平成2012月定例会 条例の制定及び一部改正に対する反対討論

 

 ただいま議題となっております、議案第90号須坂市教育委員会の職務権限の特例に関する条例の制定及び議案第92号須坂市組織条例の一部を改正する条例について、以下申し上げる点について大いに疑義があることから、反対の立場で討論をいたします。

 私は、9月定例会でもこの問題を取り上げ、なぜ市長部局に移管しなければ、市民と行政の共創を進めるために、市民と共に歩む生涯学習・社会教育の手法を生かすこと、共創による総合的なまちづくりの柱に生涯学習・社会教育の考え方を基本にすえ、行政内と市民に生涯学習を推進することができないのか、考えをお聞きしました。

確かに、公民館運営審議会が平成191月に出した答申の中では「社会教育、生涯学習や地域づくりのどれをとっても、行政の他の部署でも同様の推進事業を展開している部分が見られます。これを連携させ、発展させ、推進させる。今まで公民館を利用している各種団体やサークルの横の連携をコーディネートする。小学校単位におかれている施設を最大限に利用し学校との連携を更に進める。公民館主導で組織された地域づくり推進委員会などを市民主体の組織に方向転換させ、地域づくりなどを市民主導の事業に推進する。待ちの姿勢ではなく市民の声や要望を外へ出て聞き、参加しやすい事業を企画する。など、今まで以上の広い視野で検討し、コーディネートする役割を担うべきと考えます。」と提言しています。しかし、付帯意見として、公民館の教育機関としての独立性の確保をしていただきたい。と付け加えられていることも事実であります。

教育基本法第3条生涯学習の理念では、「国民一人ひとりが、自己の人格を磨き、豊かな生活を送ることができるよう、その生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、その成果を適切に生かすことができる社会の実現が図らなければならない。」とうたっています。そのことを実践していくには、なぜ、教育委員会ではダメなのか。として、社会教育・生涯学習部門を市長部局に組織替えしなければならない理由をお尋ねしました。

市長の答弁は、組織替えをすれば今まで以上に事業の連携や効果的な実施ができると思う。そして、その実例をいくつか挙げ「こうすればよかった」「こうしたから良かった」と言っています。また、教育委員会自身がどういう目的であるかという点については、「教育の独立性、行政機関の独立性、行政委員会の自主性、そういうものを考えた場合に、市政全体としてやる場合と教育委員会が独立性を持たなければいけない部分がある。市長が教育委員会のほうへいろいろなものを口出しするということ自体が、教育委員会の設置そのものの精神に反するということになるわけであります。」と答弁しています。ということは、市長は教育委員会に口出しはできない、だから市長のやりたいことができないから、市長部局にするんだという理屈になってしまいます。

そのことを強調するなら、市長が自信を持って進めている「農業小学校」の取り組みをどう説明されるのでしょうか。この取り組みは、教育委員会子ども課が主管して取り組まれています。市長は常日頃この取り組みは非常にうまく言っていると全国に情報発信しています。そのことは教育委員会にあっても、市長部局との連携がうまくいっていることを、自ら証明していることではないでしょうか。

2点目は、今定例会におけるこの問題に関する私の一般質問に対して「生涯学習の推進に関する事務事業は、教育委員会の職務権限ではない」とか「学校教育と社会教育を除く生涯学習の支援」とか「狭い意味での生涯学習、広い意味での生涯学習」などと、自分の都合の良い解釈で「生涯学習」を使い分けた答弁をしています。また、総務文教委員会の審査の中でも、社会教育と生涯学習はまったく別物のような答弁を繰り返しています。

そもそも生涯学習という考え方は、1965年パリでの第3回成人教育推進国際会議で「生涯学習について」とした会議が持たれ、今後「生涯教育」という構想が承認されたことに始まっています。日本では、1971年の中教審答申で「今後の社会教育の振興について生涯教育の始点にたった体系化のために、家庭教育・学校教育・社会教育の有機的な協力関係が必要である」とか、「学校教育への生涯教育の視点の導入」などが提言されました。さらに1981年には中教審から「生涯教育について」の答申が出され、生涯教育と生涯学習の考え方が明記されています。その中で、生涯学習の目標を「学習社会の形成」とし、学習社会とは、教育するのは学校だけでなく、社会を構成しているいろいろな部門、家庭・学校・社会教育施設・一般行政・企業・民間教育産業など、いろいろな部門が国民のために学習の機会を提供し、教育活動に参加していく社会である。としています。そして、1988年には文部省組織法が改正され、社会教育局が廃止・生涯学習局が新設されました。そのことが全国の教育委員会へ波及し現在の生涯学習課へと名称変更が行われました。

これらのことを踏まえれば、生涯学習と社会教育・学校教育は一体のものであり、教育委員会の職務権限である「その他社会教育に関すること」に合致しているといえるのではないでしょうか。

3点目、この組織改正に関しての原案は市長部局から出されていることに対して、教育委員会事業への意図的な介入の意思が感じられます。今までの答弁や、職員・市民への説明会資料でも明らかにそのことが伺えるのではないでしょうか。

その一つは、移管のねらいにとしている、「まちづくり」「産業振興」「健康づくり」等の事業と効果的に連携。市民と行政の競争を拡大。生涯学習の一層の推進。については教育委員会の職員ではできないといっているのです。まったく職員を信用していない、信頼していないことの現われで、すべてを自分でしなければ気がすまない、自分の思い通りにしなければ気がすまない独善的な発想ではないでしょうか。

私は、一般質問の中で「生涯学習まちづくり庁内推進委員会」の機能強化が先ではないかとお伺いしました。市長の答弁は、「組織である以上、多かれ少なかれ縦割りの弊害は発生している。庁内推進委員会が機能しなかったのは、教育委員会と市長部局との縦割りの弊害の一つと捉えている。」というものでした。この組織は、内部組織ではありますが、副市長が委員長となり庁内のすべての課を網羅したものとなっているものではないでしょうか。そのことからすれば、他人事のような反省ではなく真剣に考えなければならない問題であると思います。組織の改正有りきではなく、お金をかけない既存の組織を強化充実すべきと考えます。また、ほぼ毎週開かれている部長会議でも十分な連絡調整は可能なはずです。当然教育委員会も参加しているはずですから。

4点目、移管する理由の一つとして、「市長と生涯学習推進員との懇談会」での意見について触れられています。内容は、生涯学習推進員の皆さんから、学んだことを地域貢献に活かしたいというものです。そのことがなぜすぐに生涯学習部門の市長部局への移管につながっていくのか、まったく理解できません。生涯学習推進員の皆さんすべてがそのことを希望しているかもわかりませんので、今、まちづくり推進部で進めている、様々なまちづくり事業に個別に参加していただけば、それで済むことではないでしょうか。そのことを助言するのが市長の役割ではないでしょうか。仮に生涯学習推進員の所管が市長部局に移管されたとしても、どのような場、どのような機会で、生涯学習推進員の希望されていることが発揮されるのでしょうか。今の体制とまったく同じことだと思います。

5点目、職務権限を残しながらの補助執行とは、まったくわかりづらい仕組みであり、事務処理をより複雑にしているとしか考えられません。また市民にも理解しにくい組織体系になるのではないでしょうか。

6点目、文部科学省の中央教育審議会でも、部会報告とはいえ、教育委員会の政治的中立性はもとより、市長からの独立性を強く求めています。教育委員会制度に対するいくつかの問題点も指摘されていますが、教育の独立性は戦前の経緯から言っても完全に保障されなければなりません。仮に、生涯学習部門が市長の支配下に置かれたとすれば、自主的な学習が、市長の政策にそぐわない場合には、制限される懸念を拭い去ることはできません。

「学問の自由は、これを保証する」憲法23条にはこううたわれています。市長部局の職員が、市政に批判的な学習会を企画することができるでしょうか。市長の意にそぐわない講座を企画することができるでしょうか。職員にとってはこれから導入されようとしている「人事評価」にも大きく関わらざるを得ないことを考えたり、この間の市政運営を振り返ってみると、私には夢のまた夢のように思います。

生涯学習は自らの知識を広げ、自己の研鑽のために行われなければならないことは、誰もが否定するものではありません。だから、あらゆる立場からの独立性が保障されなければなりません。私は、教育委員会はそのために存在しており、存在する意義があると思っています。

 以上申し上げ、議案第90号須坂市教育委員会の職務権限の特例に関する条例の制定及び議案第92号須坂市組織条例の一部を改正する条例については反対するものであります。

議員各位のご賛同を賜りますようお願い申し上げます。


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