質問さえも出なかったことには、少々がっかりしました。

 [パブリックコメントへの提出意見]
 航空機産業振興に関する来年度の新規事業として、委託料や補助金によって、長
野県テクノ財団での実施を予定している全ての事業については、県からは事前に何
の相談もなく、公表前日に当財団に一方的に実施を要請してきたものである。長年
にわたって築いてきた県と当財団との信頼関係を根底から崩す信義にもとる行為で
あるとともに、事業の趣旨・内容的にも、当財団のマンパワー的にも、とても実施
できるものではないため、その旨を担当課長に伝え、十分な事前相談に基づく全面
的見直しを要請した。見直してもらえる旨の回答をいただいていたが、今日まで何
の説明もいただいていない。したがって、止むを得ずパブリックコメントを通して、
県の誠意ある回答と対応を求めるものである。このままでは、県会に対しても、当
財団が実施しない事業をあたかも実施するかのような虚偽の説明をするような深刻
な事態に発展しかねないことを危惧している。

○この提出意見に対する県の見解は、「ご意見は、真摯に受け止め、これまで以上
に情報交換をしてまいりたいと考えています。」という、簡単な一文ですが、私の
指摘について否定も反論もせず、真摯に受け止めるとしたことについては、当然の
ことではありますが、県の良識が一応は確認でき、ほっとしています。
 今後、県が、どのような誠意のある対応をするかが非常に重要となりますが、県
幹部の方からは、既に正式に、事前相談・了承もなくテクノ財団を実施主体とする
航空機産業振興事業を勝手に予算化してしまったことについての「謝罪」を受け、
当財団が当該事業を実施しないことを前提とした、誠意ある対応をすることについ
ての「約束」もいただいております。

○その誠意ある対応の具体的内容としては、当該事業については、さすがにここま
で来て取り下げるわけにはいかないので、今後、県は、テクノ財団が実施する事業
という説明は一切せず、中小企業振興センター、南信州・飯田産業センター、県工
技センター等、県内の主要な産業支援機関による具体的な議論の中で、どの機関が
実施機関として最適か、その最適機関がより効果的に事業を実施できるようにする
ためには、当該事業にどのような改善を加えるべきか、などについて十分に検討し
ながら、いずれかの機関で効果的に実施できるように取組んでいく(その議論の場
には、テクノ財団も参画する)ということで、県幹部の方と合意しました。

○今回、「県は、その強い立場を利用して、我々一般県民(法人も含めて)に対し
て、圧力をかけたり、強制したりしてはならない。」、あるいは「2者間で物事を
決める際には、事前の相談や了承が不可欠である。」というような、極めて常識的
で基本的な認識が、県サイドにおいて欠如するという、通常ではあり得ないことが
起こってしまったことに、非常に戸惑い、どう対応すべきか悩まされました。そし
て、その通常ではあり得ない事態の解決に、非常に多くのエネルギーを費やさなけ
ればならなかったことに、一応の決着をみたとはいえ、大きな虚しさも感じている
状況です。
 今後二度とこのような虚しい事態が起こらないよう、県サイドには、なぜこのよ
うなことになってしまったのかについて、良く検証していただくことを期待したい
と思います。

【他の5つの意見に係る県の見解の問題点】
〇他の5つの提出意見に係る県の見解については、相変わらず、問われていること
に真正面から答えず、はぐらかすというような所が多々見られて、非常に残念に思っ
ています。私の意見のほとんどについては、今後、「長野県航空機産業推進会議」
において議論・検討していくとの回答でした。

〇県が、私の簡単な各論的質問にさえ即答できない背景には、未だに、航空機産業
振興(クラスター形成)に関するビジョン・シナリオ・プログラムについての、関
係者間での具体的な議論や詰めが十分にはなされておらず、細部にわたる統一的見
解が形成されていないことを物語っているとも言えます。

〇今回の県の見解を見て、まず気になったことは、以下の2点です。
 第1は、県は、航空機産業クラスター形成については、飯田下伊那地域を中心と
した形成ではなく、あえて県下全域での形成を強調していることです。どのような
地理的範囲でのクラスター形成の実現を目指すにしろ、その中核的シナリオは、既
に多額の資金が投入されている飯田下伊那地域でのクラスター形成の成功のはずで
す。飯田下伊那地域でのクラスター形成活動が、成功に結び付くシナリオ・プログ
ラムで推進されることが極めて重要であることについて、関係者間で改めて確認し
合っておくことの必要性を強く認識させられました。

 第2は、県の見解からは、県全体にしろ、飯田下伊那地域にしろ、航空機産業ク
ラスター形成活動の全体を統括(必要事業の全体的な企画・調整・運営・進捗管理等)
する、中核的推進機関の設置(指定)の重要性への認識が非常に低いことが分かっ
てしまったことです。クラスター形成においては、その中核的推進機関の存在が不
可欠なことは、世界中のクラスター形成に参画している人々の間では常識であるに
も係らず、県が、自ら、航空機産業振興事業の「調整組織」として設置した「長野
県航空機産業推進会議」を、クラスター形成に係る総合的「運営組織」であると繰
り返し説明していることなどの混乱ぶりから、航空機産業クラスター形成の先行き
に大きな不安を感じています。

〇以上のことを含め、私の提出した意見に係る県の見解における問題点等について
は、次回のニュースレターで整理しておこうと考えています。
 今後とも、ご指導等よろしくお願い申し上げます。


ニュースレター号外2(2017年1月29日送信)

〇私が、長野県の来年度の当初予算に関するパブリックコメントにおいて、航空
機産業振興(航空機産業クラスター形成)に係る事業に関して、6件の意見を提
出していることは、前回のニュースレター号外でお伝えしているところです。

〇県からの情報によると、パブリックコメントに提出された意見は全部で8件と
いうことです。過去のニュースレターでも何回も述べましたが、県の回答には、
誠意や論理性が欠けている場合が多く、非常に空しい思いを多くしてきました。
 しかし、今回は、件数も少なく、しかも、航空機産業振興(航空機産業クラス
ター形成)に特化したパブリックコメントと言っても良い状況なので、優秀な県
職員の英知を結集した、今後の県の航空機産業振興(航空機産業クラスター形成)
の促進に資する回答が、誠意を持ってなされることを期待しています。

〇皆様方にも、是非、2月上旬には公表されると思われる、パブリックコメント
への県の回答に注目していただき、長野県における航空機産業振興(航空機産業
クラスター形成)へのシナリオ・プログラムが、更に高度化するよう、引き続き
ご支援等をお願い申し上げます。

〇パブリックコメントに提出した意見の中で、県の回答内容から、その見識や
誠実性が最も明らかとなるのが、以下の意見です。どのような回答がなされるか、
非常に注目しています。

   「航空機産業振興に関する来年度の新規事業として、委託料や補助金によって、
長野県テクノ財団での実施を予定している全ての事業については、県からは事前
に何の相談もなく、公表前日に当財団に一方的に実施を要請してきたものである。
 長年にわたって築いてきた県と当財団との信頼関係を根底から崩す信義にもと
る行為であるとともに、事業の趣旨・内容的にも、当財団のマンパワー的にも、
とても実施できるものではないため、その旨を担当課長に伝え、十分な事前相談
に基づく全面的見直しを要請した。見直してもらえる旨の回答をいただいていた
が、今日まで何の説明もいただいていない。したがって、止むを得ずパブリック
コメントを通して、県の誠意ある回答と対応を求めるものである。
 このままでは、県会に対しても、当財団が実施しない事業をあたかも実施する
かのような虚偽の説明をするような深刻な事態に発展しかねないことを危惧して
いる。」

〇この意見にある通り、県がテクノ財団との事前協議等を一切無視したまま、当
初予算で、航空機産業振興に係る複数の事業を実施させようとしている状況に、
現在まで何の変化もありません。
 「財政課等との打合せで、日々刻々状況に変化があるので、いちいちテクノ財
団と打合せする暇などない。ただし、我々が企画している事業は、テクノ財団が
従来から実施してきている事業の分野に入るので、実施できないはずがない。」
というような支離滅裂な論調で責めてくるので、非常に困っている状況です。

〇長野県が、県と一般人(法人を含む)との関係が、平等なものであって、県が、
その強い立場を利用して、一般人に圧力を欠けるようなことをしてはならないと
いう、一般常識を本当に認識しているのかが、今回問われていることに気づいて
くれることを期待しています。

〇具体的には、県(担当部署)は、現在のところ、以下の基本的事項に気づいて
いません。いくら説明しても、理解していただけないことに、非常に悩んでいま
す。その悩みが、知事も承知した上でのパブリックコメントの提出意見への県の
回答によって解決されることを期待しています。

@テクノ財団と県とは対等な関係にあり、テクノ財団は、県が何かを実施させよ
うとしても、それを嫌だと言って拒否する基本的な権利(自由、自立性等)を有
していること。

A当初予算で、県がテクノ財団に実施させようとしている事業は、事前の協議や
当財団の了承を経ていない、いわば、手続上に非常に重大な瑕疵があるものであ
る。そのような瑕疵のあるもの(製品に例えれば、信頼性が非常に低い欠陥品)
の受入れが拒否されることは、一般常識であること。

B欠陥品を無理に買わせようとする行為は、いわば、「押し売り」に等しく、
「押し売り」を拒否するのは、テクノ財団として当然のことであること。

C県は、その「押し売り」を拒否することを、私個人の判断でなく、組織として
その適否を判断すべきと主張するが、「押し売り」を拒否することは、財団の
一職員が対処すべきことであって、理事長や理事会等に諮るレベルのことではな
いこと。

〇県(担当部署)は、私に対して、このパブリックコメントへの意見を自主的に
取り下げてもらいたい旨を伝えてきているが、当然拒否している状況です。
 今回のパブリックコメントへの意見についての県の回答については、前述のよ
うな様々な視点から注目されるものです。

 皆様方には、筋の通らない県(担当部署)に対して、孤軍奮闘している私への
ご支援・ご協力等よろしくお願い申し上げます。


ニュースレター号外1(2017年1月14日送信)

〇飯田下伊那地域を拠点とする航空機産業クラスター形成に関する、長野県の
取組みの問題点ついては、「長野県航空機産業振興ビジョン」に内在する論理
的脆弱性として、ニュースレターNo.84、No.94、No.95、No.97、No.98 等で
指摘してきた。

〇長野県の来年度の当初予算における飯田下伊那地域の航空機産業クラスター
形成への支援事業として、産業労働部が長野県テクノ財団に委託料や補助金に
よって、実施してほしいと要請している新規事業については、そもそも当財団
が実施すべき事業であるのか、というような根本的な課題を含め、産業労働部
との調整がつかず、非常に苦労しているのが現状である。

〇航空機産業クラスター形成手法に関する一番の見解の相違は、私は、飯田
下伊那地域における航空機産業クラスターの形成を加速・実現するためには、
飯田下伊那地域に、同クラスター形成実現に必要な様々な事業(研究開発支援、
技術高度化支援、受発注支援、人材育成支援等)を総合的にを企画・実施化、
進捗管理できる、中核的推進機関が存在することが不可欠と考えているが、県
はそういう認識を持っていないということである。
 県は、自らが直接的にクラスター形成を主導する「主役」であり続けること
を熱望しているようなのである。

〇航空機産業クラスター形成という「地域振興事業」の基本的な進め方として
は、具体的には、同クラスター形成の中核的推進機関としての役割を果たして
きている、従来からの飯田下伊那地域の中核的な産業支援機関である南信州・
飯田産業センターに対して、県は、同クラスター形成を主導できる中核的推進
機関に相応しい、航空機産業支援機能を整備できるよう、人的・資金的に支援
すべきなのである。
 県は、中核的推進機関の機能整備を支援することを通して、同クラスター形
成の実現に貢献すべき立場にあると考えるが、県は、そのような認識には至っ
ていないようである。同クラスター形成の「主役」としての地位を確保・維持
することに執着しているように見える。

〇県がこのような認識を持てないでいることが、飯田下伊那地域での航空機産
業クラスターの形成に、「危うさ」を与えていることにつながっていることを、
ニュースレターで指摘してきたのである。

〇私が、会議等の場で、産業労働部の航空機産業クラスター形成への取組みの
問題点等を遠慮なく指摘することによるせいか、 産業労働部は、航空機産業
振興事業に関して、私(当財団)と議論することを避けているようなので、仕
方なく、当初予算に関するパブリックコメントで、県の認識を問いただすこと
にした次第である。

〇以下に、私のパブリックコメントへの提出意見の原文をそのまま提示するの
で、県が、公式にどのような回答をするのか、注視していただき、私の考え方
等について厳しいご批評等をいただければ幸いである。

 なお、パブリックコメントへの提出意見の作成は、締切期限の1月13日
24時ぎりぎりになってしまったため、整理されていない文章のままになって
しまっていることをお詫びします。

【意見1】
 航空機産業分野に新たに参入しようとする県内企業にとっては、航空機メー
カーの生産計画の下に、当該メーカーから一次下請、二次下請等へと重層的に
発注される部品の製造に係る情報を的確に収集し、その部品製造に携われるよ
うにすることが「ビジネス戦略」になる。

 したがって、受発注支援の専門機関が、国内外の航空機部品製造企業の外注
動向を把握し、県内企業の受注に結び付けるマッチング支援活動を積極的に展
開することが、新規参入を目指す県内企業への非常に重要な支援施策となる。

 このようなグローバルな規模で受発注支援活動ができる「航空機部品マーケ
ティング支援センター」を当初予算で速やかに設置すべきと考えるがいかがか。

 現在、南信州・飯田産業センターでは、航空機部品に係る受発注支援活動の
予算が不足し困っている。国庫補助金等外部資金の活用等の工夫はしているが、
十分ではない。南信州・飯田産業センターに、グローバルな規模で受発注支援
活動のできる「航空機部品マーケティング支援センター」を設置することが、
航空機産業クラスター形成の加速化をもたらすと考えるがいかがか。

 県として、当初予算でそれを支援すべきと考えるがいかがか。

【意見2】
 飯田下伊那地域を中心とする航空機産業クラスター形成の加速化の視点から
お尋ねしたい。

 同地域の航空機産業クラスター形成の加速化のためには、同地域に、クラス
ター形成に必要な事業を関係機関との連携の下に、効果的に企画・実施化、進
捗管理していく機能を有する中核的推進機関が存在することが不可欠と考える
がいかがか。

 もしそうだとしたら、県としては、どの産業支援機関を中核的推進機関とし
たいのか。私は、南信州・飯田産業センターと考えるがいかがか。

 飯田下伊那地域の中核的推進機関のクラスター形成推進機能(研究開発支援
から受発注支援や人材育成支援まで含めて、必要な事業を総合的に企画・実施
化、進捗管理できる機能)を強化するするための、県の支援事業が当初予算の
中に見当たらないが、あれば、教えていただきたい。

 飯田下伊那地域のクラスター形成への主体性、自立性(クラスター形成推進
主体としての意識も)を高めることも、極めて重要と考えるが、いかがか。

 もし、そうだとすれば、主体性、自立性を育むためにも、本来、飯田下伊那
地域の中核的推進機関が実施すべき事業、例えば、航空機システム拠点形成産
学官スタートアップフォーラム開催事業を、無理やりテクノ財団にやらせよう
とするのはなぜか。論理的に説明願いたい。

【意見3】
 航空機産業振興に関する当初予算を見ると、飯田下伊那地域を中心とする航
空機産業クラスター形成の加速化のためには、受発注の面からの支援を強化す
ることが不可欠であるが、中小企業振興センターの飯田下伊那地域における受
発注支援機能を強化するような新規事業はないようだが、それに間違いないか。

 もし、無いとすれば、なぜ中小企業振興センターの飯田下伊那地域での受発
注支援機能の強化を当初予算に盛り込まなかったのか説明願いたい。

 航空機産業クラスターの形成を加速するためには、受発注支援機能を強化す
ることが必要で、そのために、新たに航空機部品マーケティング支援センター
を、できれば南信州・飯田産業センター等の飯田地域の産業支援機関に設置す
るくらいの事業を当初予算で考えるべきと思うがいかがか。

 あるいは、中小企業振興センターが、その現地機関として、飯田に航空機部
品マーケティング支援センターを設置し、クラスター形成を加速化するという
ような事業も当初予算に盛り込むべきと考えるがいかがか。

【意見4】
 平成29年度当初予算で、県が、長野県テクノ財団に一方的に実施させたい
と考えている航空機産業振興に係る事業の中には、県内企業の航空機部品関係
の受発注支援に係る事業が多く含まれている。県内企業の受発注支援は、中小
企業振興センターの主要事業と考えるが、いかがか。

   もしそうであれば、なぜ受発注支援の経験が乏しく、マーケティング支援体
制も整っていないテクノ財団に実施させようとするのか。なぜ、マーケティン
グ支援センターに実施させようとしないのか。その根拠を論理的に教えていた
だきたい。

【意見5】
 飯田下伊那地域の航空機産業クラスター形成への支援事業の中で、飯田下伊
那地域では受けきれない航空機部品関係の仕事を受注してくれる企業を県内他
地域で見つける、いわゆる受発注支援事業を、中小企業振興センターではなく、
テクノ財団に無理やり実施させようとするのはなぜか。

 現在、テクノ財団の伊那地域センターに県補助で配置しているコーディネー
ターは、受発注支援要員ではないと認識しているので、もし、新たに受発注支
援要員を1人配置するとすれば、仕事を発注する企業に近い、飯田下伊那地域
に配置すべきと考えるが、いかがか。

 1人の受発注支援要員が、飯田下伊那地域の航空機部品企業の意向を確認し
ながら、県内外に条件に合う企業を探索することになるという認識に間違いが
あれば、ご指摘いただきたい。あくまで飯田下伊那地域の航空機部品企業の意
向に沿う支援ができるようにすることを最優先すべきと考えるがいかがか。

【意見6】
 航空機産業振興に関する来年度の新規事業として、委託料や補助金によって、
長野県テクノ財団での実施を予定している全ての事業については、県からは事
前に何の相談もなく、公表前日に当財団に一方的に実施を要請してきたもので
ある。
 長年にわたって築いてきた県と当財団との信頼関係を根底から崩す信義にも
とる行為であるとともに、事業の趣旨・内容的にも、当財団のマンパワー的に
も、とても実施できるものではないため、その旨を担当課長に伝え、十分な事
前相談に基づく全面的見直しを要請した。見直してもらえる旨の回答をいただ
いていたが、今日まで何の説明もいただいていない。したがって、止むを得ず
パブリックコメントを通して、県の誠意ある回答と対応を求めるものである。
 このままでは、県会に対しても、当財団が実施しない事業をあたかも実施す
るかのような虚偽の説明をするような深刻な事態に発展しかねないことを危惧
している。


ニュースレターNo.99(2017年1月12日送信)

長野県の食品工業振興戦略の在り方(No.2)
〜振興戦略の具現化のための中核的推進機関(事務局)の不可欠性〜

【はじめに】
○長野県においては、未だかつて食品工業振興戦略が策定されたことがないという
事実やその背景等については、ニュースレターNo.38(平成26年8月10日送信「長野
県の食品工業振興戦略の在り方〜未だに戦略策定できないことへの関係者としての
反省の意を込めて〜」)でも述べさせていただいた。

○長野県において現在策定作業中の、平成30年度からの次期ものづくり産業振興戦
略においては、飯田下伊那地域の航空機産業クラスター形成戦略を先進事例として、
地域毎に、様々な産業分野の地域クラスター形成戦略が、重点プロジェクトとして
位置づけられることになっている。当然、食品工業分野の地域クラスター形成戦略
についても、どのような戦略を重点プロジェクトとして位置づけるべきかについて、
活発な議論がなされることになるだろう。

○その議論の際に、ビジョン→シナリオ→プログラムというような論理的な道筋で
の議論がなされることに資するよう、長野県の食品工業にとって最適な、産学官連
携による食品工業クラスター形成戦略の体系・構成の在り方等について、ここで前
もって、業種共通的で総論的な議論をしておくことは、次期ものづくり産業振興戦
略の策定作業に大いに資するものと考えた次第である。

【長野県の食品工業のビジョン(目指す姿)】
○長野県が、食品工業に関して政策的に実現を目指すべき姿(ビジョン)について
は、業種共通的で総論的な議論を前提とする場合には、「国際的に市場競争力を有
する食品工業クラスターの形成」とすることが適当であろう。

○しかし、業種共通的であっても、もっと具体的に食品工業の振興に取組むための
ビジョンを提示することも可能となる。すなわち、業種や技術の分野を特定しない
で、創出を目指す新規食品像(機能性等の特長等を明確化)を提示し、その具現化
に向けて業種・技術横断的な取組みをするという手法が考えられるのである。
 例えば、「動脈硬化予防に資する新規機能性食品を創出・供給する食品工業クラ
スターの形成」をビジョンとし、その具現化へのシナリオやプログラムについては、
様々な業種や技術が合目的的に融合化する「仕掛け」を組込むことなどが考えられ
るのである。

○なお、ここでは直ちに目指すべき新規食品像を提示することは困難なので、「国
際的に市場競争力を有する食品工業クラスターの形成」という一般的なビジョンを
設定し、以下でそのビジョンを実現するためのシナリオ・プログラムについて議論
を展開することにしたい。

【ビジョン実現へのシナリオ(道筋)】
○「国際的に市場競争力を有する食品工業クラスターの形成」(ビジョン)の実現
へのシナリオ(道筋)としては、ニュースレターNo.38で提示した通り、一般的には
以下の3点に大きく区分・整理することができるだろう。

@食品の安心・安全への消費者の不安の解消
 食品の安全性への信頼を裏切る事件・事故の多発に由来する、消費者の不安を解
消できる、高度な生産管理技術の開発・実用化によって、内外からの長野県食品に対
する、安全性に係る非常に厳しい要求にも十分に応えられるようにする。

A食品の高付加価値化・差別化
 原材料となる農林水産物の健康増進への効果に関する新たなエビデンス(科学的
根拠)を明らかにし、その効果を増強できる安心・安全な新技術を開発し、高付加
価値化・差別化された新食品を創出する。

B食品残渣等の減量化・有効活用
 農林水産物の選別残渣や加工残渣を減量化するとともに、未利用資源として有効
活用できる新技術を開発し、新たな高付加価値食品の創出と整合させ、食品資源を
超高度に活用できる食品工業クラスターとしての国際的優位性を確保する。

○以上のようなシナリオの的確な推進に必要なプログラム(各種施策)の骨格・体
系についても、ニュースレターNo.38の提示事項を参考にして、その概要を以下に整
理する。

【シナリオ@の的確な推進に必要なプログラム(各種施策)の骨格・体系】
○食品工業における「食品の安心・安全への消費者の不安の解消」の具現化のため
のプログラムについては、有害物質等(有害化学物質、病原性微生物、アレルゲン等)
が全く混入しない生産システムへの改善が重要課題となるだろう。

○その重要課題の解決のためのプログラムとしては、以下のようなプロジェクトの
各工程の推進に資する各種施策を提示すべきことになるだろう。

 生産管理面での安心・安全確保の高度化のための産学官研究開発プロジェクト

a.地域の食品企業の安心・安全面での課題の探索・抽出(食品衛生行政の担当者も
含めたグループによる現場調査を実施し、関係法令遵守の技術的困難性も対象課題
とする。)
  ↓
b.抽出された課題の中から、解決による地域への経済的波及効果の大きな課題を特定
※食品製造企業と食品関連機器製造企業の両方に大きな経済的メリットをもたらす
課題を優先的に選択・特定
  ↓
c.特定課題を解決する方策としての、有害物質等に係る新規性・優位性を有する分析・
検出技術、混入防止技術、分離・捕捉技術等の要素技術の研究開発計画を策定・実施化
  ↓
d.開発された要素技術を組込んだ、有害物質等が完全に混入しない生産システムの研究
開発計画を策定・実施化
  ↓
e.創出された安心・安全な食品生産システムの実用化・食品企業への導入
※開発された要素技術単独でも、特殊用途の装置化等の実用化ができる場合には、どん
どんビジネス化

    【シナリオAの的確な推進に必要なプログラム(各種施策)の骨格・体系】
○食品工業における「食品の高付加価値化・差別化」の具現化のためのプログラムに
ついては、食品の機能性を高めること、あるいは、健康の障害となる成分を完全に除去
することが重要課題となるだろう。

○その重要課題の解決のためのプログラムとしては、以下のようなプロジェクトの各
工程の推進に資する各種施策を提示すべきことになるだろう。

 健康増進に資する新規機能性食品の創出のための産学官研究開発プロジェクト

a.解決すべき健康増進上の課題を特定し、その課題の解決のために、より多く摂取す
べき食品機能性成分、必要な摂取量等を明確化
  ↓
b.当該機能性成分の必要量を通常の食事等で摂取可能となる新規食品をデザイン(新規
食品の成分構成、効果的な摂取方法等を含む仕様の提示)
  ↓
c.デザインされた新規食品の創出のための研究開発計画の策定・実施化
  ↓
d.創出された新規食品の効能の検証
  ↓
e.販売に必要な許認可等の取得と市場開拓

【シナリオBの的確な推進に必要なプログラム(各種施策)の骨格・体系】
○食品工業における「食品残渣等の減量化・有効活用」の具現化のためのプログラム
については、現在、環境面や処理コスト面等から、早期の新規処理技術の創出が求め
られている食品残渣等を抽出・特定し、その有効利用技術や減量化技術、廃棄物とし
ての処理コスト低減化技術を創出することが重要課題となるだろう。

○その重要課題の解決のためのプログラムとしては、以下のようなプロジェクトの各
工程の推進に資する各種施策を提示すべきことになるだろう。

 食品残渣等の高付加価値型の新規有効活用のための産学官研究開発プロジェクト

a. 環境面、処理コスト面等から、早期の新規処理技術の創出が求められている食品
残渣等を抽出・特定
※食品製造企業と食品関連機器製造企業の両方に大きな経済的メリットをもたらす
食品残渣等を優先的に選択・特定
  ↓
b.当該食品残渣等を用いて製造する新製品をデザイン
※当該新製品の高付加価値化の基となる新規性・機能性・効能等の明確化に留意
  ↓
c.当該新製品の具現化のための研究開発計画の策定・実施化
  ↓
d.創出された新製品の効能の検証
  ↓
e.販売に必要な許認可等の取得と市場開拓

【振興戦略の具現化のための中核的推進機関(事務局)の不可欠性】
○長野県の食品工業については、使用する原材料や加工技術が様々に異なる多種多様
な中小企業(業種)で構成されている。したがって、長野県が主体となって食品工業
振興戦略を策定する場合には、その戦略に基づく活動に、様々な業種のより多くの食
品企業の参画を得られ易くするために、以下の2つの策定手法が考えられる。

@業種分野毎に、当該業種の発展のために実現を目指すべきビジョンを掲げ、その
実現へのシナリオ・プログラムを提示する。

A業種分野を特定せず、業種分野を超えて(異業種が連携して)創出を目指すべき食
品像をビジョンとして掲げ、その実現へのシナリオ・プログラムを提示する。

〇いずれにしても、食品工業振興戦略に掲げられたビジョンを実現できるか否かは、
その振興戦略の中核的推進機関(事務局)が、ビジョン実現へのシナリオの推進に必
要な様々なプログラムを的確かつ効果的に企画・実施化できる機能を有しているか否か
にかかっているのである。
 なお、食品工業クラスター形成の場合には、当然、その中核的推進機関は、そのクラ
スター地域の中に存在しなければならない。地域の関係者が、例えば、仕事が終わった
夜に集まり、クラスター形成について深夜まで議論できるような場所にある中核的推進
機関でなければならないということである。必要な機能を有する中核的推進機関が、そ
のクラスター地域内に存在しなければ、そのクラスター形成戦略は、具現化の可能性が
極めて低い「机上の空論」になってしまうのである。

○@の業種分野毎の個別具体的なビジョン・シナリオ・プログラムを食品工業振興戦略
とする場合には、その振興戦略の中核的推進機関の指定については、当該業種の振興を
設立目的とする業界団体(組合等)にするなど、関係者の間で比較的コンセンサスが得
やすいだろう。しかし、各業種の振興に係る業界団体が全て、中核的推進機関に相応し
い機能を有しているわけではないこと、クラスター形成の場合には、その業界団体が当
該クラスターの地域内に存在していることが必要なこと、などへの対応等、調整すべき
課題は残ることになる。

○Aの業種を超えた活動を主体とする振興戦略の場合には、ステークホルダーである様々
な産学官の関係機関の中から、中核的推進機関を指定することは容易なことではないだ
ろう。
 振興戦略の策定・実施化に参画する産学官の関係機関の間での十分な議論を経て、ミッ
ション・人的体制等から最適な産業支援機関が中核的推進機関となるよう、長野県が調整
する必要があるだろう。

○食品工業振興戦略の中核的推進機関の不可欠性は明らかであることから、長野県とし
ては、その中核的推進機関の指定に合わせて、その指定機関が有すべき機能の拡充強化
のための支援施策も整備すべきことになるのである。

【むすびに】
○次期ものづくり産業振興戦略の策定作業においては、以上のことを十分に認識した上
で、食品工業以外の産業分野の地域クラスターも含めて、それぞれ必要な機能を有する
最適な中核的推進機関が明確に指定された、優位性ある地域クラスター形成戦略が、重
点プロジェクトとして位置づけられることを期待したい。

○長野県が先進事例として誇る、飯田下伊那地域での航空機産業クラスター形成への取
組みにおいても、当該クラスター形成の中核的推進機関として位置づけられるベき南信
州・飯田産業センターのクラスター形成推進機能の拡充強化が、非常に大きな政策課題
として残されていることを指摘しておきたい。