○送信したニュースレター2026年(No.236 〜  )

ニュースレターNo.237(2026年2月19日送信)

県内中小企業の新技術・新製品の開発・事業化による収益性向上への政策的支援の在り方
〜新技術・新製品の開発・事業化の取組みを3パターンに分類・整理して〜

【はじめに】
○県内各地域に集積する中小企業(ここでは主に製造業分野の中小企業を対象
とする。)は、その生産活動を通して、地域社会の経済的・社会的な持続・
発展に貢献するという、非常に重要な役割を果たして来ている。

○そして、その中小企業の多くは、急激な少子高齢化・人口減少、原材料・
エネルギーコストの上昇、DX・GXへの対応など、避けて通れない様々な経営
課題に直面するという、非常に厳しい経営環境の中にあっても、経営を持続・
発展させ、雇用機会の提供を含め、地域社会の存続に貢献できるように、新
技術・新製品の開発・事業化による収益性の向上に積極的に取り組んで来て
いる。

○中小企業の新技術・新製品の開発・事業化への取組みについては、多くの
取組み事例を参考にして、以下のような3つのパターンに大きく分類・整理
することができるだろう。
[パターンT]:既存の技術・製品を新規の顧客に買ってもらう。
      (既存技術・製品)×(新規顧客)
[パターンU]:新規に技術・製品を開発し既存の顧客に買ってもらう。
      (新規技術・製品)×(既存顧客)
[パターンV]:新規に技術・製品を開発し新規の顧客に買ってもらう。
      (新規技術・製品)×(新規顧客)

○以下で、それぞれのパターンの取組みが、実際に収益性の向上を実現できる
ようにするためには、どのような政策的支援が必要かについて検討・整理して
みたい。

【[パターンT] (既存技術・製品)×(新規顧客)への政策的支援の在り方】
○このパターンTの事例としては、例えば、自社が従来から事業化してきてい
る、他社に対して優位性を有する精密加工技術や精密部品を、従来とは異なる
業種における製品の機能改善や新製品開発に活用してもらえるようにすること
などを挙げることができるだろう。

○したがって、このパターンTへの政策的支援の在り方としては、優位性の
ある技術・部品を有する中小企業が、その技術・部品の新規ユーザーになり
うる企業に出会える「場」の提供を優先すべきと言えるだろう。

○その「場」については、新規ユーザーになりうる不特定多数の企業の中から、
当該技術・部品の活用方法を見出す企業が現れることを期待する、いわば受動
的なアピールの「場」と、当該技術・部品を有する中小企業が、新規ユーザー
になりうる特定の企業に対して、自らその活用方法を具体的に提案する、いわ
ば能動的なアピールの「場」との両方を組み合わせて、戦略的に設置・運営し
ていくことが効果的と考えられる。

【[パターンU] (新規技術・製品)×(既存顧客)への政策的支援の在り方】
○このパターンUの事例としては、例えば、既存の顧客から、顧客が製造する
製品の機能改善や、全く新規の製品開発に必要な重要部品の開発・供給を依頼
される場合などを挙げることができるだろう。

○このような場合には、開発・供給する重要部品の仕様は明確である場合が多
く、開発課題の解決への既存顧客からの技術的協力も期待できる。また、仕様
通り開発できれば、既存顧客が買い上げてくれることがほぼ確実なため、政策
的支援の在り方とすれば、当該重要部品の開発に係る技術的課題の解決に必要
となる技術や資金の確保への補完的な支援を優先すべきと言えるだろう。

【[パターンV] (新規技術・製品)×(新規顧客)への政策的支援の在り方】
○このパターンVの事例としては、例えば、収益性の向上のために、優位性の
ある自社の技術的蓄積を活用して、従来の事業分野とは全く異なる分野への進
出を目指して、新規製品の開発・事業化に取り組む場合などを挙げることがで
きるだろう。

○このパターンVの新規技術・製品の開発と新規顧客への供給(事業化)の組
合せによる収益確保への道筋には、パターンTとUに比して不確定要素が格段
に多いことから、実効性のある事業計画の策定に係る困難性も格段に高くなる
と言えるだろう。

○その困難性を克服し、実効性のある事業計画を論理的に策定するためには、
その事業の成否を決することに繋がる重要事項について、できるだけ具体的に
事業計画の中に組み込むことが必要になる。その重要事項については、以下の
ような5点に整理することができるだろう。
 なお、これらの重要事項については、パターンTとUにおける事業計画の策
定においても、その実効性を高めるために考慮すべき基本的事項と言える。

@進出を目指す事業分野については、今後の成長が見込めることが事前調査等
で具体的に確認できていること。
A開発・事業化を目指す新規製品の仕様など「製品像」を具体化できている
こと。
B新規製品の開発・事業化のために解決すべき技術的課題が明確化され、その
解決方策には合理性があり、かつ特許性等の革新性が見込めること。
C新規製品の顧客確保をかなりの確度で実現できる、具体的な新規顧客確保
戦略を策定し、それを着実に推進できる体制も整備できていること。
D新規製品の開発・事業化や顧客確保のために必要な経営資源の不足分を十分
に補完できる、産学官連携による事業推進体制が整備できていること。

○したがって、このパターンVへの政策的支援の在り方としては、@からDの
重要事項への中小企業の取組みに対して、個別具体的にワンストップで支援す
るなど、実効性のある事業計画の策定とその実施化に係る様々な支援ニーズに、
的確に応えることができる体制の整備・運営を挙げることができるだろう。
既存の支援体制や支援メニューでは不足する点を明確化し、支援機能を拡充
強化していくことが重要となる。

【むすびに】
○県内中小企業の、新技術・新製品の開発・事業化による収益性向上への取組
みの多くは、残念ながら失敗に終わってしまっているのが現実である。その失
敗事例を減らし成功事例を増やしていくためには、失敗原因を分析し、失敗を
避ける方策を見出し、その方策を実際の政策的支援の中に効果的に組み込む
ことが重要となる。

○そこで今回は、新技術・新製品の開発・事業化の着手前に論理的に策定され
るべき事業計画の不備等が、失敗の大きな原因となっている現実に着目し、そ
の改善に資することを目的として、開発・事業化の3つのパターンの視点から
論じてきた次第である。

○県内中小企業の新技術・新製品の開発・事業化による収益性向上への政策的
支援の在り方に関する、産学官の方々による論理的な議論が活発化し、その議
論の成果が、長野県の政策的支援の他県等に対する優位性の確保など質的高度
化に効果的に反映されることに期待したいのである。


ニュースレターNo.236(2026年1月5日送信)

長野県における化粧品産業振興に係る政策的対応の在り方
〜自社ブランド化粧品の事業化に不可欠な製品企画力の具備を如何に支援すべきか〜

【はじめに】
○2026年1月1日の信濃毎日新聞の第1面に「信州発 化粧品を世界に 信大
工学部 研究センター設置へ 人材育成や地場産業化」という見出しで、化粧
品に応用できる複数の基礎研究を積み重ねてきた信州大学工学部が、化粧品の
新たなブランドづくりや、科学的なアプローチからの専門人材の育成、地場産
業化などを進める旨の記事が大きく掲載されていた。

○そこで、今回は、このような信州大学の動きを契機として、長野県に化粧品
産業の集積を促進するためには、地域産業政策の視点から、産学官が連携して
どのような取組みをすべきかについて、検討・提案してみようと考えた次第で
ある。

○長野県が形成を目指すべき化粧品産業の集積の姿については、@優位性のあ
る新規化粧品(自社ブランド品)の企画・開発・製造・販売等の全ての工程を
有する、フルセット型の産業集積を目指すのか、あるいは、A県外の大手化粧
品メーカー等の製造工程の一部(例えば、原料の前処理など)を担ったり、他
社ブランド製品の製造を専門的に受託(OEM:Original Equipment Manufacturing)
したりする、いわゆる協力工場的な産業集積を目指すのか、など様々な姿を提
示することができるだろう。

○以下では、化粧品の企画・開発・製造・販売という、一般的な事業の流れに
沿って、どのような政策的視点から、化粧品産業の集積促進に取り組むべきか
について検討・提案してみたい。

【化粧品の企画・開発・製造・販売という事業の流れと産業構造の特徴】
○最初に、化粧品とは何かを確認しておきたい。化粧品とは、体を清潔にした
り、外見(容姿)を変える目的で、皮膚や髪などに塗布したり散布したりする
もので、人体への作用が緩和なものをいい、その製品の形体や効能は多岐にわ
たる。
 また、化粧品は、身体を美化するという従来からの機能を超えて、心(満足
感、自信など)に働きかけ、高齢者も含めて多くの人々のQOLの向上に資する
機能も有していることが確認されている。

○その化粧品の企画・開発・製造から販売(市場開拓)に至る事業の流れにつ
いては、一般的に以下のように整理することができるだろう。
[企画段階]
@事業化する化粧品のコンセプト(製品が提供する価値や特徴等)を決定する。
[開発段階]
Aそのコンセプトに基づき、化粧品の成分や配合(処方)を決定する。
Bその化粧品の有効性・安全性を確認する。
Cそのコンセプトに相応しい容器・パッケージのデザインを決定する。
[製造段階]
D決定した処方に基づき、量産体制を構築・実施化する。
[販売段階]
E事前に検討・決定してあった販売戦略に基づき、市場開拓を展開する。
F販売後の顧客の反応を製品改善にフィードバックする。

○経済産業省の有識者検討会が2021年にまとめた「化粧品産業ビジョン」で
は、日本の化粧品産業の構造的特徴として、資生堂グループ、花王グループ、
コーセーグループ、P&G等の少数の大企業と、多数の中小企業によって市場
を形成している点を挙げている。また、化粧品の製造においては、OEM企業
の役割が大きい点も特徴として挙げられている。

○同ビジョンでは、化粧品市場は、異業種からの参入が盛んである点も特徴
として挙げられている。2005年施行の改正薬事法(薬機法)によって、製造
工程を外部に委託すること(OEM)が可能となり、大規模な設備投資を行わず
に化粧品を製造することが可能となったことで、異業種からの参入が加速さ
れたのである。
※化粧品事業を始めるのに必要な許可:例えば、OEM企業側が、化粧品製造
販売業許可を取得していれば、販売企業は、許可を取得しなくても自社ブラ
ンドとして化粧品を販売できる。

○近年、ナチュラル・オーガニック化粧品(有機栽培された植物から抽出
された成分を主原料とする化粧品)などについては、大手化粧品メーカーの
ものに拘らず、自分の好みに合ったものを選定する消費者が増えてきたこと
などから、小規模な事業者でも、自社ブランド化粧品を販売しやすくなって
いる。

○たとえ小規模であっても、化粧品メーカーとなるためには、化粧品の企画・
開発・製造・販売の流れの中の最初の段階、すなわち、事業化を目指す、優
位性のある新規化粧品を企画する段階をクリアできる能力を有することが不
可欠となる。
すなわち、企画段階以降の開発・製造・販売段階に係る技術力や経営力が
いかに優れていようとも、企画力が無ければ自社ブランド化粧品のメーカー
としての成功はできないということなのである。

○したがって、長野県における地域企業が、地域資源を活かした化粧品の商
品化を短期間に具現化するためには、消費者の潜在的あるいは顕在的な化粧
品ニーズを把握し、それに応える製品コンセプトを具体的に決定するなど
、 新規化粧品の企画力を、社内外の英知を活用して整備し、製造はOEMで対応
し大規模な設備投資を必要としないというような、経費節約型のビジネスモ
デルを選択すべきことを提案できるのではないだろうか。

  ○要するに、大手化粧品メーカー等の製造工程の一部を担う下請的なビジネ
スではなく、小なりといえども、自社ブランド化粧品のメーカーとなること
を目指すのであれば、優位性のある新規化粧品の企画力を如何にして具備す
るかが、最大の経営課題になるということなのである。

○以上の、化粧品の企画・開発・製造・販売という事業の流れや、産業構造
の特徴に基づくビジネスモデルの在り方などを参考にして、長野県が目指す
べき化粧品産業の集積の姿と、その実現への政策的対応の在り方についての
議論の進め方について、以下で整理してみたい。

【長野県が目指すべき化粧品産業の集積の姿と、その実現への政策的対応の在り方についての議論に資するために】
○長野県における化粧品産業振興に係る政策的対応の在り方について議論す
る際には、以下のような二つの視点に分けることで、議論が論理的に展開で
きるのではないだろうか。
[視点1]自社ブランド化粧品を製造できる地域企業を育成する視点
[視点2]大手化粧品メーカー等にとって技術的に不可欠な協力企業になれる
地域企業を育成する視点

○以下に、その議論に資するために、[視点1]と[視点2]からの政策的対応
の事例について提示してみたい。

【[視点1]からの政策的対応の在り方の事例】
○自社ブランド化粧品を製造できる地域企業を育成する視点から、産学官が
連携して政策的に対応すべき事項の第1は、化粧品分野に参入を目指す地域
企業が、優位性のある新規化粧品の企画力を具備できるよう、必要な人材の
確保・育成を支援することである。

○第2は、社内人材のみでは、優位性のある新規化粧品の企画力を十分に
具備できない地域企業に対しては、社外の産学官との連携によって、不足す
る企画力を補填できるように支援する体制を整備することである。

○第3は、地域企業が、地域資源を活用した新規化粧品を企画するのに有用
な、各種の情報を収集できる場を提供することである。

【[視点2] からの政策的対応の在り方の事例】
○大手化粧品メーカー等にとって技術的に不可欠な協力企業になれる地域企業
を育成する視点から、産学官が連携して政策的に対応すべき事項の第1は、
地域企業が有する様々な高度・専門的技術を、大手化粧品メーカーの製造
工程の改善に活用できるように、化粧品メーカーサイドの技術ニーズと、
地域企業サイドの技術シーズとのマッチングをコーディネートする支援体制
を整備することである。

○第2は、その技術ニーズと技術シーズのマッチング活動を通して、化粧品
メーカーサイドが求めている様々な技術の具体的内容を把握し、それを地域
企業に提示し、地域企業が、化粧品産業分野に参入するのに資する新規技術
の開発・事業化に、効果的に取り組めるよう支援することである。

○第3は、地域企業が開発した、化粧品メーカーの工程改善に資する新規
技術を、化粧品メーカーサイドに提示・提案できる場を提供することである。

【むすびに】
○化粧品は、身体を美化するという従来からの機能を超えて、心(満足感、
自信など)に働きかけ、高齢者も含めて多くの人々のQOLの向上に資する
機能も有していることから、社会的価値の提供という視点からも、化粧品
産業の更なる成長が期待されている。

○信州大学が蓄積してきている、化粧品分野に活用できる技術シーズを、
地域企業による、自社ブランド化粧品の事業化や、大手化粧品メーカー等
の協力企業になることなどに効果的に結び付けることができるか否かは、
長野県の政策的対応の在り方にかかっていると言える。
 したがって、まずは、長野県における化粧品産業振興に係る政策的対応
の在り方に関する、産学官による議論が活発化することを期待したいので
ある。