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■「僕の思い」
僕には5才になる息子がいます。
子供ができて、やっと気付いたんだけど、『食べ物』っ
て大事だよな、って思うのです。決して贅沢なものを食わして、グルメな人間にしよ
う、というんじゃなくて、質素でもいいから、まっとうなものを、食べさしてあげた
いな、って思うのです。
知り合いの魚屋さんからは、『頭のついてない、切り身の魚はねえ、、』とか言われ
ちゃうし、親戚のオバサンは、自分とこ用に無農薬の米作ってるってゆーし…。そー
ゆーの聞くと、さすがに考えてしまいます。僕らはいいけど、コイツが大きくなって、
またその子供ができて、その子は大丈夫やろか?
かといって、ヒステリックな、半ば宗教みたいなナチュラリストのような立場じゃな
くて、フツーの生活のなかで、ちゃんとしたものを食べてもらいたいな、って思って
いるのです。
でも、無いんだよね。そーゆー普通感覚で、うん、こりゃ大丈夫!ってものが。
最近じゃ、健康ブームを逆手にとって、洗浄野菜にわざわざ泥を塗りつけて、『土付
き有機野菜』とかいって売ってるスーパーもあるし(実際に僕、見ました),『自然に
恵まれた発展途上国の有機野菜』ってのも、その国に産業廃棄物を規制する法律も技
術もなくて、工場廃水垂れ流しの川の水を、そのまま農業用水に使ってたり…。輸入
品の場合は、税関での燻蒸ってのも(消毒のことです。キツイ消毒薬をばんばんかけ
ます)問題です。本国では、使用許可されてないようなキツイ農薬を、輸出品に限っ
て使用を認めてる国もあります。まあ、疑いだすと、キリがないんだけど…。
残念だけど、現在の農作物、水産物の生産流通システムでは、完全に有機無農薬で安
全な商品を作って、売るのは不可能でしょう。土壌改善や水質改良には、100年単位
の時間がかかるってゆー説もあります。産業廃棄物とか森林伐採とか、CO2とか、人
類の消費生産システムを考え直すことも必要です。
有機無農薬が本当に安全なのか?ってゆー議論もあります。(寄生虫とか風土病ウイル
スとかね) こら、えらいことです。そんなん、とても僕の手に負えません。
で、ほな、僕の出来ることをやろって思ったんです。
僕は、生産農家の人や、家畜商の人とも、懇意にしてもらってます。牛舎にも足を運
びます。どこのおっちゃんが、どーゆー素性の牛を、どんな環境で、何を食わして育て
たのか知ってます。商社が流通さしてるボックスミート(部位別に真空包装してる箱
入りの肉)では、そんなんわかりません。親父は、食肉加工センター(いわゆる屠畜
解体をするとこね)の運営にもかかわってます。牛は自分でさばいて、筋を引いて、
スライスします。少なくとも、僕の目の届くこのくらいの範囲は、プロとして、責任
をもっていたいなって思うのです。
■「なぜ讃岐牛?」〜安全性と値ごろ感〜
一つは、その安全性に自信が持てることです。
香川県って小さいんだよね。高松からだと、車で一時間半も走れば、県内どこでも行
けちゃうんだもんね。これなら僕が、いくら忙しくても(貧乏暇無し?),生産肥育農家
まで足を運べるでしょ?
普段から、牛飼いのおっちゃんたち(おばちゃんもいます。以下略)と仲良くさせても
らってると、『この仔牛はようけ食べて、元気なんじゃあ』とか、『○○さんとこの
畑でとれた飼料食べさしたら、急に肥ったが−』とか、『△△県の●●さんからこう
てきた牛じゃ』とか、『この牛はストレスがたまっとって、ちょっと元気ないのー』
とかゆーのも、聞かせてもらえるワケです。
最近の流通事情から考えると、どこのおっちゃんが、どーゆー素性の牛を、どんな環
境で、何を食わして育てたのかってことを正確に把握できるってことは、僕にとって、
すごくありがたいことなのです。
で、僕の方も、おっちゃんたちに、『こないだのあの牛、身がしまってて、ええ感じ
やったわー』とか、『リンパ腺が腫れてたよ。風邪ひかしたん?』とか、『腕にシコ
リがあったよ。敷藁がかたいんちゃうん?』とか、情報をフィードバックしてあげる
と、おっちゃんたちも、『うーん、餌が合わんかったんやろか?』とか、『ほな今度
は、牛舎をもっと風通しよくしてみよか?』とゆーふーに、工夫するワケです。
ね、ちょっとスゴイでしょ?データ→仮説→検証というサイクルの、ソクラテスもびっ
くりの仮説演繹法で、より良い牛が育っていく仕組みなのです。
なかには、すごく勉強熱心なおっちゃんもいて、牛舎や餌や井戸水を、有効微生物群
で活性処理してみたり、自分とこの牛の堆肥を知り合いの農家にわけて、それで作物
を作ってもらって、餌に利用したり(プチ食物連鎖ですね)してる人もいます。ほんま、
頭が下がる思いです。
讃岐牛なら、エリアもコンパクトだし、生産量も少ないし、コネクションを使えば、
僕1人でも、生産から流通消費に至るまで、全部、目を光らせることが出来るぞ!っ
て思うのです。
二つ目は、値ごろ感ですね。
和牛っていうのは、現在日本に、4種類しかありません。そのうち約90%が『黒毛
和種』ってヤツで、神戸牛も松阪牛も、もちろん讃岐牛も、同じ『黒毛和種』なわけで
す。
讃岐牛の認定は、香川県内で飼育された黒毛和種で、牛肉枝肉取引規格で、A5、A4、
B5、B4相当のものってなってます。これは数ある銘柄牛のなかでも、神戸牛や松阪牛
に次ぐ厳しい規格なのです。だから、讃岐牛が神戸市場で認定されて、『神戸牛』と
して売り出されることも、ママあります。
肉屋の僕が言うのも何ですが、同じ『黒毛和種』で、このくらいのレベルになると、
プロでも、目隠しテストされたら、銘柄まで区別できないんじゃないの?と思うので
す。
とにかく讃岐牛は、牛肉として(意外にも?)かなりスバラシイ実力を持っていると
いうことなのです。
にもかかわらず、それほど高くないのはなぜか?
おおまかに言えば、生産量が少なくて、メジャーになりきれないからでしょう。同じ
品質の商品でも、マスの流通に耐えうるだけの数がそろわなきゃ、メジャーにはなれ
ませんよね?で、一般消費者は、やっぱり同じ品質の商品なら、メジャーブランドを
好みますから(御歳暮や御中元には、同じ品物でも、スーパーやコンビニより百貨店
から送りたいって気持ちあるでしょ?)有名ブランドは高くなるわけです。
それはそれで、僕は認めてるワケで、メジャーブランドを維持していくのも、大変な
ことだと思います。
でも、普段生活の中で食べるのには、やっぱり高すぎますよねー。毎日、ロマネコン
ティや、ドンぺり飲めませんもん。チリ産や、ユーゴ産でも、捜せば、かなり美味し
くて、結構安いワインってあるし、ブランドや、グルメ本に頼って、頭でっかちになっ
てるエエかっこしぃなんかより、そっちの方がイケてるやん、って思うのです。(ビ
ンボー人の負け惜しみなんやろか?)
コストパフォーマンスって言葉があります。この値段で、あの超有名なブランド牛肉
と、ほとんどかわらないのなら(僕はむしろ、ごっつ霜降りのギトギトした牛肉より
美味しいんじゃないか?とさえ思っています。讃岐牛は、庶民のテーブルミートとし
て、月に一度くらいは、十分活躍できるんじゃないか?と思うのです。(ホントはもっ
と活躍してほしいんですけど…)
■「流通ってどないやねん!」
『黒豚』って、一時期、流通量が生産量の7倍だったときがあります。て、ゆーこと
は、『黒豚』を一般消費者が買って、7回に6回は、にせもんやった、ちゅーことで
す。以前、僕のところにも、フツーの国産の豚より、ずいぶん安いアメリカ産の『黒
豚』を売りに来た業者もいました。こんなん、許してえーんか?にせもんを掴まされ
たお客さんは『なんじゃ、黒豚ゆーても、美味しないやん』ってなるやろし、まじめ
に、丹誠込めて豚飼うてるおっちゃんたちは、どーなんねん、って思いません?
僕は、牛飼いの生産農家のおっちゃんたちと、できるだけ会ってお話するようにして
ます。彼等のほとんどは、はがゆいくらい人が良くって、自らの丁寧な仕事を台無し
にしてしまうような、商社や卸売業者の仕業に対しても『しゃーないなぁ。困ったも
んやなー』っていうだけで、泣き寝入りしてしまいます。
そんなん、ダメ!一生懸命頑張って、ええもんつくったら、それなりの評価はもらっ
て当然やし、ごまかして努力もしないで詐欺まがいの商売している人が利益をかっさ
らっていくようじゃ、そら、アホらして、後継者もでてこないって。生産と、流通と、
小売りが手を取り合ってこそ、業界のレベルアップになるのにね。
ボックスミートっていうのがあります。商社や卸売業者が扱ってる、部位別に真空包
装された箱入りの肉のことです、牛1頭を、バランスよくきれいに売りさばいてくのっ
て、けっこー難しくて、どうしても足らない部位がでてきます(トロだけのマグロと
か、エンガワだけのヒラメとかないのと一緒ね)だから必要な部位だけ、ボックスミー
トで仕入れて…っていうお肉屋さん、けっこー多いんです。スーパーや百貨店では、
ほぼ100%といっていいくらい、コレ使ってます。(僕は以前、修業時代に関西の某
有名量販店にいたので知ってます)
まあ、そらそーやわなー。
バーゲンコーナーにはあれだけお客さんが来て、たくさん買うていくわけやし、チラ
シうって、特販かけて、一定の部位だけぎょーさん売れてしまったら、残った部位は
どなすんじゃ?全部ミンチにして売るんか? てことですよね。 精肉担当のマネージ
ャーや職人さんが、いくら腕がよくても、あんだけ偏った売れ方したら、牛1頭を、
バランスよくきれいに売りさばいてくの、無理です。
で、またコレが便利なんですよー。必要な部位を必要な量だけ仕入れるんから、売れ
残り(商品ロス)ほとんど考えなくていいからね。いっぺん使こたら、やめられませ
ん(笑)。 ボックスミートなくして量販店は維持できないのが現状なんですよ。
でも、コイツがなかなかクセモノで(笑)。生産者や牛の素性や流通経路があやふや
なのね。箱入りの真空包装された部分肉見せられたって、産地や餌や肥育環境なんて
わかりませんよ。(大まかな肉質や歩留まりならわかりますけど)
狂牛病騒ぎがあったとき、問題になった地域の牛の値段が急落しました。みんな嫌がっ
て、需要がなかったんです。 そしたらここぞとばかり、そこの牛を安く買い叩いて
る業者がいたんですよ。(バッタ商売です。産地詐称して安く売りさばくつもりなん
やろね)無茶苦茶するわ、ほんまに…。
僕は、牛の素性のわからないボックスミートを使いません。 実際に僕が生産地まで
いって、安全性を確認した牛を、まるごと一頭仕入れています。 生産者や肥育環境
や餌、血統、牛の健康状態…一頭一頭全部自分で確認します。
僕は、食べ物商売をやらしてもらっていることに感謝してますし、誇りに思っていま
す。自分の扱ってる商品の安全性に、納得がいくまでこだわってやろう、って思うの
です。
■「紛らわしいぞ!銘柄牛」
ひとつには、銘柄牛っていう問題があります。(○○牛とか△△牛とかいうヤツね)
これがけっこーまぎらわしいんだけど。銘柄牛だからといって、和牛とは限らないん
だよね。なかには、正真正銘の外来種を銘柄牛としてるのもあります(いわゆる国産
外来種ってヤツね。土佐犬でも紀州犬でもなくて、日本で生まれ育ったスピッツとか
ルドックみたいなもんです)
各地のJAや、自治体の農水課が、地元畜産業の振興ってことで、めったやたらに牛の
ブランドを乱発しちゃった。なかには、企業が勝手に自社ブランドとして○○牛って
名乗ってるのもあったり、(業界人の?)僕でも『ん?何やコレ?』ッて思うよーな
ものもあったりします。だから、銘柄牛=和牛だと思って、食べてみると『たいした
ことねーじゃん?』みたいなこともあるわけです。
で、和牛っていうのは、明治、大正時代に、在来種をもとに、交配を繰り返して、日
本人の嗜好や日本の風土に合うように改良されてもので、現在4種類しかありません。
そのうち約90%が『黒毛和牛』ってヤツで、神戸牛も松阪牛も、もちろん讃岐牛も、
同じ『黒毛和種』なわけです。
同じ種類の牛って事は、神戸牛と松阪牛と讃岐牛と、たとえば、伊勢エビと車エビと
大正エビみたいに違うかってゆーと、そうじゃなくて、みんな同じ伊勢エビなわけで
す(『黒毛和種』を伊勢エビだとすると)
ほな、どこが違うんじゃ!ってなりますよね?おおまかにいって、それは肥育地の違
いなのです。
よーするに、肥育された土地の気候、風土、水、その地方独特の飼育法の違いってこ
とですよね。(神戸牛の場合はまた違ってて、あれは、別に神戸で飼育されている牛
だけじゃなくて、神戸市場で取り引きされた牛のなかで、『よっしゃ、これはええ牛
じゃあ!』って認めてもらえると、ハンコをもらえる仕組みになっています。だから、
なかには香川県産や佐賀県産の神戸牛もあります。もちろんその基準もすごく厳しくっ
て、それが神戸牛の信用になってるワケです)
でもねー、牛のランク(格付)が同じやったら、あんまり変わらんのよ、これが。
僕もいろんな牛を食べたけど、正直言って僕には区別がつきません。だって養殖され
た同ランクのトラフグのてっさを食べて(天然物の黒毛和種の牛っていませんものね)
『うむっ、これはまさしく☆☆産の養殖トラフグじゃあ!』ってわかる人がいると思
います?もし、コレを読んでて、同じ『黒毛和種』の、同じ格付けの牛肉を食べて、
目隠しテストで牛の銘柄を判別できるって人がいたら、メールください。一度ゆっく
りお話をうかがいたいと思います。(なにをえらい強気になっとんじゃ、僕は…)
しかも、またややこしいことに、畜産農家には、生産農家と肥育農家ってのがあって、
繁殖させて子牛を生産する農家と、子牛肥育して肉牛に育てる農家が別々の場合が多
いのです。てゆーことは、鹿児島生まれで島根育ちの神戸牛ってのもあるわけで、こ
うなってくると、もう何がなんだかワケわかんなくなっちゃいますよね?
…勘違いしないでね!僕は、よその銘柄牛にイチャモンつけてるわけじゃないの。神
戸牛だって、松阪牛だって、世界に誇る立派な肉用牛だと思ってます。
でも、安易な銘柄ブーム(=肉用牛のブランド化)が一般消費者にとって、まぎらわ
しいものになってるんじゃないか?って思ってるし、生産量(=流通量)が少ないた
めに、いまいちメジャーになりきれない銘柄牛になかにも、なかなかアナドレナイも
のもあるんだもんね、って密かに硬く信じているわけなのです。
P.S.
ちなみに讃岐牛の認定は、香川県内で飼育された黒毛和種で、牛肉枝肉取引規格で、
A5,A4,B5,B4相当のものってなってます。これは数ある銘柄牛のなかでも、神戸牛や
松阪牛に次ぐ厳しい規格なのです。
讃岐ビーフドットコム
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