調査研究報告


当面は、過去の調査研究の中から、ニュースレターのテーマに関係するものを掲載しますが、
今後、新たに調査研究した結果なども順次掲載する予定です。


T「地域産業政策研究所の必要性」関係

1 地域の地域戦略策定体制の整備を(1986年4月)
 (地域産業政策の私的研究(No.1)(1981年〜1986年)73ページ)

  産業構造のハイテク化、情報化社会への対応策として、政府各省が地域に対して様々な
 地域戦略メニューを提起している。テクノポリス、テレトピア、インテリジェントシティ、
 グリーントピアなど構想は様々、華やかである。各構想間の関連性、調整についての検討
 が十分でない点に若干問題が残ることは別として、政府が真に地域の内発的発展を願うの
 であれば、地域に次のような能力を育成することをまず考えるべきではないだろうか。そ
 れは、地域が国のメニューの中から自らの判断で自らに適した戦略を選定し、それを独自
 に策定する地域特性を活かした政策の中に位置づけ、独創的にその戦略を具体化していけ
 る能力のことである。この能力を有することなくして、質的に高度な行政を展開できない
 ことに地域は早く気づかなければならない。
  このようにして、地域が地域戦略策定能力において比較優位を有することが、戦略自体
 の質を高め、その地域の産業体制と生活環境に比較優位を与えることを可能とするのであ
 る。地域戦略策定上必要な調査研究を中央のシンクタンクに委託することしか知的手段を
 持たないようなレベルの地域が、どうして地域の特性を活かした独創的な戦略を策定でき
 ようか。
  地域戦略策定のための調査研究を継続的に実施する能力を有する公的調査研究機関を有
 する地域はいったいいくつあるのだろうか。国も地域も地域戦略策定に係る地域の知的レ
 ベルをアップするために、ソフト、ハードの両面から体制整備をすることを真剣に考える
 べき時期になっているのではないだろうか。


【参考】地域産業政策の私的研究(No.1)(1981年〜1986年)の総合目次

  1 はじめに
  2 地域経済の課題(1981年10月)
  3 世界の中での日本の明日を考える(1982年10月)
  4 80年代の日本経済と中小企業(1983年10月)
  5 太平洋経済の時代と日本の役割(1984年10月)
  6 地域産業構造の質的高度化への挑戦(1985年8月)
  7 新しい産業展開の時代とその課題(1985年10月)
  8 雑感
   (1)地域産業構造ハイテク化への課題(1985年5月)
   (2)地域産業ハイテク化への基本的課題(1986年3月)
   (3)テクノハイランド構想に欠けた視点(1986年3月)
   (4)産業廃棄物処理システムの確立を(1986年4月)
   (5)地域の地域戦略策定体制の整備を(1986年4月)
  9 おわりに



2 地域産業レベルの国際協調(エコノミスト’87.2.17 談話室)

  円高や貿易摩擦から、国際分業体制が急激に進展し、地方は地域産業の空洞化とそれに
 由来する雇用の空洞化への対応として、地域産業の新たな活性化に取り組んでいる。
  それぞれの地域産業としては、今後、海外現地生産、部品や製品の輸出入などを通じて、
 海外の地域産業との間に比較優位のある国際的分業ネットワークを形成することに、特に
 配慮していく必要があろう。そして、このネットワークを将来的に発展させていこうとす
 る以上、相手の地域産業との共存共栄を図らねばならず、そのために、地域産業政策の国
 際協調が不可欠となる。また、このような地域レベルからの国際協調型産業構造形成の試
 みは、国家間の経済摩擦解消への草の根的アプローチとして重要な役割を果たすことにも
 なろう。
  地域産業政策の国際協調を今後具体的に進めていくためには、まず第一に、地方自治体
 等産業政策担当機関の職員を派遣しあい、相互の地域産業の実情、地域産業政策策定プロ
 セスなどを研修することである。この学習過程を通じ、共存共栄のために、相互の地域産
 業体制が目指すべき方向を見いだすのに必要な知的ネットワークが形成されうるのである。
  次に、地域産業政策の国際協調のあり方について、国際的に検討、研究する「場」を創
 出する必要がある。このような「場」が、地域の人々、企業に、地域政策レベルでの国際
 協調の必要性を理論的かつ容易に理解できる機会を提供するのである。
  そして最終的には、政策協調を具体的に推進する機関の創出が必要になる。地域の意思
 を具現化していくためには、地域レベルでの国際的努力が必要とされる現在、地域として、
 地域ならではの新たな国際的機関の創出に挑戦すべきであろう。



3 新しい地域産業政策の在り方について(No.2)(1996年11月)

(1)「地域産業政策の最終目標」は、「地域産業の比較優位性確保」を通した物的・質的
  に豊かな地域社会の形成である。ネットワーキングとグローバリゼーションの当然の帰
  結として、ハイテク地域が国境を超越して「地域の優位性」を競う時代になっている。
  「地域の優位性」は、その地域の産業活性化・新産業形成に関するシステム(言い換え
  ると「活性化装置」のようなもの)が、他地域に比して優位性を有することによって達
  成される。そのシステムの優位性は、地域産業活性化に関する産・学・官の各機能の強
  化と相互連携から生まれる機能の強化によって達成される。

(2)目標達成のためには、早期に目標を達成するための戦略・戦術としての、産・学・官
  の役割・活動の在り方等について明確に示す「地域産業政策」の比較優位性を確保する
  必要がある。地域産業政策の比較優位性を確保するためには、地域産業政策の「策定体
  制」と、その政策内容の「実行体制」の比較優位性を確保する必要がある。
     しかし、まず、優れた地域産業政策の「策定体制」を整備することが最優先課題とな
  る。最適な政策内容の「実行体制」については、政策策定の過程において、既存の機関
  の活用や新機関の設置など、十分に検討できるからである。

(3)政策策定体制の優位性を確保するための有力な具体的手段とは、政策提案型のシンク
  タンク(調査研究機関)を設置することである。そのシンクタンクの研究テーマは、当
  然、地域産業の創造的発展(新分野展開)を促進することに資する施策となる。また、
  その地域に地域産業政策に関する研究活動のメッカを形成することにも取り組むべきで
  ある。内外の産・学・官の各分野で地域産業政策に何らかの形で携わっている人々が一
  堂に会し、地域産業振興に関する広範な課題について情報交換し、相互の地域産業政策
  とその具現化手法の向上による地域産業振興促進に資する場を形成するのである。



4 新しい地域産業政策の在り方について
(年報自治体学会第10号1997年3月31日発行 公募論文)の抜粋

1地域産業政策を取り巻く環境
(1)全国一律的な産業政策の有効性の終焉

 ○地域産業政策の究極的な目標は、地域経済を活性化しその自立的発展を可能とし、地域
 住民の生活の物的・質的豊かさの向上を図ることである。
 ○現在は、完成品メーカーの多くが、世界最適地生産体制の構築を進め、グローバルな分
 業システムが、アジア地域を中心に国境を越えて形成されつつあり、親子関係に例えられ
 うる系列に依存した従来の下請企業の存立基盤が崩れつつある。このような状況の中で、
 地域の中小企業が地域に留まって生き残っていくためには、系列に依存した単なる「下請
 型」企業ではない創造的な「自立型」企業、高いプロダクトイノベーション能力を有する
 企業への転進が不可欠となる。そして、この転進の円滑化を促進するような地域産業政策
 の強化が必要となる。
 ○創造型の中小企業の育成のための地域産業政策については、企業の定型的業務の遂行能
 力の向上への支援を中心とする、従来からの全国一律の支援策ではなく、今までだれも事
 業化していない新たな市場分野の創造に挑戦する開拓者精神旺盛な企業を育成することに
 資するものとなる必要がある。
 ○それぞれの地域の創意を結集した、それぞれの地域特有の地域産業政策に基づく中小企
 業支援策が不可欠なのである。それぞれの地域が、それぞれの地域特有の中小企業育成に
 関する顕在的・潜在的なニーズを先取りして、地域の特質を活かし、きめ細かな小回りの
 効く支援策をタイムリーに展開していく方が、創造型の中小企業を育成することについて
 は、より効果が期待できると考えられる。

(2)キャッチアップ型の産業政策の有効性の終焉

 ○従来の産業政策において、しばしば提起されてきたような、産業界として目指すべき新
 たな技術・製品・産業、いわば産業振興のターゲットを他の先進国の産業の中に見出すこ
 とは、ほとんど不可能であろう。したがって、産業界自らの努力によって潜在的な市場ニ
 ーズの中から新たな市場分野を創造していかなければならない状況になっている。
 ○旺盛な起業家精神を持ったユニークな企業が、地域に数多く生まれ、ユニークな事業を
 起こそうとする独創性と活力を有する人材が数多く輩出され、みんなが自由な発想でリス
 クを恐れず活動し、成長していきやすい環境を整備することが、フロントランナー向けの
 産業政策の基本理念として求められることなのである。

(3)様々な独創的地域産業政策の集合による日本産業の振興

 ○それぞれの地域が、他地域に比して優位性を有する独創的な地域産業政策を策定し、そ
 れを具現化していくことができるかどうかに、今後のその地域の産業振興のレベルが大き
 く左右され、ひいては国全体の産業発展のレベルが左右されると言える。
 ○このことを地域産業政策の策定作業の観点からみれば、その地域が如何にして比較優位
 性のある地域産業政策の策定能力を整備し、それを維持・向上させていくことができるか
 どうかが、当該地域の産業振興レベルを大きく左右するといことである。国は、地域企業
 に対する直接的な支援策よりも、地域の地域産業政策策定能力の向上のための支援により
 力をいれるべきであろう。

(4)地域産業政策の比較優位性確保の視点

 ○地域産業政策の比較優位性を確保するための一つの視点として、従来の地域産業政策の
 構成要素の一つである、企業の技術高度化等を目的とした技術振興政策の位置づけの転換
 を提起できる。
 ○中小企業が目指す新たな市場は、高齢化の進展や環境保全の要請など社会的な課題への
 対応の中に十分に存在している。それらの課題の解決に貢献する事業を産業として成長さ
 せるためには、産業振興の手段としてのみ位置づけられていた従来からの技術振興政策に
 ついて、豊かな地域社会の形成に貢献する技術振興という視点からも政策策定・具現化に
 取組めるようにすることが必要になっている。
  その新しい技術振興政策を如何に位置づけ、具現化できるかが、新たな市場開拓を目指
 す地域産業政策の優位性を左右することになる。

2地域産業政策策定主体としての地方自治体の新たな取組み
(1)地域産業政策策定主体としてのグローバル化

 ○地域企業を含む日本産業全体の生産システムが急速にグローバル化している状況に対応
 し、地域産業政策を担当する行政サイド自体が、如何にしてその視点をグローバル化しう
 るか。どうしたら、行政サイドが、グローバルな視点で地域産業政策を策定し、それを効
 果的に具体化していくことができるようになるのか、ということが第一の課題と言える。

(2)地域産業政策における技術振興の新たな位置づけ

 ○高齢化、環境保全等、今後の日本社会の存立を左右する重要課題への対応のためには、
 技術の発達の成果を利用することが極めて有効であることは、誰もが認めるところであ
 る。その技術の利用が新たな市場を開拓し、様々な産業を生み成長させていくことが期
 待できる。
 ○地域における社会貢献を目的とした技術振興への取組みが、地域企業が国際的に比較
 優位な技術力を保有し、新たな市場を開拓し、将来的かつ安定的に発展していくことに
 大きく貢献することが期待できる。
 ○技術振興政策は、今や産業政策としての地位に留まらず、地域住民の生活の質的向上
 のための様々な政策と融合化し、当該政策の実効性を高めるための有効な手段としても
 位置付けられなければならない。

(3)今日求められる技術振興のための政策策定システム

 ○地域生活の質的向上に技術を合理的に活用していくためには、第一に、地域生活の質
 的向上の障害になっている問題と、その解決手段となるべき技術を合理的に結び付ける
 システムの創出が必要になる。そして、第二に、そのシステムの活用によって開発され
 た技術的成果が、市場原理の下に広く普及しうるようにするシステムも創出する必要が
 ある。
 ○現状においても様々な行政部門が、それぞれの担当分野に関連した地域社会の課題を
 把握し、その解決策を日夜真剣に検討している。しかし、その解決策の実効性を高める
 ために、技術が重要な役割を果たすことを認識できたとしても、地域においてどのよう
 な技術的解決策の策定、提供が可能であるかどうかを十分に把握できないため、地域社
 会の課題解決のための施策に現実的な解決能力を与えることが、うまくできないでいる
 のが現状であろう。

(4)社会貢献型の技術開発成果の普及促進システムの構築

 ○地域の産業界においては、市場性についての見通しがたたず、リスクの大きいテーマ
 に係る技術開発には取組みたがらないというのが常識的であろう。
  したがって、市場原理の下の企業活動、特に、地域企業側の一方的な価値判断による
 市場ニーズの把握とそれに基づく新たな技術開発活動にのみ任せていては、地域住民が
 求める技術的成果が円滑に地域に提供されることを期待することは困難であろう。
 ○そこで、地域社会の課題の解決策を技術的観点から検討し、必要とされる技術(技術
 ニーズ)と技術シーズを結びつけ、その成果の市場性についても検討するという、最初
 でしかも極めて重要な段階については、行政が主導的役割を果たし、産業界との連携の
 下にその段階を強力に推進するというようなシステムを構築しておくことは、社会貢献
 型の技術開発の促進のための有効な方策の一つになろう。
 ○そのシステムにおける検討過程を通して、その技術開発について、その地域振興政策
 の主旨と整合し、かつ行政サイドがその地域振興政策を具現化したいという強い意思を
 有するという、いわば技術開発成果の普及にとっての追い風も背景とした、総合的な経
 済性を有することを産業界が確認できれば、その技術開発には、製造業だけでなく流通
 業など幅広い地域の中小企業の参加を促進できるだろう。経済性の検討など技術開発の
 初期の段階から様々な業種の企業の協力があってこそ、その技術開発活動がより合理的
 になされるようになることはもちろん、その成果が市場原理の下で円滑に普及しやすく
 なる。
 ○このような新たな技術開発システムは、地域社会の課題解決のための実験的な取組み
 とも位置付けることができ、そして、新市場分野創出の可能性のある実験的取組みに地
 域企業が参加することから、地域企業に新技術・新製品開発への挑戦の機会が提供され
 ることにもなり、地域経済活性化に大きく貢献できることになる。

(5) 地域振興政策への技術政策の融合化

 ○豊かな地域社会形成のための政策を策定するということは、その実現性を高める技術
 的対策の実施計画を策定することと並行してなされなければならない。そのような技術
 的な必要事項を十分に包含した総合的な地域振興政策を策定し、かつその具現化の進行
 管理が合理的になされるような行政システムの創出が必要になる。
 ○シリコンバレーのスマートバレー公社の事例なども参考にして、地域の様々な人々に
 よる地域振興活動と技術振興活動の円滑な融合システムの創出と、その効果的な運営体
 制の整備に取組み、地域社会の課題の解決方策を具体的な技術開発計画に取りまとめ、
 地域の産学官に対しその計画への参加を呼び掛け、その進行管理もできるような機能の
 早期具体化が必要となる。

3地域産業政策策定機能の強化の在り方

 ○地域産業は、プロセスイノベーション型からプロダクトイノベーション型への転換を
 迫られている。そして、それに対応して地域産業政策は、キャッチアップ型からフロン
 トランナー型へ転換することを迫られている。
 ○長野県の地域産業は、業種的、技術的に多種多様な企業集積を有しており、技術開発
 の内容に応じて様々な企業グループを形成することが可能となる。要するに、地域内で
 の技術的ネットワークの形成によって、どのような技術開発にも対応できる潜在的能力
 を有している。
  この技術開発能力を顕在化させ、プロダクトイノベーション型に誘導し、地域社会の
 課題解決に貢献する技術開発活動を活性化させ、地域産業の比較優位性を高めるための、
 産学官連携活動の拠り所となる新たな地域産業政策、フロントランナー型の地域産業政
 策が必要とされている。
 ○今後の地域の産業環境がグローバルな要素に大きく左右される不透明な状況の中で、
 地域社会の抱える課題を把握し、その解決策を提供する技術の振興とその成果の内外へ
 の普及による地域経済の活性化を達成するために必要なシステムとその運営方法を明示
 した地域産業政策を策定し、そのシステムを実際に構築・運営し、世界経済の中で比較
 優位な地域産業を形成していくためには、自然科学・社会科学など幅広い分野の有能な
 専門スタッフから構成され、学術的なバックボーンをも有する地域産業政策研究所のよ
 うな機関が必要になる。学術的なバックボーンを必要とする理由は、地域産業政策が、
 時流に乗ることだけに傾くことを避け、確固たる理論と信念の下に策定され、具体化さ
 れることが極めて重要なためである。





U「産業振興と環境保全の整合性」関係

1 地方自治体環境行政の今後の戦略―創造的分野への新たな進出―
(1987年8月)の抜粋

○内容目次
1はじめに
2行政対応の質的高度化
(1)「原因者としての企業」への対応
(2)「原因者としての市民」への対応
(3)環境監視体制の在り方
3地域戦略としての環境戦略
(1)地域産業政策と環境政策との整合性
(2)環境政策のグランドデザインの提示
(3)環境分野のシンクタンクの創設
4おわりに

○「3(1)地域産業政策と環境政策との整合性」の抜粋
@地域資源の活用という立場からのアプローチ

 環境資源が豊かで、それに係る産業が集積している地域にとっては、その環境資源の保全
・活用の在り方が、その地域の将来的発展に大きく影響することになる。そこで、環境資源
の利用によって業を営んでいる者(観光業、農林水産業など)と環境行政サイドが一体とな
って、それら産業の安定的な成長を促進する上で必要な、環境に関する情報交換や調査研究
をする場(環境資源活用懇談会(仮称))を、環境行政出先機関管内別に設置することが、
地域振興戦略の一つとして提起されうる。
 そこでは、定期的に環境資源活用の今後の在り方、現在の問題点、必要な対策等について
検討した上で、実施すべき事項を円滑に実行に移し、環境関連の地域産業の一層の活性化を
図るのである。なお、このことは、当該産業の発展を促すのみならず、結果的に、地域環境
が良好に保たれるという恩恵をももたらすのである。
 このような体制整備に際しては、問題点解決のために必要な技術開発、データ収集等につ
いては、公設試験研究機関、地元市町村、関係業界団体等の協力が得られような、また、当
該産業サイドで具体的な研究活動をしようとする際には、公的な助成を受けられるようなシ
ステムにしておく配慮が必要になろう。

A環境保全関連企業育成という立場からのアプローチ

 排水処理、ばい煙処理等の施設の開発・施工・メンテナンス、廃棄物処理、基準適合状況
チェックのための各種検査など、地域環境保全のために必要な活動は、その多くを民間企業
に依存している。これらの企業活動が適正に継続されないと、環境汚染の蔓延等取り返しの
つかない事態にもなりかねない。したがって、これら企業の活動が量的に十分に確保され、
かつ、その質的内容が一定水準以上に保たれることが、地域環境保全上極めて重要であり、
これら企業の育成に対する行政の対応強化は、単に地域経済振興という以上に、環境保全対
策上も非常に有意義なことと言える。
 また、環境汚染防止関連設備は、地域の実情に合った性能、システムを有するものが求め
られる。大規模なものは別として、地域に数多く普及するような簡易・小規模なものは、で
きることなら地域の企業で開発・生産されることが望ましい。すなわち、そのような開発・
生産体制を地域が有することは、設備のメンテナンスの徹底、地域のニーズを反映した技術
改善・開発に対して効率的に機能し、地域環境保全に技術面から強力にバックアップできる
という比較優位な環境保全体制の整備につながるからである。
 そこで、地域環境問題解決に貢献する技術開発への、地域企業の取組みを活性化するため
に、行政として何らかの助成措置等を考えることは有意義なことであろう。

○「3(2)環境政策のグランドデザインの提示」の抜粋

 地域産業や住民に、更なる産業の発展や生活の質的向上への夢を与え、その実現への期待に
応えうる環境行政を、今後中長期的に効率的に実施していくためには、まず、その指針とな
る環境行政のグランドデザインの提示が必要になる。そのグランドデザインについては、自
治体の関係部局はもちろん、関係業界等の理解を得た上で作成し、その後の政策具体化の過
程で協力や支援を得られるようにしておくことが、十分な政策的成果を得るためには極めて
重要なことである。そのためにも、地域振興戦略としての新しい環境政策の策定という基本
姿勢を明確化して、関係部局、関係業界団体等から構成される「環境政策のグランドデザイ
ンに関する研究会(仮称)」を創設し、その場において、他部局の地域振興関連施策との整
合性を有する、環境分野の諸施策の在り方と、それらを他部局との協調の下に実施化してい
くための計画について検討することが必要になる。このことは、環境政策のグランドデザイ
ン提示への一つのアプローチ手法として有効であろう。
 このグランドデザインの提示によって、環境の保全や創出、環境資源の活用からもたらさ
れうる、豊かな地域生活や活発な地域産業の姿をアピールし、環境政策の地域戦略的重要性、
地域振興における環境行政の役割の重要性に対する認識を、地域産業や住民に深めてもらう
とともに、その協力を得ながら強力に政策を遂行し、現実的に地域振興に貢献し、実績を積
み上げていかなければならない。
 財政的に厳しい時、このような戦略的努力なくして、環境行政の将来的な有効性、存在意
義をアピールし、環境保全体制の整備、充実を図っていくことは極めて困難であろう。

○「3(3)環境分野のシンクタンクの創設」の抜粋

 環境政策については、産業政策等を単に補完するものとしてではなく、それらの経済的・
社会的な影響・効果を環境保全との関係の上から評価し、バランスある地域の発展を促進す
る機能を果たすべきものとして、より高次元な立場から議論されなければならない。したが
って、環境政策の立案には、高度な知識とその柔軟な応用、更には豊かな創造力が必要とさ
れる。また、人々の価値観、ライフスタイルは多種多様化し、産業構造も複雑に変化してお
り、環境行政にも質的に高度な対応が求められている。
 このようなニーズに十分に対応していくためには、当然、質的に高度な環境政策の策定機
能が必要とされる。その機能の充実の一方策として、環境分野のシンクタンクの創設が提起
されるのである。自治体組織においては、スタッフが日々の懸案事項に追いまくられ、総合
的な観点から、環境政策の立案を論理的に追究するような仕事には、なかなか従事できない
のが現実であり、このような場当たり的組織の改善対策という意味からも、シンクタンクの
創設には意義が認められるだろう。そのシンクタンクは、多くの専任スタッフを抱えた、大
きく固定的な組織である必要はない。広く環境問題に関して情報交換できるネットワークを
新たに形成するという、いわゆるソフト面での充実を図ることで十分対応できるのである。
例えば、地域内外の学識経験者等から幅広く意見を聞き、それらを参考に調査研究を実施し、
地域振興に結び付く環境政策を提起していけるような体制を、従来の組織の活用など工夫す
ることによって、整備していけばよいのである。
 このような体制の中枢(事務局)としては、今すぐにでも機能しうるのが、自治体の環境
関係研究機関である。これらの機関は、環境問題の専門家集団であり、また、過去からの多
くのデータを集積している。しかし、そのデータや専門家としての能力は、有効な活用と相
当な評価の機会に恵まれているとは言い難く、行政上で、より適切に活用され、社会に大き
く貢献できるようになることが期待される。また、このことは、これらの機関の研究活動の
方向を、社会的ニーズとの整合性を図りながら合理的にコントロールするシステムの創出が
必要とされていることを意味している。
 これらのことを考慮すれば、環境関係研究機関に、環境問題に総合的かつ政策指向的にア
プローチできるシンクタンク的機能を保有させることが、当該機関の活躍の場を適切な方向
に広げ、環境行政上の課題に対する、いわゆる問題解決能力を著しく増大させることになる
と考えられる。また、このことは、合目的的な調査研究能力の拡充を通して、当該機関の地
域社会への貢献度を拡大し、かつ、その存在価値を強力にアピールすることにもなる。そし
て、自治体の環境関係研究者の自己実現の機会は、アカデミズムの中にではなく、このよう
な現実的な調査研究システムの中に見出されるべきものと考えられるのである。